表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/1078

デコピン



ぼくは、あわてて、ジャス子の口を塞ぐ。


 頼む、静かにしてくれ!


 ぼくは、泣きそうな顔で、人差し指を立てる。

 怒るとまた泣くもん!


 ああ、もう!


 そんなことしたら、詰むし、しないけどさ!


  ぼくは、世界中に向けて弁解したかった。

 

 仕方ないだろ、ぼくだって男子なんだぞ!こんな状況で、何とも無いわけないじゃんかよ!


 認めたくないけど、コイツ(ジャス子)、外見、超強いんだぞ! ソイツが、ベソかいて全裸で抱きついて来たら、だれでもこうなるよな? な? な?


 オマケに、ナディアの胸揉んじゃった時の事、連想しちゃったから、余計エラいこっちゃが長引くんデスヨ!

 あ、また、思い出しちゃった、マズ!


 ジャス子も、大声を出すヤバさを思い出し、すぐ叫ぶのをやめてくれた。


ぼくは、びくびくしながら、耳を澄ます。


 ……大丈夫みたいだ。


 なんだよ、病院で足音、気にするとか、バイオハザードじゃないんだぞ、ジルの丸焼き1丁上がりだぞ。

 

「叫ぶなよ、手を放すから叫ぶなよ? 自分で口押さえといてくれ、頼む」


ぼくが祈るように言うと、眼を見開いたまま、頷いた。


そうっと手を放すと、ジャス子が急いで、自分の口を覆う。


そうだ、分かってくれたか? 見つかったら、二人ともアウト、リスポーンなしの、1スト勝負なんだ。


もう一度、しー。


 二人して頷くと、ぼくは、ツルツルの安っぽい壁に背をあずけて、立ち上がる。床と同じ、強化プラスチックだ。


 びしょびしょの短パンと、Tシャツが重いけど、ジャス子は素っ裸だし、早く出ないと。

 

スライドドアをそっと開け、人の気配がないか、うかがう。


 隙間から、湯気が流れ出た。

 カーテンの向こうに、人の気配なし。

 廊下から、近づいてくる足音なし。


 よし。

 

 ホッと息をつき、中腰をやめて、振り向いた。


「大丈夫……」


 短パンのとんがったとこが、何かに当たる。


 ペタンコ座りしてる、ジャス子のおでこだった。


 時間が止まる。


 寄り目になって、超至近距離のそれをガン見する、青い目。


 恥ずかしいとか、やらかした、とか言う思いより、あまりの現実感の無さに、ぼくは固まった。


 口もとを押さえたままのジャス子が、ゆっくりと僕を見上げ……


 目があった。


「……!」


 ぼくは一瞬、踊ってから、しゃがみ込み、ジャス子は、腕とお尻を使って、高速バック、向かいの壁にぶつかった。


 そして、ぼくは、見てしまった。


 わずかに膨らんだ2つの胸と……

 

 両膝、立ててるから……見てしまった。


 決して見ては、いけない部分を。


 頭と、全身がしびれて、目が離せない。


 雪みたいに白い肌、桃色のアクセント。


 水滴が輝いて、その表面を流れていく。


 そして……


 ジャス子が、ぼくの見開いた視線の先を追い、その終着点に気付くと、光速で足を閉じた。


 アレ?


 パンツ、さらにキツくなって来たんだけど?


 ジャス子もそれに気づいて、真っ赤を通り越した顔で、涙をにじます。


 ……怒ってる……よね?


 答えは、顔面に飛んできた、ボディシャンプーの容器だった。


「凛の、ド変態!」


 額に直撃、のけぞりながら、ぼくは思った。


 デスヨネー。




 看護師さんが押すカートが、去っていく音を確認してから、ぼくはトイレのドアをノックした。


「もう、出てきていいぞ」


 疲れきった声で言うと、ぼくは、ノロノロとベッドに戻った。


 しばらくして、トイレのドアが開く音。


 ちょっと離れて立ってる気配。


 気まずい。

 とても、目を合わせられない。


 ぼくは夏掛けの、解れた糸を見つめていた。

 さっきの、衝撃的なシーンを思い出してしまい、布団を握りしめる。


「……ワタシの裸、思い出してんだろ」


 動転した僕は、踊ってしまった。


「ななナニ言ってんの、バカじゃないの!?」


 ぼくのTシャツと、新品のトランクスを履いて、上目遣いで、ぼくをニラむジャス子。頬が赤い。


 ウェストが全然あわないから、ズレないように、ゴムのとこを握ってる。


「ヘンタイ、チカン、エロオヤジ。エッチ・スケッチ・ワンタッチ」


最後のゴロ合わせは、ナニ?


横を向いて、口を尖らす、ジャス子。


「ゴーカン魔みたいな顔で、抱きついて来たり、あんな風になった、あんな物でデコピンしたり……凛が、超危険な、特級呪物だって、良くわかったよ」


 ヤメてよ、そんな言い方。

 呪術廻戦は、好きだけどさ?


「事故だって! わざとじゃないし」


 キッとぼくをニラむ。


「アタリマエだろ! わざとだったら……」


 ……何だよ、リンスの容器も投げたのか?

 

 オデコどうしたっのて、看護師さんにきかれたんですケド。


 ジャス子は、困ったように、ゴニョゴニョ言った。

 

「わざとだったら……口きかないもん」


 ……アレ? なんか。


「可愛くね、ソレ?」


 しもた、口に出た。


「うう、うるせえな! もう、いいよ。ワタシの裸で、ああなったんなら、しゃーない。うん、しゃーない」


 ……ジャス子。

 ……なんか、機嫌よくね?

   ぼくの勘違い?


「とりあえず、横に入れろよ。壁側。誰か来たら、床に落ちて、ベッド下に隠れるし」


「くら寿司の、皿かよ……」


 ぼくは、ぼやきながら、布団をめくった。


 ジャス子が、赤い顔でモジモジしてる。

 ちょっと恥ずかしそうに言った。


「……もう……タッテない? 別にいいけど……順番、大事じゃん?」


「タッテないし、別に良くねぇわ!」


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ