キュンです
白いリビング、林堂の寝ていた、布団。
リーファ達は、言葉を無くし、初々しく頬を染めた、ひとつ下のジャス子を凝視する。
いや。
ハスマイラは、興味なさげに、肩をすくめると、皆を追い出しに掛かった。
「ハイハイ、林堂君達が戻ってくる前に、ここを片付けなくちゃッス。行った、行った……ジャス子ちゃん、着替えとタオルは風呂場にあるッスよ。出て左の風呂場ね」
はーい、と返事し去っていく、左右長さの異なる、オカッパ頭を見送る。
「……マジ? 凜の側に、もうこれ以上、いらないんだけど、美少女キャラ」
リーファは、予期しない事故にあった気持ちで、呟いた。
肩が重くなる。
ライバルに回るとしたら……強敵だ。
お互い3日会ったかどうかなのに、腹の底を見せ合って、ある意味、信頼し合っている。
「……ちょっと、日付変わってから考えるには、重すぎるのう」
親友のナディアが、げんなりとこぼした。
コイツとは色々あるけど、やっぱり、キライにはなれない。
これが、女友達なんだなって、リーファは感動した。
かなりデカイ、目の上のたんこぶではあるが。
「ソリャ、アンナカッコイイとこ見セラレたら、アタリマエダヨ……」
オリガが、しゃーない、みたいに笑う。
青い瞳、白い肌は、ジャスミンと同じ。
自分より高い身長と、発育のいいスタイルには、頭が痛い。
あけすけに、林堂LOVEを公言し、ところ構わず抱きつきに行く、アメリカ人みたいなとこが、羨ましい。
まあ……
仕方ない。
リーファは、思った。
自分の相棒は、カッコ良すぎるんだ。
まっすぐで、優しく、純粋で、こうと決めたらトコトン突っ走る。
どの女の子にも、優しくて、優柔不断なところが、頭痛いけど。
自分は幼稚園の頃、ただ泣くしか出来ない子供だった。
ひょろひょろで、内向的、いっつも指をくわえてた。あの頃はママがいたけど、あんまり記憶に残ってない。
日本語も、ろくに喋れず、断片的な記憶は、涙で霞んだ景色ばかりだ。
凜に会うまでは。
『行こう、相棒』
そう呼んでくれた時から、私の視界は、クリアになり始めたんだ。
……なんであれ、吐きながら、ジャスミンを庇ってた、今日の凛は、しびれる程、カッコよかった。
素っ裸で、抱きついて、朝まで離したくないくらいだ。
「ハダカでギュってシテ、朝マデ、キスシテタイ……」
うっとりしたオリガの呟きに、リーファの心臓が跳ね上がる。
私の思考、オリガと同じなの!?
パジャマ姿のナディアが、半眼で言った。
「クローゼットに、突っ張りポールがあったけん、それでも抱いて寝んさい」
「ウルセーヨ!?」
ため息をつくと、リーファ自身、全く信じてない事を口にした。
「さ、行こ行こ。ジャス子、ただの夜の魔法かもしんないし、朝には解けてるかもだよ?」
「こうやって、女子だけでお泊りするのは、ワクワクする……ジャス子、初体験」
そう言いながらも、無表情でペッタリ座っている5年生に、リーファはツッコんだ。
「一々、いい方エロいって……」
10畳以上ある、リーファの自室。
ベッドや、机、本棚なんかの調度品があっても、布団を三組、余裕で敷ける。
「あー、ベッドイイネ。布団上げ下げメンドイ、ウラヤマ」
オリガが、ベッドの上をゴロゴロしながら、あくびした。
「ハスマイラサン、フトン敷イタリ、キガエ用意シタリ、大変。手伝エバヨカッタヨ……」
しんみりと呟くオリガ。
ワーキングガールを、自称するオリガにとって、ハスマイラは尊敬する先輩だ。
ベッドに頭が向くように敷いた布団の上で、三人、顔を突き合わせて寝そべる。
「んじゃ、夜は長いけん、始めるかの……被告人、前に出んちゃい」
「ねえね、呼ばれてるよ?」
「オマエだよ、ジャス子」
「えっ、ソウナンダ……だって、オリガねえさん?」
「ヘイヘイ、『イイじゃん』ハ、ドシタ? 吐イテ、ラクにナローゼ?」
「えー……」
ジャスミンは、膝をあわせて座り込んだまま、器用に、にじり出る。
うつむき、ちょっと赤くなって、ニヤついてるのを見た、ギャラリーがどよめく。
「なに、凜が、せっかく頑張ったのに……サトシはいいの?」
「そうじゃ、大阪メトロばりに、乗り換え早すぎじゃろ?」
「モウ、ジュウブン、定員オーバーダヨ、リンリン号」
ジャスミンは、真っ赤になって、頬を押さえた。
「そうじゃないけど……イイじゃん、今晩くらい? 明日には地元帰るんだし……」
クチを尖らせ、ぼすぼす、枕を叩きながら、異を唱える。
「顔掴まれて、デブから、助けてくれて、ぶん投げられて、抱きしめられて……」
両手のひらを、顔の前で合わせて、うっとりと目を細め、惚気続ける。
「首絞められたと思ったら、フラフラになりながら、庇ってくれて……それで」
耳まで真っ赤になって、口もとを覆う。
「『俺みたいなゴミで、ゴメン』とか……ズルいよ、あれで……子宮がキュンしない女子小学生……いる?」
「「「小学生は、子宮とかイワネーヨ」」」