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ウォッチマン





「そんな大事な話……林堂君の、命に関わる事じゃない! 真っ先に伝えるべきでしょう? なんで、寝てられるの、その人!」


 鈴木さんが、顔を真っ赤にして怒鳴る。

 メグは、俯いて涙をこぼし続けている。


 16時前の和室。太陽はまだまだ傾かず、田中さんは廊下から、戻って来ない。


 僕は、身軽に立ち上がって、感謝しながら言った。僕の為に怒ってくれてるから。


「僕も気付かなかったけど、護衛は付いてるそうです……言いにくかったんでしょう。しばらく、リーファと同じ、窮屈な暮らしをしろって……分かるんです」


 僕は鈴木さんを見つめた。

 何故か少し赤くなる、黒縁眼鏡のママ。

 

「僕も、鈴木さん達に、同じ事を、言わなくちゃなんないから……メグ達をまきこんだら、前を向いて生きていけません」


 メグが、真っ赤な顔で見上げている。

 涙と鼻水でひどい顔だ。

 思わず、歩み寄って、頭を撫でる。


 橘さんから送られたグループlineをタップし、スマホを構える。 

 相手は、顔も知らない護衛。

 今は、リーファがいないから、自分のコールネームを伝えた。

 ホントは、非常事態、『星に願いを』がかかったてきた時にしか使わない。


 メグの頭を撫でながら、一方的に喋った。

 

「ウォッチマンより、アノニマス・ワンへ。あ……in English(英語がいい)? 送れ」


 人為的に歪んだ声が、漏れてくる。


『アノニマス・ワン。異常なし。早くブルートゥース通信に切り替えろ』


 日本語でいいんだ、助かった。

 僕の、スパイごっこみたいな通話を聞いても、笑わない二人。

 固まったまま、口をつぐんでいる。


 良かった、事の重大さを理解してくれないと、大変な事になる。


「三分以内に、ここを離脱する。安全を確認できるまで、氷室家を監視してほしい。送れ」


 返答は、僕を混乱させた。


ネガティブ(不可能)。人員が足りん』


「ハァ? 一体、何人いるの? 送れ」


『言えない。盗聴を考慮しろ。本社よりの応援を待つなら、少しかかる。』


「マジか……」


 少しってどれくらいだよ?

 あ、それもここでは言えないか。

 

 僕は、頭を撫でていた手が、いつの間にか、メグの両手に、包まれていた事に気付く。

 不安そうに見上げる顔。

 

 鼻水も相変わらずで、美少女が台無しだけど、余計に巻き込みたくない、思いがつのる。

 

 早く出ていかなきゃ。

 

 同時に、ナディアと、リーファの気持がわかった。こんな罪悪感抱えて生きてきたのか。

 アイツラ悪くないのに。


「応援を要請して。それまで待機する。送れ」


『了解。通信終了』


 僕は、鈴木さんを見上げて、謝った。


「すみません、ご迷惑をかけた、可能性……」


 その先は、鈴木さんに抱きしめられて、言えなかった。


「そんな、悲しそうな顔しないの。あなたが悪いんじゃないでしょ」


「ああっ、また! ママ、エエ加減にしてっ!」


 いや、メグ、お前こそやめんかい!


 メグが、ゆっさゆっさ鈴木さんを揺するから、余計に顔が胸に食い込み、僕は何度も、腕をタップする。


 この人、よく見たら、メグ似で美人なんだよな。いや、メグがこの人に似てるんだ。


 メグが、僕を背中に庇って、鈴木さんに唸っていると、田中さんが戻ってきた。


 なんとも言えない顔をしている。


「電話の内容なんだけど、本当だったらエラい事だ……大阪にある、クレアプロの、子役部門の大半を、こっちに仕事ごと、譲渡したいって」


「「ええっ!?」」


 さすがの鈴木さんも、メグと一緒に声を上げた。メグの頭頂のリボンが、僕の顔に当たってくすぐったい。


 僕でも分かる。

 

 それ、小さなオフを主催してるスマ勢に、eスポーツ施設が、モニターとSwitch一式ごと、タダで提供するって言うのと同じじゃん!


 ……でも。

 

 僕は、罪悪感に、踏みつぶされそうになりながら、口を挟んだ。

 こっちは、メグ達の命が、かかっているから。


 「すみません、その前に、僕の話を聞いてください……氷室家の命が、かかってるかも、知れないんです」



 

 黒檀のローテーブルの向こうで、難しい顔をしていた田中さんが、組んでいた腕を、解いて言った。


「話は分かった……でも、ホントに巻き込まれたのは、橘さんや、君達の方じゃないのか? 私達では無くて」


 正座している、ぼくと隣のメグは、キョトンとしてしまった。


 何、その謎理論?


 何故か、鈴木さんも頷いている。


 そこら辺の、おじさんにしか見えない、田中さんが、目に力を込めて言った。


「考えてもご覧よ。スタジオに、林堂君や橘さんを呼んだのは、僕なんだぞ?」


「……あ」


 田中さんは、苦虫を噛みつぶした顔で、続ける。


「それに、君たちが来てくれなかったら、米沢はあのままだった。メグは、引き篭もったまま、仕事も先細り……それが今はどうだい?」


 隣のメグが、頬を紅潮させて頷いた。


 田中さんは、力強く言った。


「今度は、こっちが協力する番だ。迷惑なんてとんでもない。でも……」


 田中さんは、少し声を落とす。

 次の言葉で僕も落ち込む。


「メグの事は心配だ。できるだけ、危険から遠ざけたい」


 だよな。


「パパ、私がイチバン、林堂さんに恩返ししたい! 勝手に決めんといて!」


 僕は、身を乗り出して喚く、メグを見つめた。


「一番の恩返しは、お前が無事でいる事なんだ。勘違いすんな」


 メグも、泣き腫らした眼で、僕をにらみ返す。


「メグだけ、お荷物扱いはイヤ! リーファさんに負けたくないもん! ちょっと……出遅れただけやもん……」


 顔をくしゃくしゃにして、また泣き出す。

 目をこすりながら、意味の通らない事を途切れ途切れに、呟く。

 

「相棒……そんなん、ずっこい……リーファさんの為に命かけて……メグの席……どこなん」


 田中さんは、不満そうで、鈴木さんは、困ったように笑っている。

 

 僕は困って、思わずメグの頭を撫でる。白いリボンもしおれて見えた。


 何を言いたいのか分からないけど、ほっとく訳にも行かないし……。


 


 

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