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「そんなん……どうやって……」

 

 呆然とする、左舷と若頭を眺め、単純な優越感に浸りつつ、私は言った。


「ツテがあるんです……ここからは、時間の勝負です。『娘に倉庫でやった事と、同じ事をさせる』そう言ったんですね?」


「はい。どこに突っ込むか、知りたければ、梁に電話させろ、とも……あ! それがホンマやったら、ガソリン要る!」


 流石、組長やってるだけあって、頭の回転が速い。


 私は頷き、険しい顔で、スマホを操作している、王に聞こえるよう、サイドウィンドウをノックした。


  すっかり日が昇り、パラパラと、間延びした列を組んで、小学生が歩いている。

 夏休み、終わったのか?


「今朝方、闇で、ガソリンを大量に買い付けた連中を当たってください。それと、チャンを殺した連中も、どうやら中国系マフィアの一味の様です。ニセ・エディを演じていたと言う事は、エディの仲間と考えていいでしょう……王、どうした?」


 サイドウィンドウを開けると、熱気と、王の言葉が飛び込んできた。


「チャンが、生きていたそうです。重傷で、どこまで保つか分かりませんが……」


 運が向いてきたようだ。


 差し出した手に、王がスマホを置いた。


「私だ。チャンは話せるか?」


『……俺はピンピンしてるぜ……って訳でもねぇけどな……救急車まで、持ってんのか、オマエ』


 部下の携帯から、荒い息をつく、チャンの声が流れてくる。

 救護班に手当されてるようだ。


『オマエらに、助けてもらうとはな……エディの事だろ? 教えてもいいが、こっちで殺る』


「いいだろう」


 隣の左舷と若頭も、電話で闇ガソリンの卸元を当たっている。


『アイツラは、北朝鮮と、中国の国境地域、延辺地区のマフィアだ。俺達とは、かなり毛色が違う』


 私は、顔をしかめた。


 延辺は、吉林省東部にある、朝鮮族自治州、つまりは中国の一部だが、住んでいるのは朝鮮系の少数民族だ。


 北朝鮮と中国、更にはロシア国境近くに位置し、地理的な特殊性から、銃器や、麻薬密売の温床になってきた。


 我々台湾人に、言われた義理では無いだろうが、北朝鮮に逃げ込まれたら、手の出しようが無い。


『脱北者の手引き、流行りの、クラッキング(ハッキング)での病院や銀行、企業のデータ乗っ取り……北朝鮮の121局の下請けの一つだ』


 121局は、悪名高い、北朝鮮の電脳部隊だ。核研究の資金調達の為に、サイバー金融犯罪を繰り返しているが、手を下すのは、下請けの『傭兵』だとされている。

 

 ソイツらの一つが、闇サイトの運営をしている……矛盾する話ではない。


「トップが、エディか?」


『エディが、トップじゃない事しかわからん……頭は、大人(ターレン)と呼ばれてるらしいが……』


 ゴボゴボと言う、咳が響き、部下の声が取って代わる。救護班の一人が言った。


『ボス、これ以上は、危険です……大人しくしろ』


『いつ死ぬかわからん、寄越せ……エディのヤサ(アジト)は、いくつかある……』


「黒山組の娘が、エディに攫われた。倉庫でやった事を、もう一度やらせると言ってる」


 しばらくの沈黙。いや、チャンの呼吸音がうるさい。


『どこを襲うのか、目星は?』


「わからん。ガソリンを大量に、闇で買い付けてないか、今、あたっている。オマエを撃った男が、『私の受けた依頼は、アナタの周囲の人間を酷く殺す事』だと言ってたが……」


 その時、左舷が囁いた。


「大東市で、今朝方、ドラム缶六本分の、ガソリンの買い付けがあったそうです」


 心臓が跳ねた。

 (リーファ)が住むマンションの、隣の市だ。


私がチャンに伝えると、


『その近くなら、隣の東大阪のヤサがクセェ……電話を貸せ。手下共に、カチコませる』


「場所を教えろ。私の部下の方が早く着く」


『……おい、殺るのは……』


「だからだよ。俺達は、ソイツらの情報が欲しい。逆を言えば、その後はいらん。オマエラに喜んでくれてやる」


『……いいだろう』


 王に私のIPhoneを渡し、チャンの言う住所を伝えた。王は、私のスマホを使って、部下に指示を出す。


『んで、どこを狙ってるのか……分かったのかよ……そろそろ、目が回ってきたぜ……』


「寝てろ。助かった……そうだ、ヤツラの組織の名は?」


 苦しそうな呼吸音の後、チャンは辛うじて言った。


『……HAZE()


 

 


 


 


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