〜序章〜 ゲムヲ 対 パルテナ -セコンドは女子小学生ー
NINTENDO全国小学生スマブラ大会 団体戦を目指す、小学生が主人公の小説です。
アクションと銃も出てくるラブコメですが、出てくる人物、団体はフィクションです。
また、作品の性質上、キャラネガが出てくるため、不快な思いをする方もいるかもしれません。
どうか、生温かい目でスルーしていただければ幸いです!
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
梁 梨花
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。
みんなは、どんな女の子が好みですか?
いきなり何? そう思うよね。
ゴメン、自己紹介遅れたけど、僕は林堂凛、小6だ。
なんでこんな事、聞くのかって言うと、小6男子には、女子なんか、「敵」にしか映らない。
うるさい、理不尽、すぐ殴る。例を挙げれば切りがない。
この歳になると「お付き合い」してる奴らも出てくる訳だけど………
何が楽しいのかな? サッパリ分からない。
女子ってさ。
デュエマもしなけりゃ、フォトナもしない。
一生おしゃべりして、TikTok観てるだけ。
そんな種族と二人で、やる事あんの? ってカンジ。
いつか、僕にも、わかる日が……
あ、スマホ切っとくの忘れた……
よしと。
どこまで話したっけ?
そう、女子は理不尽って話。
なら、なんで女の子のタイプなんか聞くんだって?
うん、僕、今から、『5先』 やるんだけどね。
そう、対戦ゲームで、先に5回勝った方が勝利ってルール。
……任天堂SwitchのスマブラSPって知ってる?
そう、マリオだのピカチュウだの、誰でも知ってるキャラから、バンジョー&カズーイとか、誰が知ってんだよってキャラまでが、殴り合う格闘ゲームだ。
台北市にある、250人規模の会場で、相手は、一族の面子を。僕は坊主と土下座を、賭けた決闘をやる。
急に重くなってアレなんだけど、何人も死ぬとこだったんだぜ?
僕、相棒のお陰で、銃は見慣れてるけど、自爆ベストは初めて見たよ……
ゴメン、話戻すね?
ある人が言ってたんだ。
「戦う時に、頑張れって応援してくれるコ、そんな事やめよ? って心配してくれるコ。どっちもイイけど……」
僕が、スタンバイする、ステージ脇、カーテンの陰。
その両隣には、2人の女子。
僕の左肩に手をかけて、おしゃれなボブカットの同級生が言った。
ぼくより、小さい。
「凛。開始と同時にシェフから、DA、後は、日ィ暮れるまで上bと空N、擦っときんちゃい。
腐れゲッチの、下スマ横スマの調整ミス、サクライ神に見せちゃるんじゃ」
こんな、セコンドみたいなアドバイスしてくる女……引きません?
ところで、今の同級生女子のセリフ……
何言ってんだか、分かんないよね?
もし、分かるんだったら、自分を見つめ直した方がいい。
一応、説明すると、『ゲッチ』って言うのは、僕らの親が子供の頃……
いや、もっと前か? に発売された、ゲーム&ウォッチって言う、携帯ゲームに出てきた、名もないキャラだ。
スマブラに参戦した、いわゆる『強キャラ』で、トリッキーかつ、イヤらしい技を備えた、嫌われ者の『クソキャラ』だ。
サクライ神とは、このゲームの産みの親、桜井ディレクター。『星のカービィ』の産みの親だぜ?
んでもって、僕がメインで使う、キャラなんだよね。
空いてる僕の右肩を、もう一人の同級生、凝ったシャギーの入った、ショートボブがそっと触れる。
ぼくより背が高い。
「……黒くてチビでどんぐり眼……ナディア、自分に似てるからって、そこまでネガらなくても。
凛、恥を捨てて、パルテナに魂売ろ? 白くてセクシー、私に似てるし」
ちなみに、今、背の高い同級生が言ったパルテナも、大昔のゲームからやって来た、強キャラ。
『アイテム&切り札あり』ルールでは、ほぼ最強。
そのルールで負けたスマブラーが、勝ちたいために、自分の使用キャラを捨てて、パルテナを選んだ場合、『ヤツは人間をやめた』扱いされる。
ペラペラで、棒人形そっくりの、ゲッチ扱いされた、ナディア。
パキスタンと、日本のハーフだから、少し褐色のかかった肌なんだ。
その、砂漠の民みたいな、桜色のフードマント姿が、口もとだけ微笑んで言った。
「首から下だけ、ルキナの間違いじゃろ、まな板女子…… あ、ヒゲ生やしたら、白ルイージによお似ちょるな、ヒョロ長いけん」
ちなみに、ルキナってのは、スマブラに参戦した女剣士で……
『胸が無い』
いや、ルキナも、リーファも、ない事は無いんですよ? よ?
仕立てのいい、白のチャイナドレスをまとったリーファが、無表情のまま言った。
白い肌、切れ長の眼。耳たぶで、金色に光るピアスに違和感がない。台湾と、日本のハーフ。
マグネットだよ?
孔空けたら、親呼ばれるって、虐待で。
スレンダーで、脚が長いから、チーパオと呼ばれるこの服がよく似合う。
「あれ、ゲムヲって喋れたっけ?
ところでナディア、そのピンクのテルテル坊主か、マントはおった、火星人みたいなカッコ、よく似合ってる」
少し濃い眉を動かしもせず、ムスリマは、褐色のかかった童顔に、据わった眼を濁らせた。
「リーファこそ、そのナリ、温泉街でバイトしちょる、マジシャンみたいで、ぶちイケちょるけ……
結婚式の二次会、それで、出席してみ? 周り、ドン引きして、マダンテかましたみたいな、更地になるけえの」
数瞬後、二人して、ぼくの肩にかけた手に、力を込める。
「痛てぇ! 肩、肩! オマエラ離せ!」
「ナディア、私の相棒が痛がってる。離せ」
「うち、凛に『俺から離れるな』言われとるけん。そっちこそ気安う触んな、細目が伝染る」
僕はいつもと変わらない二人に、ため息をついて言った。
「オマエラ、わざわざ台湾まできて、ちっとは緊張とかしようよ?」
リーファが僕を、真っ直ぐに見て言った。
「……緊張? 冗談。ここは、台北だよ」
そうだ、ここはリーファの故郷。
僕の目よりも高い位置にある切れ長の二重を、見つめ返す。
いつの間にか、身長抜かれちゃったなあ。
「リーファ、顔赤いぞ……いだい!ナディア、髪引っ張んな!」
「すまんの。頭に、芋けんぴついちょるけん」
「嘘つけ、そんなん、重さでわかるわ!」
リーファは視線をそらし、手のひらで赤くなった顔をパタパタすると、小型のインカムで警備の『社員』と話始めた。
中国語だ。
幼稚園から相棒だけど、なんか、知らない奴に見えてしまう。リーファは、台湾人のお父さんと、日本人のお母さんのハーフ。
幼稚園の頃からの、幼なじみで、相棒だ。
5先の会場は、オフィス街の12階にある、「Blizzard arena in Taipei」
ハースストーンっていう、カードゲームの世界大会でも使用されてる、ガチのe-sports施設だ。
ステージのど真ん中に映画館みたいなスクリーンがあって、配信台のための対戦席が、その横に設置されてる。
カーテンからそっと覗くと、照明の落ちた暗闇をレーザーが踊り、200人近い観客が、僕達の試合が始まるのを待っている。
台湾と日本、プロプレイヤーの対戦の、エキシビジョンとして、僕らの試合が組み込まれたんだけど……
お金の力ってすごいな、僕も相手も、無名の小学生なのに。
解説に、「日本のオフで、頭角を現した小学生スマブラーVS『鉄拳』最強の国、パキスタンから送り込まれた小学生スマブラー」とか紹介されると、なんかそれっぽく、聞こえるもんだ。
不安そうな顔をするナディアの横顔を盗み見る。
フードの横に、マイメロのピンバッジ。
女子小学生の、イスラム教徒のおしゃれだ。
彼女とは、スマブラが縁で知り合った。
お父さんが、パキスタン人、お母さんは日本人。
ぼく? 日本人。
名前、2つあるとか、憧れるんだけどね……
色々、二人が大変なのも見てるし、余計な事は言わないに限るかな。
「大丈夫?」
僕が声をかけると、ナディアは、辛そうに僕を見上げる。マイメロのピンズが、照明を弾いて光った。
少しだけ褐色のかかった頬、柔らかい輪郭線の顔。
ほんとこの二人、見た目強いな。
「じゃけんど……うち、ここで見ちょるしかでけん。全部うちのせいやの……」
「じゃ、見てて」
ナディアが言葉を呑んだ。
「僕の勝つとこ見てて」
……ぼくは、努めて対戦相手の事を考えないようにして、言った。
今は……敵なんだ。
全力を尽くす。
それが礼儀だ。
ナディアは赤い顔を、伏せてぼやいた。
「……ほんに、凜はずっこいの」
「え、何が?……イダダ!リーファ、足踏んでる!」
「あ、ゴメン。あったから、つい」
「あったら踏むのかよ!?おーいて……」
会場の雰囲気が変わった。
いよいよだ。
踏まれて、痛む足をさすり、ぼくはジャンプして緊張をほぐす。
二人を振り返った。
「よし。小学生団体戦の予行演習だ」
二人は、僕と入場し、開始前に退場する。
温まって来た、会場。
相手の事は、考えるな。
重い石を飲み込んだような気持ちを、呼吸と一緒に締め出し、力強く言った。
「ナディア、リーファ付いてきて」
リーファが、無表情で言った。
「言われなくても」
ナディアが微笑んだ。
「いつでもそばにおるよ」
僕はうなずく。
光の踊るステージに踏み出し、二人に言った。
「神様よりも頼りにしてる。ヤッラー、台パンさせてやろうぜ」