表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/1079

インベーダー・サマー





『そうなの!? どうでもいい情報アリガト、今から鮮魚コーナーに『お魚天国』聴きにいかなきゃだから、チャオ!』


 って言いたかったよ、ジャスミンが、サトシの妹じゃ無かったら。


 なんでも、昨日、長期出張に行ってた、サトシ達の父さんが帰ってきたらしい。


 サトシ曰く、父は『あたおか(頭がオカシイ)』なので、ケンカは毎度の事なんだけど、家出は初めてだとか。


『アイツ、ボッチやし、行くとこ無いからな。橘さん所ぐらいしか思い浮かばんわ……そう、いつもは沙菜んトコに逃げ込むんやけど、来てへんって』


 リーファに聞いてみるって言って、lineを切ろうとした時に、lineのピンポン、が鳴った。


 一瞬、ヤナ予感がした。

 正直、最近のlineは大半、バッドニュースだし………


 予感は当たった。


 ジャス子: ねえねのトコ行きたいから、付いてきて。お礼に、4歳の頃のパンツ持ってきたけど?


 かなり血圧上がったけど、ぼくは心を込めてlineを返す。


 林堂:今から、お魚天国聴きにいくし、無理。サトシ心配してたから、line出ろよ。アディオス。


 さ! ひと仕事終わった!


 汗ダクながら、きよきよしい気持ちで、みんなの後を追おうとした所に、またline。


 舌打ちした。

 

 ジャス子:えー、ねえねに断られたら、ショックじゃん。ベルさんには、何言われても、カエルの面にションベンだけど………今、ヤラシー事考えてるんだろうな、サイテー


 ぼくは、フフッて笑うと、ブロックを押した。


 さ! 今度こそ、大丈夫だ。


 イラン時間を使っちゃったよ、ジャス子、イラン人だけに!


「……おい、あれ、うちのヤツか?」


 追いついた、仲間の群れが立ち止まって言った。


 ………それは、幻想的な、光景だった。


 せわしないセミの声、立ち昇るかげろうで、見慣れた校門が、歪んで見える。


 その中で。


 ワンピースに麦わら帽子の、女の子が揺らめいていた。


 ひさしが作る陰では、金髪が太陽を弾き、白い肌に、青い瞳が輝く。

 入道雲が広がる、青い空をバックに、彼女は、こちらに歩いて来た。


 夏が、人の形になった様なその姿が、こちらへ歩いてくるのを、ぼくらは声もなく見守る。


 誰かを探す様な仕草。

 

 軽くしかめられた顔は、お目当ての、誰かがが見つからない苛立ちのせいか。


 皆さん、夏が通り過ぎちゃいますよ。


 ぼくには、夏の終わりに抗議してるように見えたよ。


「………絵本みたいだな」


 ジンが、どこか呆れたように言った。


 集団の一番後ろにいる、ぼくと目が合うと、ノースリーブのジャス子は、花が開くような、笑顔を浮かべて手を振った。


 全員が一斉に後ろを向き、お互いの顔を見てから、ぼくをフォーカスした。


 手を振りながら、ジャス子は弾んだ声で言った。


「凛兄ちゃん! 約束のパンツ、ちゃんと持ってきたヨ!」




「イカレタ仲間を紹介するぜ!…… ジャスミンだ、忘れていい」


「わかったから、離したれって! 第一関節までめり込んどるやんけ!」


 僕に顔を掴まれ、だらんとなってるジャスミンを見て、焦る仲間たち。


「ベルさん、頭蓋骨がミシミシ……」


「ハハッ、ダレソレ? ボク、ミッキー!」



 ベルって呼ぶな!?

 大会出た事バレるだろーが?

 ウマ娘のコスプレ、バレるだろーがッ!


 ちなみに、ジンには、全部話してある。

『大変だったな』って一言だけだったのが、涙が出るほど嬉しかったよ。


 今も、現在進行中で、大変だけどな?


「凛、わかった。その子が冗談好きなのは。わかったから、離してやろうぜ!?」


 ジンに言われ、ぼくは、自分の左手を使って右手を引き剥がした。


 ボサボサ髪のダルそうな半眼で、立ってるのは、夏の化身とかじゃなく、見慣れた、憎っくきジャス子。


 なんで、コイツぼくに絡んで来るんだよ?


 どう考えたって、コイツからは、敵意しか、感じられない。


 ぼくが何したってんだよ?


 ぼくは、スマブラのオンラインで、大事な試合を捨てゲーする気持ちで言った。


「ジン……ゴメン。ちょっと、コイツ、リーファのとこまで送ってくるわ」


「お、おう。また、来れたら来いよ」


 ちくしょう!

 ちくしょう!


 ぼくは、大空に向かって、自分のツキの無さを絶叫したかった。


 スーパー行きたい!

 古市行きたい!


 なんでこんな目に合うんだよ?


 こんなヤツ、4年生がやってるミニチュア田んぼに植えて、キンパツから、もみが生えてくるまでお世話してやりたいと思ってるさ!


 でも、ほっといたら、何言い出すかわかんないじゃん!?


 コイツ、それ読みで、ここに来たに決まってる!


 夏の侵略者は、あご紐で引っかかっていた麦わら帽子をかぶり直すと、可愛らしく小首をかしげて言った。


「アリガト、お兄ちゃん……だーいすき」


 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ