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薄くて高い本な事




「え」

「あ」


 ぼくもナディア達も、声をもらしたけど。


 それ以上は、瞬きしないでジャス子を見下ろす、相棒の圧に、吸い取られてしまった。


 歩み寄るぼくには、ジャス子の後頭部しか見えない。


 でも。


 背すじを伸ばした、ワンピースの後ろ姿に、ぼくは、胸が熱くなった。


 コイツ、さっきのキス、みんなを集める為だけにやったんだ。


 乱暴で、幼稚で、無計画で………

 

 自分の事は二の次にして。


 誤解されて、嫌われるかも知れないのに。

 殴られるかも知れないのに。


 さっき、ジャス子は言った。


『何の案もないなら』


 そうだ、ぼくは何も思いつかなかった。

 だから、ジャス子は……

 思いついた唯一の方法をとったんだ。


 役に立たなかった、ぼくに何か言えるのかよ?


 ……謝るのってさ、時間がたてばたつほど、難しくなるもん。


 もう終わりに近いけど、今はまだ、夏休み。

 学校が始まるまで、ナディアと会う機会はない。


 そして、オリガは学校が違う。謝る機会がない。


 その状況の、一番怖いところは、三人で集まるイベントが、遠ざかって行く事だ。


 だってそうだろ?


 ケンカしたら、先に声をかけるのって、めちゃめちゃ勇気いるじゃん。シカトされたらどうしようってさ。


 リーファが、ジャス子の頬を両手で包んで。


 頭突きした。


 コツンと。


「なんで、そんなやり方なのさ……」


 リーファの足もとに、ぽたぽた涙が落ちていく。


「無茶すんなよ。めちゃめちゃ責任感じるじゃんか……」


 ジャス子が、リーファの背中に手を回した。


「いいの。私を救ってくれた時の事を思えば、全然足りないよ」


「馬鹿野郎……」


 リーファは、もう一度、オデコを合わせると、ナディアを振り返り、涙声で言った。


「ナー、オリガ。ゴメン」


「エエよ」

「ワタシこそ、ソーリー」


 三人が、寄り添って泣いているのを見て、ぼくは座り込んだ。


 ………助かった。


 ジャス子、スゴイ奴だ。

 ぼくも、この5年生に、助けられた。

 

 全身がしびれる様な、安心感。

 やっと、安心して帰れる。


 甘かった。


「でも……舌が入って来て、ぱいぱい、こねられたのは計算外。みんなが来てくれなかったら、ジャス子、高くて薄い本のような事されてた」


「へあっ!?」


 三人に、ビー玉の様に生気のない眼を向けられたぼくは、座り込んだまま、後退った。


「……ジャス子が、ここに来たのも」


 ジャス子は顔を歪め、震える手で、ポケットから、何かを取り出した。


「ベルさんに、家出を手伝ってやるから、昔のパンツ持って来いって呼び出されたの……」


 不意打ちのウソに、口をパクパクしてるぼくを、豪鬼三人衆の視線が灼く。


 疫病神(ジャス子)は、『クッキンアイドルまいん』の絵柄が描かれたパンツを掲げた。


 「………俺も履いてみたいからって。女装は、ベルさんをここまで病ましてたのかって、ジャス子、震えた」


「履くのかよ!?………待てって、まさか信じないよな!?」


 ナウシカの巨神兵の様に、炎の中、近づいてくる三人に、ぼくは、つっかえつっかえ、叫ぶ。


 リーファが、眼以外は、笑って言った。


「もちろん冗談ってわかるよ………ベロチューと、チチモミ以外はね?」





 Tシャツをめくられ、お腹と背中に、さんざん、手形をつけられたぼくは、あまりの痛さに、力なく、じゅうたんを転がっていた。


 息を切らす三人の向こうの疫病神を、僕は呪った。


「テメェ………ジャス子………」


 ジャス子は、両肘を真上に向け、この上なくエラソーな腕組みをして言った。


「そもそも、ジャス子『この話はこの辺で』って言ったのにやめなかった、ベルさんが、元凶。これくらいで丁度いいの」


 ふざけやがって。


 多少はわかるけど、やりすぎだろ?


 これじゃ、ぼく、変態じゃんか。


 なにより、相棒にすら、そんな風に思われてるって、悲しすぎんだろ?

 

 ぼくが何したってんだよ……

 

 色々やったよね、前科ありまくりだもんね、陪審員、3人とも有罪にしようってもんだよね、スミマセンでした。


 ………でも、小5のチチなんか揉んでないだろ!?


「ジャス子……さっきの動画、サトシに送って説教してもらうからな?」


 ジャス子の動きが止まった。


 お、効果あり。

 そーか、兄貴には弱いんだな?


 まるで、ぼくが、ジャス子に手を出した様にしか見えない動画だけど、事情を説明したら、サトシはわかってくれるはず………


 ジャス子が、震えてる。


 散々な目に合わされたぼくは、やったぜ、としか思わない。


 効いてる、効いてる。



 ………効きすぎた。


 ぼくが思ってるより、遥かに。


 ジャス子は、能面をかなぐり捨てて言った。


「……やれよ。むしろ、有り難いくらいだよ、屋根ゴミ野郎」


 


 

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