人生ゲーム 〜メグの為に鐘は鳴る〜
「はしたないコ、って思わないでね……」
僕はどんな顔をしていいかわからず、泣きそうな顔で見上げるメグを、呆然とみつめる。
夏掛けをめくったから、当然、桜色の下着が視覚を、雪女の匂いが、嗅覚を直撃する。
言葉が喉に張り付いて、声が出ない。
……え?
今聞くのは、違うって分かってるけど、どうしても謎だから、訊ねた。
声は掠れちゃったけど。
「今の……こんな流れになる、トコだった?」
メグが、口元をへの字にして、涙を溜める。
「女のコなら、誰でもコロリですよう……ホント……バカ……」
『バカ』ってdisられて、クラっとするのは、初めての経験だ。
窓の外は、完全に陽が落ちて、多分19時くらい。
そうして、目の前の現実と、戦う僕だけど……
頭の片隅に居座った、疑問は消えない。
HAZEからの、襲撃が無いのは、わかる。
僕を、尾けてない限りは、メグん家が分かるはずないから。
でも……
田中さん達、遅すぎだろ?
何で、ぼくんち家からの、着信がないんだ?
メグにも、僕にも、連絡が無いのは、何で?
気がかりな事が多すぎる。
メグの、消え入りそうな声で、現実に戻った。
僕の返事が無いのを、誤解したのか、顔を覆ってる、白い手。
「好きな人の腕まくら……メグの夢だったから……」
「いや……でも……やっぱ、不味いんじゃ……」
"カラ太郎兄ちゃん、会って、3日の小5女子の下着を、Wブレイクしようとしてるよ……スピードアタッカーだ!"
"デュエリストのカガミさ……応援だ、カラ次郎!"
応援すんなよ、デュエ太郎……いや、カラ太郎!
「恥ずかしいから、早く……おねがい」
どストレートな一言で、操られるように、僕はフラフラと布団に入ろうとした。
「うおっ!?」
その途端、思い切り抱き寄せられ、メグの上に被さってしまう。
僕のTシャツ越しの胸の下で、2つの柔らかいカタマリが、形を変える。
柔らかっ!
うわ、柔らかいって!
僕は驚いて、身を起こそうとするけど、僕がやったように、首筋に顔をこすりつけて来て、それを許してくれなかった。頭頂のリボンが、頬をくすぐる。
「……お返しです。男の人の匂い……」
耳元で囁かれ、僕の理性は飛んだ。
「変……お腹がじんじんする……んっ」
僕は思い切り、メグを抱きしめ、首筋に吸い付いた。
「スゴい力……は、あっ」
左手を背中からまわし、メグの左肩を掴んで、右手で、思い切り胸を掴んだ。
「いたっ……いっ、んっ……んっ、あっ」
芯のある、バストを、手のひらでこねた。
メグも、僕のシャツの下に手を入れ、胸とお腹をさすってきた。
「スゴい筋肉……好きです……凛」
その時、何かに乗っ取られている頭に、映像が浮かんだ。
カラスの兄弟が、おやつの乗ったテーブルで、人生ゲームをしてる、平和な景色。
"ニマス進む……女の子が産まれて、500ドル受け取る。次、カラ次郎……シヴァの盗聴データが、佐竹に渡って、お昼の放送で流れる"
「うわあああ!」
絶叫を上げて、僕は布団から立ち上がる。
「凛さん!?」
いや、あかんて、これ、盗聴されとるやん!?
それ以前に、なにしてんの、俺?
女の子作って、500ドル稼ぐ気か?
ところで、ありがとう、カラスの兄弟!
命の恩人だよ、オマエラ!
もう、犯罪者だけどな、俺!
僕は、仁王立ちで、メグを見下ろす。
呆気にとられた顔、ずれかけて、先っぽがギリギリ隠れてるだけの、ブラ。
息を弾ませ、浅く、速く上下する胸。
真面目で、可憐で、清純なメグのこんな姿、想像も出来なかった。
女子って怖いよ。
それはそれとして、ヤバイ。
いや、ヤバイ通り越して、余裕でアウト。
どうしよう、どうしよう。
「あっ!? 凛さん!」
この匂いと、半裸が全ての元凶!
サキュバス退散!
布団を掛けて封印。
即座に、ベッドを飛び降り、膝をつくと、メグの顔を両手で挟む。
びっくりしてる顔にオデコをくっつけ、叫んだ。
「僕が、田中さん、鈴木さんに、嫌われてよければ続けてやる! ずっと一緒にいたけりゃ、服を着ろ!」
口を開けて固まってるメグ。
その目に、涙が盛り上がって……
「うわっ!?」
僕の胸に飛び込んできた。
「やっぱり、凛さんだ! 凛さんなんだ!」
胸の中で、嬉しそうに叫ぶ、雪女に、ぼくはうろたえる。
「な、何が?」
胸に頬ずりしながら、幸せそうに言った。
「今、鐘が鳴ったんです……運命の人なんです!」
いや、俺、聞こえんかったけど?
その時、代わりに、ヘッドセットの呼び出し音が鳴った。
「連絡だ……メグ、離れて」
「ヤです、離れません!」
べとーって、僕に、すがりついてるもんだから、ピンクのパンツが、畳に引きずられ、ずり落ちかけてる。
ヤメてよ!?
僕は、メグをくっつけたまま、畳の上に放り出してた、ヘッドセットに、にじり寄った。
う……シヴァと話したくないなあ……
仕方ないか。
しつこく、大音量でなり続ける、ヘッドセットのスイッチを入れた。
「……こちらウォッチマン。そちらはどうなってる? 送れ」
『こちらシヴァ。氷室夫妻の現着、及び、本人確認を終了……』
血の気が、音を立てて、引いていく。
聞こえる。階段を上がってくる音が。
抱きついてたメグも、それに気づいて、弾かれた様に立ち上がったけど……
ずり落ちかけた、パンツをあげる時間も惜しんだのが、仇になった。
僕の足にからんで、上半身、ベッドに倒れ込み……
それに引っ張られるように、僕は、半ケツ状態の、メグのお尻に、顔を突っ込んだ。
ドッスン、バタンの音に、応えるように、扉の向こうから、鈴木さんの声がした。
「何事!? 開けるわよ、メグ!」
ドアを開けて、固まる気配。
布地じゃない部分に鼻を突っ込んだ状態の僕に、シヴァの冷静な声が流れ込んできた。
『そっちに向かったと思うが……なかなか、出なかったのはお前だぞ?』