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歩いて帰れ



 私は、間一髪で、言葉を飲み込んだ。


 最悪、SGの命乞いをしてしまう所だったからだ。そんな事をした所で、相手に精神的な優位を与えるだけだとしても。


自分の耳に押し付けたくなる、衝動と戦いながら、 王にも聞き取れるよう、スピーカーにして前にかざす。


 考えろ。考えろ。

 

 いま、一瞬に、部下の命が掛かっている。

 IPhoneを握る手が、手汗で気持ち悪い。


『そのババ……オバチャンはなんだ? 何か頼んだのか? 見張りは何で通したんだ?』


 王と私が、息を止めて聞き耳を立てる中、スマホを耳から離したのか、エディの声が少し遠くなる。


 私も、混乱した。


 オバチャンってなんだ?

 ババアとは言わないんだな、育ちがいいのか?

 こんな時に限って、どうでもいい言葉が頭を巡る。


『どちら様? 耳が遠いのか…… エディは私だが!……上の人からって……まさか、大人(ターレン)から!?……え、日本語分かりますか……あ、訛ってるだけか。ちょっと取り込み中だから、出てって!……荷物は分かったから……いや、重かったって言われても。野菜かなんかなら、配達先間違えてますよ!……知念ビルはここだけですが……」


 ……エディ、思ったより100倍間抜けだ。

 

 耳の遠い老婆と話してるのか、デカい声になったため、バッチリ聞こえた。

 上からの届けものだったらと思うと、無下にも出来ないのだろう。


 私が指示するより早く、王が、スマホで指示を出している。

 

 近辺の『知念ビル』を本部に検索させ、同時に別部隊を急行させるはずだ。


『荷物の確認ですか? ……チェン、やっとけ。このおばちゃんに早く、出てってもらえ……エディ・田中って人の確認がいるって言われたの?』


その時、もう片方の手に握っていた、私のiphoneが鳴った。


 メールだ。


 送信は5分前。

 受信が、なんらかの理由で遅れたのか。


  :松原市、知念ビルに潜入。これより通信不可能。SG奪還に全力を尽くす

 

 私の疲労、焦り、正常な思考まで、全てが吹き飛んだ。

 

 ……そうかよ。


 『一体何なんだ……ったく』


  ガムテープを剥がす音。


 私はさっきの感想を訂正した。

 

 エディが、マヌケじゃなんじゃない。

 

 相手が一枚も二枚も上手なだけだ。


 「教えてやろう」


 私の獰猛な、笑顔と呟きに、王が、ギョッとして振り返った。


『野菜?……うわわ、デケェ虫っ! ババア!! え……』


 俺は、声を立てて嗤った。

 マジで趣味悪いな? それでこそ……


「ジェーンだ」


『スズメバチ!?』


 絶叫と、羽根の音、いくつかの金属が床を転がる音がした。


 一瞬、音声が途切れ、咳き込む声と、絶叫。悲鳴。


「ジェーンの旦那、なんで……」


 目を丸くして呟く王に、私は矢継ぎ早に言った。


「王、松原市の知念ビル。後片付けに向かわせろ! ここからなら、30分もかからねえ。我々も向う。見張りを撤収させろ……なんだ?」


 建物から、手提げカバンを持った男が走ってくる。


 さっきのコンサルタントだ。

 ジャケットとチノパンを羽織ってマトモなカッコをしてるから分からなかった。


 怪訝な顔の、私達の前を通り過ぎ、もう一台の、四駆に向かう。


 忘れ物か、伝言か。


 男は、左舷の乗った、助手席に走り寄ると、息を切らして、情けない顔をする。


 カバンの中を漁り、抜き出した右手には、拳銃が握られていた。

 

左舷の悲鳴。

 

 「王!」


 私が怒鳴る前に、車外に降りた王は、銃を抜いた。


 全員、降りろ!


 コンサルタントの声が、深夜の街に響き渡る。


 ややあって、運転席から、部下が降りた。

 左舷に銃が向けられていては、仕方ない。


 米沢と言い争う声。


 車が揺れ、米沢が、貨物スペースに移動した。


 油断なく、銃を向け、運転席に乗り込む、コンサルタント。


 私は今頃気づいた。


 アイツ、エディと繋がってたのか。

 

 道理で、殴られていなかった筈だ。

 我々が来るのを見越し、まさかの保険として、ここに配置されていたのだ。

 

 左舷を人質にして、何のカードに使うつもりだ?


 いずれにせよ、知らんふりも出来ない。


 助手席に、左舷、貨物スペースに、米沢を載せた、四駆が走り出す。


 運転席に戻った、王に言った。


「知念ビルは、別働隊に任せる……追うぞ……忘れてた。もしもし、スマン、取り込んでた。チャンの妹、適当な場所に放り出せ。足の指、踏んだだけなんだ、歩いて帰れるだろ」




 


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