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心理学者はあてにならない




 どこかの心理学者曰く、『罠に掛からなかったぞ、と思った直後が、最も罠にかかり易い』そうだ。


「スクールガール? スクールガール、応答せよ……アシュラーよりガネーシャ()へ」


『状況は把握。複数の銃声を確認』


 お互い、スクールガールの安否は口にせず、淡々とインカムを通じて、情報を交換する。


 今、通信の途絶えた、スキンヘッドとの付き合いは長い。王もだ。


 コンテナに伏せたまま、頭の中が、真っ赤になりそうなのを、ヤツは絶対に死んでないと、自分にいい聞かせ、冷静さを保つ。


 それは、そんなに難しくない。 

 パニックを起こせば、数秒後には我が身だからだ。


 眼下には、入り口の壁以外に沿って三方に積まれたコンテナ、コの字型にできた空間には、ひしゃげたダンプとバンが、コンテナの下敷きになって、黒い油を流している。


 アドレナリンから来る頭痛をこらえ、iPhoneを取り出し、監視カメラの映像を確認する。


 スクールガールに撃たれた死体が、入り口のライトに照らされているだけ。車の気配もない。


 王がボソリと言った。

 

『アイツラですかね』

 

「だろうな。安全な場所で高みの見物、漁夫の利を狙う。しかも……」


 数メートル頭上の、スレート屋根が、ギシ、ときしんだ。


「周到だ。どうやって屋根に登ったのかは知らんが、上から来るぞ」


 私は、梯子まで、バックで這い戻った。

 

 事務所で眠っている暗殺者が、幾ら払っているのか分からないが、スクールガールを撃ち、屋根に集まって来たコイツラは、別口だ。確信がある。


 暗殺者の、救出部隊を観察しながら、両方の戦力を図っていたのだ。


 ドラグノフを担いで、梯子を急ぎ、降りながら、私は思った。


 情報が欲しい。私が待っていたのはこの連中を派遣した奴らだ。


 それと、わかった事がある。

 

 ヤツは、闇サイトを再開するつもりだ。

 だからこそ、裏切った暗殺者を殺しに来たのだ。利用者の、信頼回復の為に。


『倉庫入り口に、タンゴ4。』


 王からの報告に、緊張が増す。

 梯子を降りきり、壁に沿って、痴漢を繋いだままの、コンテナに取って返す。


  天井で爆発音。一抱えほどもある、水銀灯が落下、地面に激突し、派手な音を立てた。


 走りながら、天井を見上げると、開けられた穴から、ポロポロと何かが落ちて来た。


破片手榴弾(フラッグ)!』


 王の通信を聞くまでもなく、私は耳を塞ぎ、右側に汚れたブロック壁を見ながら、走り続けた。


 ここから、10メートル近く離れた倉庫中央、ダンプの残骸辺りで、腹に響く轟音が、響く。


 散らばった破片が、盾になってくれている、コンテナに、やかましい音を立てて突き刺さる。


 私の左側を守ってくれた、『上海海運』と描かれたコンテナに感謝しつつ、王に合流。


 スーツ姿の王が、入り口に目を向けたまま、物陰から言った。


「スモーク弾が、投げ込まれました。入り口に、ドラム缶を積んだ軽トラックが」


 いくつかの円筒から、ブシュー、という音と共に、煙が吹き出し、コンテナとダンプの死骸が、靄の中に沈んでいく。

 

 こちらの居場所を悟らせないため、王も私も、発砲を控えている。

 

 こちらの戦力は2人。

 後は、昏睡状態の暗殺者と、痴漢だけ。

 何とも頼もしい事だ。


 天井の穴から、散発的に銃声が響いているが、

 暗殺者の眠る、入り口近くの、事務所に向けて、だ。

 こちらの居場所はバレていない。


「あの軽トラが、爆発したら、私達丸焼きですかねぇ」


 痴漢を繋いだ、コンテナに向う私に付いてくる、王がボヤいた。


 あちらは、倉庫ごと焼いて、無差別に殺傷すれば目的は達する訳だ。


 なんなら、倉庫に放火するだけでいい。

 逃げ出す我々を、撃ち殺していけばいいのだ。


「放火は、火が回るまで時間が掛かるからな。どのみち、この倉庫も、廃棄だよ。金にならん仕事が続く……」


 ボヤきながら、コンテナに戻ると、痴漢は、まだ立ったままブツブツ言っていた。


 ノートパソコンを覗くと、軽トラが、ゆっくり侵入して来る所だった。


 王がボヤいた。


「上手くやったって、思ってるんでしょうねぇ」


 私は、iPhoneを操作しながら言った。


「心理学者曰く、罠に掛からなかったぞ、って思った時が、一番罠に掛かり易いそうだ」


「……ボス、『冒険野郎マクガイバー』観てたんですね」


「バレたか」


 私のiPhoneが、コールを始めた次の瞬間、天井と、入り口付近で爆炎が上がった。


 天井と、鉄骨、何人かの敵が、人形の様に落下し、再び、派手な音を立てて、地面に降り注いだ。鉄骨が、コンテナを突き破り、軽トラックの屋根に、落ちて来た敵がめり込む。


 軽トラックが、爆発しても、このコンテナが、護ってくれる……のを期待する。


 王が、嬉しそうに言った。


「軽トラック、無事ですねぇ。運転してる奴、捕虜にできるかな?」


 入り口のカメラは、奇跡的に無事だった。

 

 焼け焦げた地面しか見えないが、埋め込んでおいた、破砕爆弾が、タンゴをバラバラにしてくれた様だ。


「敵が罠にかかった、って思った瞬間が、一番罠に掛け易い……行くぞ、後片付けと、スクールガールの捜索だ」


 


 

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