表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
237/1080

フレ、フレ、ワタシ



 僕は、天井に貼ってある、時代劇のポスターに集中しようとした。


 雪女の出す、不思議な香りに、必死で抵抗する。


「メグ、服着ろって」


「ヤ。ちゃんと、メグのコト……見て……くれるまでは、着ないもん」


 声が、微かに震えている。


 雨だったし、お昼から、部屋の灯りはずっと、ついてる。古びて、いっそ、プレミア付いてそうな、ポスターの表面が、白く反射して読めない。

  

 片目のサムライが、雨に打たれて、刀を構えてる。

 無用ノ介・駆け込み寺……

 メグ……趣味に、オリジナリティありすぎだろ?


 他の事を考えて、意識をそらそうとしても、メグの体温が、感じられる位の近さだから、ムリ。

 雪女の体から、立ち昇る熱気に、チリチリする。


 これ……シヴァ(警護)にも聞かれてる事、メグに言えなくなったぞ。


「凛さん、おバカだから、言っとかなきゃ……メグ、男子と、手をつないだことも、ないんだから」


「えっ、なんで!?」


 思わず、メグを見た。


 間近で、見上げるメグ。

 赤くなった、ツヤのある肌を、ピンクの布地が覆っている。

 押し上げる膨らみが、イヤでも ――ホントデス―― 目に入った。


 コイツ……

 

 それなりに……ゴザイマス


 ナディア程じゃないけど、リーファよりある。

 ブッチギリでオリガ、ジャス子はこれから。

  でも、生で見ちゃった、ジャス子のが、一番インパクト強かったり……


「イデェ!」


 ニッコリ笑って、メグが僕の足をグリグリ踏んづけてる。


「メグのおっぱい、誰と比べてるのかなー?」


 ウソだろ、エスパーですか、この人!?


「ななななんで!?」


 しまった!

 ゴマかせよ、そこは!


 メグが、仁王様みたいな顔で、怒る。


「チラッて、メグのを見てから、目を泳がせてたら、分かるに決まってますっ!」


「……ハイ。ゴメンナサイ」


 もう、いまさら、カッコつけようないもんなあ。

 カラ太郎・カラ次郎兄弟にも、disられてるし。

 

 あーそーだよ、僕は小5(年下)侠立ち(オトコダチ)する、Dランクキャラだよ学校でバレたら死んでやる。

 

 情けなくうなだれると、メグが、切なそうな顔になった。


「……もう、ホントズルい。だから、みんなも、許しちゃうんだろな……メグ、男の子になんか、興味なかったもん。結構いっぱい、告白されたんですけどね? エッヘン」


「……だろうな」


 ムッと不機嫌になる、雪女。


「感想はそれだけですか? 芸能人もいたんですからね」


「お、おう」


 下唇を突き出し、ジト目で睨んでたけど、ため息をついた。


「ホント、メグなんかに、興味ないんだなあ」


 ションボリするなで肩に、あわてて言った。


「い、いや、オマエなら、別に不思議じゃないから……」


 ぷっくー、とふくれて、メグは腰に手を当てた。


「そんな言葉が、聞きたいんじゃないもん! こっち向いて!」


 僕の顔を挟み、天井みてるのを、強引に下へ向けさせようとする、メグ。

 ヤメロ、いい匂いがするから。

 

「いや、服着ろって。結構冷えてきたから、風邪ひくぞ?」


 またベソをかきはじめる、メグ。


「何でそんなに、冷静なんですか?」


 そうでもないわ。

 ああ、めんどくせぇ。


「メグ……ここまでしたのに……立場ないよ……きゃっ!?」


 僕は、メグの膝をすくい、お姫様抱っこすると、半目で顔を寄せた。


 驚いて、縮こまるメグを叱る。


「ホラ、体冷たい……女の子は、冷やしたら駄目なんだぞ……布団連れてってやる」


 メグは、パニクって声を上げた。


「は、え? ちょ、待って!」


 脚をバタバタさせてるクセに、思いっきりしがみついてくる、雪女。


「待って、待って下さい! 雨戸閉めて、シャワー浴びてから! そ、それと先に婚姻届!」


 持ってんのかよ?

 

 取り合わず、僕は、羽のように軽い雪女を抱えて、ベッドに向かう。

 

 掛け布団に、放り出されていた銃を、つま先でそうっと脇に避けてから、夏掛けを、乱暴に蹴ってめくる。


 ベッドに、メグを横たえても、全身、真っ赤になった雪女は、僕を離さなかった。


「どどどうしても、待てないんなら……」


 皮膚に食い込むくらい、僕の手首を、強く握って離さない。


 ヤケクソまる出しで、メグは固く、眼をつぶって喚いた。


「優しくしてください、初めてなんだからあ!」


「僕もだ」


 そういって、バランスの取れた、セミヌードに、掛け布団を掛けた。銃は、畳にのける。


 目の毒過ぎるわ。


「……へ?」


 キョトンとするメグに、顔を近づけると、おでこにかかる前髪を、梳いてあげながら、僕は怖い顔で言った。


「いいか、いまからする事、内緒だからな? 誰にもした事、ないんだからな!」


 エロい事では無いと察したのか、不思議そうに頷くメグ。


 僕は、顔が熱くなるのを、感じながら、スマホを引き寄せた。

 うわあ、ホントにやんのかよ、俺?


 咳払いをしながら、画面をタップ。

 あー、あー、って、どら声で発声すると、メグが、びくっとした。


 スマホから、前奏が流れ始める。

 

 メグの枕のすぐそばに、頬杖をついて、ぼやいた。


「オリガも、ジャス子も、お前も、歌上手いから……ヤなんだけど」


 何をするのか察した、メグの顔が、明るく輝く。


 リズムをとって、僕は歌い始めた。


 Walk away……if you want to

It's OK, if you need to


 歌が進むに連れて、メグの頬に赤みが指し、ホントに嬉しそうにしてくれる。


 僕も、気楽に歌うことが出来た。


 デフ・レパードの、I'll be two steps behind 。


 ホントにいい曲なんだけど……

 いい思い出ではないかな。


 スマホで流す、カラオケのコーラスに、タイミングを合わせる。

 

  Whatever you do

I'll be two steps behind you


 メグの嬉しそうな顔よ。

 僕も、顔がほころぶ。


 すぐ後ろにいるよ

 ベイビー

 すぐ後ろにいるから……


 歌い終えると、メグが、拍手をして、足をバタバタさせ、黄色い声を上げてくれた。


 雪女は、真っ赤な、顔を覆うと、声を絞り出す。


「……なんで、そんなカッコイイことするかな……ズルい……」


「そりゃ良かった。昔、英語の勉強がわりに、歌を覚えさせられたんだ。いい思い出じゃないんだけど……恥ずかしいから、内緒な」


「誰にもいいません! もったいないもん……もうダメ、全然ダメ……」


 メグは、赤い顔で深呼吸すると……


「フレ、フレ、ワタシ」


 そう言うと、布団をはぐって、切ない顔で僕を誘った。

 ……自分の横に。

 

 僕の笑顔が固まる。蛍光灯を照り返す、唇がこう言ったから。


「腕枕して下さい……メグの、一生のお願いです」


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ