第五章 PM少女 〜PMのワリオマン、体感forベヨの三倍性能だ〜(6)
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。
梁 梨花
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。
ジン
クラスメイト。男。クラスのリーダーで、優しい
佐竹
クラスメイト。女。クラスのボス。
鈴香
ナディアの姉。高校生。
「いやあ、そうでしたか!」
風呂場の薄い磨りガラスを隔てて、玄関からお父さんの上機嫌な声が聞こえた。
午後七時。
僕はシャワーを浴びながらその声を聞いていた。
玄関のすぐそばだけど、お湯が弾ける音で、父さんの、アホみたいな、でかい声しか聞こえない。
内容は聞き取れないが、ナディアのお姉さんらしき声がした。謝っているようだ。
「とんでもない、あのバカヲタクをこんな可愛い子達が構ってくれるなんて…… 最高ですわ」
あはははー
お気楽な父さんの声にキレそうになる。
ここ数日で、増えた数々の怪我に、改めて背筋が寒くなる。
ヤンキー漫画でも、こんなに毎日殴られたりはしないぞ?
僕は、揺れる四駆の中で目が覚めた。
後部座席をフラットにし、雑に避けた荷物の中で寝かされていた。僕が目を覚ますなり、手を握っていたリーファは泣き出し、ナディアは、精根尽きたみたいに、ぐったりしてた。
病院に行くと言い張るリーファをアホかと叱りつけ、自転車の事を聞くと、リーファの会社の人が、三台とも回収してくれてるとのこと。
皆の親に連絡が行ってると聞いて、僕は舌打ちした。余計なことを。
レスリングやってりゃこんなことはたまに……ないな。レスリングマットすげえ。
けど、脳震盪ぐらいはしょっちゅうだし、みんなその後平気で練習してるし。
リーファの親は来れるわけない。日本にいる事が少ないのだ。留守を預かる人が来るのを、リーファは拒否した。自分で謝ると頑固に言い張る。
いや、どっちもいらんのに。
ナディアのお姉さんは、スクーターでやってきて、虫が鳴き始めたマンションのまえで落ち合った。
険しい顔で僕の腫れた顔を見るなり、不安そうにしてるふたりに言った。
「リーファちゃんね? はじめまして……で悪いけど、アンタ達、なにやってんの!」
と叱りつけていた。
そして今に至る。
僕はシャワーは止めずに、聞き耳を立てた。
「……僕は、リーファちゃんをよく知ってる。よっぽど許せないことをアイツがやったんだろう。ナディアちゃんは、初めて話すけど、真面目すぎるくらい真面目だね」
一旦言葉を切った。
「アイツは、帰って来るなり、『僕の言葉がマジで最悪だったから』そう言ったんだ。
アイツは僕に…… あんまりウソをつかない。僕が気にしてるのは…… 二人が今まで通りに接してくれるか、それだけなんだ」
「凛…… 君は、凛君にだけは言って欲しくなかった事、凛君に、どうしても、言ってほしかった事を、いってくれました。私」
頭を下げる気配がした。
「凄く嬉しかったです。これからもどうか、よろしくおねがいします」
「ありがとう、こちらこそよろしく……ナディアちゃんは、どうだろう?」
「うち……私はあんまりいい子じゃないです……
林堂君にワガママ言うし、いじわる言うし、看病してもらった時は吐いたものをそうじさせてしまいました…… ええんよ、お姉ちゃん。
おじさんも知ってる通りの、乱暴者だし、いっつも友達に嫌われないか、ビクビクしながら生きてます」
だから、イジられキャラで通してるのか。
僕は納得が行った。
なんの飾りもないナディアの言葉は続く。
「林堂くんは、いっつもまっすぐに私を見て、叱ってくれます。うちは、お父さんが家にいないからうれしかった。林堂くん、正直だから……」
身じろぎする気配。
「ずっと一緒にいたいです、それと!」
声の方向が変わる。
「リーファは、私と同じくらい、乱暴で林堂君にだけはひどいけど……理由なく人をぶったりしません」
「……二人とも、ありがとう。凛には勿体無いな」
その時、不機嫌な声がした。
「ダラダラと、いつまでしゃべってんねん、父ちゃん」
パリッとせんべいをかじる音。廊下をずんずん歩いて来る音がした。リーファより、低い身長、メガネにひっつめ髪、いつもの姿だきっと。
「あ、母ちゃん……家内です」
「はい、いらっしゃい。まずやらないかんことがあるやろ?
鈴香さん、お母さんこっち向かってるんやろ?必要ないから、電話して代わって。
リーファちゃんとこは、大丈夫なんやな?いらん世話やろうけど、こういうの、大人に頼りなさい。
チビっ子が背負うことやあらへん……あ、もしもし? 林堂凛の母です。うちのバカが、ご心配おかけしました……病院?こんなんで病院行く言うたらチンチン切り落としますわ。
まあ、打ったとこが頭やから、一応様子は、看ときますけどね。
もう七時やし、娘さん主人に送らすよって、晩御飯用意したって下さい。
チビどもの事、チビどもに任せましょ。この子らやったら大丈夫です。これからもよろしく。
鈴香さんに代わります……リーファちゃんこれ。下の四駆の皆さんに缶コーヒーとお茶。
お礼言うといてな。
凛! 頭打ってんのに、いつまで入ってんねん!盗み聞きしとらんではよ出てき!」
僕が顔を出すと、苦笑する父さん以外はポカンと母さんの去っていく後ろ姿を見ていた。
「男と畳は、叩けば叩くほどよーなる。んじゃ」
台風は、ドラマの続きを観に去った。
「……カッコイイ」
お姉さんが、目をキラキラさせて、呟いた。
「かあちゃ……家内には勝てないんですよ」
そう、母さんには誰も勝てないんだ。