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犯人はオマエだ





「ジャーマネさん、110してないッスよね?」


 気絶した男を、叩きつけた姿勢で固めたまま、ハスマイラさんが、ノンビリきいた。


「……いや、私はまだですが、さすがに、誰かが……」

 

「するようなガッツがあったら、そもそも、こんなヤツ来るわけないっしょ?」


 気まずそうに目をそらす、マネージャーの横で、メグが震えている。


 ハスマイラさんは、ニッコリ笑いかけた。


「メグちゃん、辛かったね。コイツは二度とキミの前に現れません。他の子供たちも、大変だったかな?」


 保母さんが語りかけるような優しい口調。


「大人のみなさん、お仕事大変だけど……子供を守ってあげて下さい。首をかけてでも……」


 その不思議なポニテのお姉さんが、オリガに目を向けると、いつの間にか、スマホを向けていたロシア人が、ムービーを切る音がした。


「マア、そんな選択を迫るコイツが全ての元凶ッスけど……起きろ、デブ!」

 

泡吹いてるアゴに、カカトを叩き込む、ハスマイラさんを見て、ぼくは叫び声を上げそうになった。


 いや、ダメやろ!?

 頭打ってる人動かしちゃあかんのに!?

 それ一番、ヤバイ起こし方……

 ってか、永眠するヤツですよ!?


 ………正直、流石に、もうこれ以上はやりすぎじゃ、って思うんだよね、しこたま蹴られて、デコ割れて、泡吹いてるし。


 何よりも、こんなヤツ捕まればいいけど………


 ぼくは、横で無表情に立ってる、サトシの妹に言った。

 

 「どっちかっていうと、ぼくらの方がタイホされるんでは?」


「やーん、ジャス子ドキドキぃ」


 男の首が動いて、何かうめき声がする。


「美女のキッスで目覚めた、オマエに質問ッス。チャキチャキ答えてね?」


 メグが泣きながら叫んだ。


「ヨカッタ、生きてる!」


 それな。

 

 憎くてたまらなくても、ホントに殺したいかは別だって、こないだの件で学んだから、メグの気持ち、よくわかるよ。


「オマエが、子供に殴りかかってるとこから、撮ってる動画あるッスけど、警察呼ぶッスか?」


「チガウよ、オネーサン。リーファが、触らレテルトコから……ホラ」


 オリガが、スマホをかざすと、手ブレはヒドいけど、しっかり、リーファが吊り下げられてるシーンが映ってる。


 オリガが、ウインク。

 

「ワタシ、ビジネス、失敗シナイヨ」


「わ、私も撮りました!」


 女性スタッフの一人が手を上げた。


「わ、私はバイトだけど、今まであった事も証言でき、できます!」


 つっかえながらも、若いお姉さんは、ヤケクソで叫んだ。


 ハスマイラさんは、いい顔で笑った。


「良くできました……さ、どうします?アタシも、子供達も、正当防衛ッスよ? オマエ、感化院がどうとか言ってたけど……いつの時代生きてんスか?」


 男は、哀れっぽく言った

 

「け、警察だけは……」


 褐色のお姉さんは、ニヤニヤ笑う。


「ッスよね? マスコミに流したら、どうもスミマセンのレポーターに、大人気……」


 その時、スゴイ勢いで、誰か入って来た。


「あ、パパ」


 完全に眼が飛んでる、橘さんが、リーファを見て、泣きそうな顔をした。


「リーファ、大丈夫か!? 良かった……済まなかった! 怖い思いを……」


「ちょ、離して、やめてって!」


 ノーネクタイのスーツ姿に抱きしめられたリーファは、メッチャ暴れた。


「もう、大丈夫だからな!」


「離せって、キモイ!」


 えー。

 リーファ、そこは、優しくしようよ?


「……すまん、あんまり可愛かったから」


 少し傷ついた顔で離れる、橘さん。


「……リー、こういうトコじゃな?」

「ナー、わかってくれてアリガト……」


 沈んだ顔の二人。


「「わかる」」


 ぼくとオリガはハモった。


 橘さんが、一転して、バロチスタンでも、見せた事ない鬼の形相で、ズカズカ歩いてきた。


「キサマ……死ぬ覚悟は出来てるんだろうな……林堂ォ!!」


「なんでやねん! あっちだ、アッチ!」


 胸ぐらを掴んで吊り上げられたぼくは、全力でツッコんだ。


 男を押さえつけた姿勢のまま、ハスマイラさんが、眉をひそめる。


「ボス……アタシ、ちゃんと伝えましたよね? 犯人、キモイ、オッサンだって」


「……そうだったか? そんな事やるヤツは、コイツしかいないって思ってたから……」


「ざけんな、相棒だぞ!? 放せ!」


「パパ、いいかげんにして。これ以上恥ずかしい事するなら他人だよ?」


「あ……いや、スマン。こないだのUSJで二人を見てたら、距離感変わってるし、まさか、リーファのマンションに泊まった時、何かあったかなと……」


 ジャス子が、呟いた。

 

「あ、ヤバ……」

 

 ぼくは、背筋がすうっと冷たくなった。

 

 なんだ、コイツ?

 エスパーか?

 エスパーなのか、マダオのくせに?


「……ソンナワケナイデショ。ハナシテクダサイヨー」


「パパ、キョウノスーツ、イケテルゥー」


「お? おお……」


 腹話術の人形みたいになったぼくらを、ナディアと、オリガが冷たい眼で見てた。


 やめて、その眼。


「あの……」


困ったように声をかけてくる、ハスマイラさん。


「そろそろ、コイツの手首、離したいんスケド。ベトついて、キモイんスよ」


 


 

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