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昭和レトロ女




「散らかってるけど、座ってください」


 定番のセリフだけど……


 和室の六畳間、タンスや、机のせいで狭くく感じるメグの自室。


「マジで、散らかってんな?」


「ソコは、おあいそでも、『ソンナコトナイヨ』って言うトコですっ!」


 真っ赤になって抗議する、この部屋の主。


 いや、なんだか分からない、いい匂いはするし、整頓もされてるんだけど……

 

 畳の上が、引っ張り出して並べたままの服と、開いたままのファッション雑誌で、足の踏み場もない。


 窓には、ピンクのレースカーテンが引かれ、型の古いクーラーが、音を立てて冷気を吐き出してる。


「……服の組み合わせの、研究でも……ん?」


 僕ら男子から、何万光年も、彼方の雑誌が目に止まる。


 ティーンズ用のファッション雑誌だ。

 畳の上で、開かれたページのサブタイトルに目を奪われた。


『年上男子をキュン! 妹コーデで甘えちゃえ!』


 一瞬で全身に、さぶいぼが発生した僕は、秘孔を突かれて爆死する。

 

「ひでぶっ」


「は?……あーっ! ちゃう! ちゃうねん、コレ違うー!」


 とっさに雑誌の上に、ダイブするメグ、ドン引きして、身を引く僕。


 怯えるぼくを見上げながら、早口言葉かよ、って勢いで、言い訳する。


「こここれは、たまたま気に入ったコーデがこのページにあっただけで、メグのカワイイビィムが年上にどこまで通じるか試してみてクララ姉さん達からマウント取れたらいい気分だろなとかの気持ちは全然なくて、そう、パパ、パパが読んでたんです!」


 え、アラフォーのオジサンが、娘の部屋で少女雑誌、読んでんの?

 もし、それがホントだったら、僕なら死ぬ気で隠ぺいするケド?


「ちょ、なんで逃げるんですか!?」


 思わず、自分を抱きしめるポーズで距離をとってしまった僕に、起き上がってポカポカ殴りかかって来る、涙目の5年坊。


 僕は両手の人差し指で、空間に四角を描いて言った。


「……バーリヤ。来んといて」


「うわああん!」


 


「……悪かったってば」


 僕はだらしなく、メグの勉強机の椅子に腰掛けてボヤいた。おちょくり過ぎた。


 ベッドに座って、涙目・ふくれっ面でソッポ向く、メグ。


「林堂さん、意地悪だから知りません」


 こっちに向けた背中が、ヒクついてる。

 

 ドン引きしたのは、ホントなんですけどね?


 いやもう、あんな煽り文句、アイクラに下必殺技喰らう並に、凍るよ?


 僕は、真剣に言った。

 

「メグ……………キュン」


「バカッ!」


 飛んできた枕を受け止め、いい匂いのするそれを投げ返した。


「わかった、悪かったって。お詫びに、ちゃんと話聞くから」


 ぐずりながら、僕をニラむ、リボンの黒髪。

 部屋の蛍光灯で、天使の輪っかが出来てる。


「次、ふざけたら、口きいてあげないもん」


「分かった、わかった」


 天井にも、襖、壁にも貼られた、古臭いポスター。プロマイドもあるけど、アイドルのモノは1枚もない。

 

 僕は、部屋のぐるりを指差し、尋ねた。

 

「この、オバサン達のポスターが、憧れの女優なの?」


「オバサンって、言わないでください! どの人も、大女優なんですよ?」


「ふーん……」


 メグは、瞳を輝かせて、ポスターを指しては、代表作と、その演技の凄さを語る。


 それが、五枚目に達した所で口を挟む。


「ゴメン、オマエ、学校の友達、この部屋に上げた事ある?」


 メグは急にテンション、ダダ下がりになった。


「……次の日から、クラスで『サザエさん』って呼ばれるようになって……笑うトコじゃないですっ! じゃんけんポンって、言わんといて!」


 僕は、ニヤニヤ笑いながら、訊いた。


「それで、引き篭もってんの?」


「……それ位なら、笑って済ませるけど……」


 メグは、見るからに気落ちした様子で言った。


「ジャニーズに会ったことがある、って言ったら、会わせろってみんなうるさくて……」


「いや、言わんかったらエエやん。変にイキるから」


 キッと、顔を上げると、メグが噛みつく。


「女子の世界は、色々大変なんですっ! 持ってる物は全部使わないと、生き残れないもん!」


 「まあ、分かるけど……」

 

 この辺もあるのかもな、メグが学校行くのしんどい理由。


 それより、さっきの話だ。

 僕は回転椅子の、背もたれに顎をのせて訊いた。


「オマエ、なんでこの部屋に、友達上げたの? 色々言われるの、わかってたろ?」


 メグが、ぶすっとして言う。

 なんていうか、メグ、素が見えてるけど、裏表無いよな。

 そんな機能がないのかも知れん。


「……仲いいコ、二人だけです。もっと仲良くなれるかなって……隠し事って寂しいじゃないですか」


 あー、なるほど、よおっく分かった。

 僕の周りに、わんさかいるヤツだ。

 スマ界に。


「……僕の知り合いで、まあ、ヲタクなんだけど、大学の新歓コンパで、カラオケ行く事になったんだって」


 メグは、いきなり何ですか、みたいな顔で僕を見た。


「『好きなものを否定するのは、自分自身を否定する事』その信条に従って、1発目でアニソン。周りに大ウケ。『お、いきなりかよ!?』」


「……うわ」


「でも、次も、その次もアニソン……ウケ狙いじゃなくて、ガチなんだって気付くと、誰もコメントしなくなった。それでも、その空気を読みつつ、アニソンを貫くベレス(女キャラ)使い」


 ベレト(男キャラ)じゃ無いとこが、ヲタだろ?

 メグには分からんだろうが。

 

「空気読んでソレって……4年間棒に振るつもりですか……あ」


 しかめっ面のメグが、驚いて目を見開いた。

 みるみる青くなって、カタカタ震え出す。


 な? 似た他人を見たら、よく分かるだろ?

 

「分かったか、昭和女優ヲタク? 隠すも何も、オマエが話したかっただけだろ。さっき早口で語ってる時のオマエ、まさしくアレだったぜ?」


 





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