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そんなんちゃうもん




「こっちで、た……パパもママも待ってます!」

 

 鼻歌を歌いながら、年季の入った廊下を、とたとた歩く、メグの後に続く。


 両親を紹介する的な、シチュエーションではあるけど、僕はビビらなかった。


 なんでかって?


 軽そうな、木製の引き戸の向こうで待ってたのは……


「ああ、ベル君よく来てくれたね」

「娘の為に、ごめんなさい」


 八畳間の和室、ローテブルの向こうで微笑んでる、マネージャーの田中さんと、メイクの鈴木さんだったから。



 二人が、メグの両親。

 それが分かったのは、昨日の電話で。


 そりゃそうだ、『転校を考えてるから、相談に乗ってほしい』まで聞かされたら、流石に僕でも気づく。


  立派な仏壇、掛け軸まで飾られてる。


 出された麦茶を、遠慮なく一気に流し込む僕。

 白い薄手のカーテンを通して、陽射しが畳を照らしていた。


「来てくれてありがとう。入院してたって言ってたよね……大丈夫?」


「えっ、そうなんですか、林堂さん!?」


 向かいに座る、メグのパパ ――田中さんでいいか―― の遠慮がちな言葉に、僕の隣で口を覆うメグ。


「電話もらった時には、もう、元気だったんですけど、昨日は一日中、宿題やらされてました」


 楽しそうに笑う三人。

 

 メグのママ ――メイクの鈴木さん―― も、メガネ越しの目を、細めて笑ってる。


 思えば、鈴木さんと話せたのは、大阪大会の時だけだったもんな。

 あの時は、修羅場だったから、笑顔を見たのは今日が初めてだ。


 笑いがおさまると、田中さんは、少し困った顔で、鈴木さんを見た。

 

「……えーっと……何から話したものだろうな、里佳?」


 鈴木さんも、困惑顔で言った。


「ごめんね、ベル君。私達も相談する相手が見つからなくて……」


 メグが、しょんぼりする気配。


「あ、いいんですけど……僕でよかったんですか、男子なのに」


「ん? ああ、メグがベルさんがいいって言うから」


「は?」


 メグが、赤くなった顔を上げて、噛み付いた。


「ちょ、パパ! 変な言い方せんといてーや!」


「いや……メグが言ったまま伝えたんだけど」


 コイツ、時々大阪弁でるよな。


「メグ、マジな話、リーファとか、ナディアの方が良かったんじゃ? アイツラ、割と修羅場くぐってるぞ?」


「そんなの、目の当たりにしてますっ! だから怖いんですよう。甘えんな、とか言ってお尻ぶたれそうだし……」


「それは無いと思うけど……」


 まあ、メグには刺激が強すぎたよなあ。

 女子、総掛りで、大男をタコ殴りにしてた訳だし。


 鈴木さんが、静かに言った。


「ホントに、何から話したものかな……まず、メグ、うちの事務所、辞めるように説得してるの。彼女、女優になるのが目標なんだけど、ちょっと、色々重なって、参っちゃってて……メグも、私達も」


「そうなん……ですか」


 うなだれる、メグを横目で見ながら、そうとしか答えようがなかった。


「元々、俺が俺が、の性格じゃないから、向かないんだよ。子供とはいえ、女の世界の競争だから、地下格闘技も同然だからね」


「母親の私が言うのもアレだけど、演技の素質はあると思うのよ、好きこそ物の上手なれ、でね」


 田中さんと鈴木さんの言葉を聞いて、俯いたまま、指をこねこねする、メグ。

 不満そうだし、悲しそうだ。


 ぼくはメグに聞いた。


「お父さん達の意見は分かった。オマエは、どうしたいのさ?」


 メグが、はっとしたように顔を上げた。


「……メグに……聞いてくれるんですか?」


 アホかコイツ?

 オマエの問題だろ、他に誰に聞くんだよ?


「何言ってんだ、オマエの話だろ?」


「女優になるんです」


 メグは即答した。


「そうか……やりたいそうですケド」


 二人とも、ポカンとして僕を見ている。


 え、何? なんかおかしかった?


 鈴木さんが、呆れたように言った。


「スゴイわね、べ……林堂君。メグ、私達には何にも、言ってくれなかったのに」

 

「……いや、それ言ってくれない、じゃ無くて、言えなかっただけですって。メグの立場からしたら、心配しかかけてないのに、アレがやりたい、コレがやりたいなんて、言えませんよ」


 唖然とした顔で、僕を見つめる、メグに向き直って言った。


「それと、一つだけ、断言できる。オマエ、恵まれてるよ。演技の方は、僕、分かんないけど、早着替えとか、頭の回転とか……見てくれ……とか、少なくとも、モデルの才能はあるのに、親がヤメロって言ってくれるもん。僕の習い事、才能あればあるだけ、親にシゴかれて、マジ悲惨なんだぜ?」


 ぼくは、目をそらした。

 それは、自分の事でもあったのを、思い出したから。


「……モテるはずよね」

「……だな。メグもヤバそうな顔してないか?」


 ニヤニヤしてる、田中さんに、メグがさっきより赤い顔で喚いた。


「そんなんちゃう! 変な事言わんといてーや、アホっ」


 ぼくは三人をスルー。

 ちっともうれしくないし、もっと大事な事が分かった。


「あの、メグと二人で話してみたいんですけど」


 そうだ、サトシと、サトシのお父さんが、『ジャス子が悪いに決まってる』って決めつけてたのを思い出した。


『メグは辞めるべき』からまず離れなきゃ。


 そのためにも、二人で話したい。

 親の前じゃ、言いにくい事いっぱいあるもん。


 二人は、好意的に笑ってくれた。


「そうしてもらえるかな? メグ、部屋で話したらどうだ?」


「う、うん。じゃ、ベルさん、二階だから」


 赤い顔で、モゴモゴ言うと、そそくさと座布団を踏んで、立ち上がった。


「男の子、お部屋に呼ぶの初めてじゃない? あぐらかいちゃ、ダメよ?」


「ママうっさい! 行こっ、林堂さん」


「お、おう」


 あれ、ナディアの時とおんなじやり取りしてね?定番なの、この会話?


 可愛らしい牽引車に、手を引かれて廊下に出る。


「……そんなんちゃうもん……そりゃ、チョットはヤバイけど」


 ブツブツ、イミフな事を呟くメグの手は、何故か、さっきより熱かった。



 

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