表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/1077

ガンジーでも






「……え?」


 柱時計が、教えてくれる時刻は、零時前。


 怒りの表情を浮かべているサトシ。

 

 初めて見た。


 ポカンとする、ぼくから、眼を離さない。


 うつむき、真新しいパジャマを、着てる事に気付く、ぼく。

 ズキズキする、熱っぽい頭で考える。

 

 ぼうっとして、今日一日の記憶に、モヤがかかってるけど……


 ……いや。

 ジャス子の首を?

ソレ、全く記憶にないぞ?


 でも、目の前のサトシがウソをついてるようには見えない。


 ……という事は。


 さあっと、頭から血の気が引いて、体が冷たくなるのが分かった。


「そ、ソレヤバイって! 脳に障害が出る! ど、どこ!?」


「ジブンがやったんやろが!」


 サトシの怒声に、ぼくは、凍りついた。


 付き合いは短いけど、コイツは、どんな時でもおちゃらけてて、怒ってるとこなんか想像出来なかったのに……


 怖い。

 

 殴られそう、とか、そんなんじゃない。

 同級生じゃなく、年上に『叱られ』てるみたいだ。


 それは、思い違いじゃなかった。


「大会の時から、思ってた。なんで、ジブンら、すぐ暴力に訴える?……もちろん、ジャスもやで? けど、凛、理由がなんであれ、殺そうとする程の事なんか?……立つな! 死んでたら、今頃、警察来とるわ!」


 ぼくは、フラフラと座り込んだ。

 半泣きですがる様に、サトシに聞く。


「じ、ジャスミンは……」


「ジブンが倒れてから、すぐ、目ェ覚ました。ハスマイラさんが、起こしてくれたんや。今は、熱出して寝てる」


 ヨカッタ! 生きてるんだ!


 ぼくは、声をあげて泣いた。


 色んな感情がこみ上げてきて、言葉にならなかった。


 親不孝せずに済んだ。

 

 真っ先に、頭に浮かんだのは、それだった。


 泣いてるぼくに、少し声量を落とした、サトシが、ヤッパリきびしく言った。


「俺が怒ってるのは、暴力に対してや。オマエが、理由なく、そんなんするはずが無い。妹が原因に決まってる。それでも、暴力は、振るったヤツも、周りも、みんなを不幸にするんや」


 ぼくは、泣きながら、何度もうなずいた。

 

 コイツの言う事は、正しい。

 僕なんかより、考え方が、格上だ。


 そうだ、ぼくが人殺しになったら、周り全てが歪む。


 ジャス子は、マジでサイテーだ。

 疫病神だ。


 それでも、殺す程のことじゃない!


 ……ぼくは、何を考えていたんだろう。


 気づいて見れば、開いたドアの向こうに、駒口さんや、パジャマ姿のナディア達が立っていた。


 ぼくたち、小6が起きてる時間じゃないよな……


 みんな、なんとも言えない顔をしている。


 いや、駒口さんは……


「サトシ、その辺にしときなさい……ジャスの家族は、何も言う資格がないんだ」


 真っ青な顔で、サトシの肩に手を置く。


「あの……ジャス子は?」


 ぼくが、怯えながら尋ねると、駒口さんは、目を合わさずに、ボソボソと言った。


「大丈夫。悪かったね、凛クン。経緯は、お嬢さんたちから……」


 サトシが、肩に置かれた手を払い、駒口さんを問い詰めた。


「だから、何があってん!? さっきから聞いてんのに、俺にだけ教えへんのは、何でや!?」


 ゾロゾロと、部屋に入って来た、ナディア達が、困った顔をしている。


 その時。


 ハスマイラさんに、付き添われたジャス子が、幽霊みたいな顔で、扉の向こうに現れた。


「ジャス子! 無事か!」


 喉元に、くっきりと赤い手形を残したジャス子が、怯えた様に呟く。


「……ベルさん、マジでゴメン……マジで」


 ぼくは、感情を抑えきれず、泣きながら叫んだ。


「いや、ぼくの方こそ済まなかった! ぶん殴られてからの記憶がなくて……ホントにスマン! 生きててくれてありがとう!」


「イヤ……そんな簡単に、死なないって」


 ジャス子が、メッチャ嫌そうに言う。話を早く終わらせたくて、仕方なさそうだ。


 サトシが、ぼくに見せたよりも、怖い顔でジャス子を見た。


 怖いもの知らずの、ジャス子の顔が、恐怖で引きつる。


「眼ェ覚めたか、ジャス……オマエが最初から、説明せえ。ウソついたら、もう、口きかへんぞ?」


 ジャス子が、オリガと、リーファの服を掴んだまま、ガタガタ震え始めた。


 ハスマイラさんが、難しい顔で、口を挟む。


「言いたい事は、サトシ君が言ってくれたから、私からは、何も言う事はないッス」


 リーファ達が、恐る恐る言った。


「サトシ君、それなら、これ以上怒っちゃダメだよ?」


「そうじゃ、ジャス子も、綾波レイな事されたんじゃし、おあいこじゃけ」


あ、碇提督の恋人に、首絞められたアレか。


あの後、絞めたほうも、自殺したことを思えば、ホントに自分のやった事が、恐ろしくなる。

  

 サトシの顔に、衝撃が走った。

 

 怯えきった、ジャス子を、鬼のような形相でニラむ。

 

「首絞められて、おあいこ……ジャスゥ、一体オマエ、どんな非道をやらかしたんじゃ!?」


 オリガが、目を泳がせながら、努めて軽く言った。


「ソウネ……ショットガンがアッタラ、ガンジーでも、ブッパナスレベル……カナ?」



 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ