第四章 パルテナと定規、ゲムヲとゼリー(3)
《登場人物》
林堂 凜
主人公。 小6、男。 任天堂Switch 大乱闘スマッシュブラザーズが学校一うまい。
香咲 ナディア=マフディー
小6、女。パキスタンと日本人のハーフ。主人公と同じ学校。
梁 梨花
小6、女。台湾人と日本人のハーフ。主人公の幼馴染で、相棒。小学校は別。
ジン
クラスメイト。男。クラスのリーダーで、優しい
佐竹
クラスメイト。女。クラスのボス。
鈴香
ナディアの姉。高校生。
「なんだよちくしょう!」
21時、広くはない、自宅のマンション。
風呂上がり、布団の上で、僕はおそるおそる、首の傷にガーゼを貼る。
リーファに思いっきり噛まれた痕だ。
「・・・!」
ぐおお、めっちゃ沁みる!
畳を台パンしながら、痛みをこらえる。
襖の向こうから飛んでくる、母さんのうっさい!が、すごく納得行かない。
チックショウ!同じ言葉しか出てこない。
サイテーな一日だった。
のたうち回る僕を残して、さっさと練習に戻ったリーファ。
もう、整列して終わりの挨拶をしてたから、僕だけコーチに叱られた。
僕はちょっと泣いた。
タオルを首に巻いて隠してたけど、トイレの鏡で見たら血が滲んでた。
もう、二度とあいつと関わるもんか。
僕もナディアも、リーファも三者三様迎えが来てたけど、マジでムカついてたから、一言も喋らずにさっさと帰った。
軽トラで迎えに来た父さんに、ナディアのお姉さんに挨拶された事と、顔の腫れの事聞かれたけど、「レスリングで」とだけ言ったら、何にも言わなかった。
僕は、痛いのをこらえて横になった。
スマホを見る。ゲームも結局してない。
家は、風呂から上がったらゲームは禁止だから、普段は配信を見てるんだけど、今日は、その気も起きない。
lineの通知をみる。グループや、友達に混ざって、リーファからも来ていた。見たくもなかった。
ブロックして放り出す。死んじまえ、ボケ。
僕は団体戦の事を考える。
……なんか、イヤになって来た。
ナディアの事も、思い出すとムカムカする。
結局、女子は訳がわからないし、関わるとろくな事にならないっていう、僕の信条が強くなっただけ。
でも、ナディアのお母さんいい人だったし、あんな事言っちゃったしなあ。
悶々としていると、携帯が鳴った。
lineじゃなく電話だ。
母さんのこんな時間に誰や、という言葉をききながら、画面を見る。
『梨花』
僕は、通話拒否を押して、放り出した。
着信拒否にするの忘れてた。
又、鳴り出した。
母さんが、また聞いてきたので、舌打ちを堪えて友達!と答えて風呂場に行った。
ここぐらいしか、内緒で話せない。
「……なんだよ」
僕は不機嫌丸出しで言った。
電話の向こうでリーファのしゃくりあげる声。
ますます腹がたった。
泣きたいのはこっちだ。泣いたけど。
リーファは無言。
僕は切ろうとした。
「凛、冷たいよ」
鼻にかかった弱々しい声。
「何が? lineブロックか? 神様でもそうするわ」
「ちがう。なんでレスリング、辞めるなんて言えるの?」
「ハア!?……お前、何言ってんだ? 隙あらば辞めたいって、オマエもいってただろ!?」
リーファのしゃくりあげる速度が速くなった。
マジ泣きしてる。初めてだ。
「幼稚園から、ずっと、一緒、だったのに、私のことなんかどうでも、いいんだ、アイツと、仲良くなったから」
僕は、予想もしてなかった言葉に、喉を詰まらせた。
「土曜日、一緒に、定規買いに行く約束……楽しみに、してたのに、あのコのとこ、いくんでしょ」
僕は声を詰まらせた。
忘れてた。
僕は、湿気で水滴が画面を流れるスマホを握ったまま立ちつくした。
足には間抜けなお風呂用スリッパ。
でも、僕の顔はもっと間抜けだったろう。
「あ、いや……」
「アイツ、強かった……私、なんにも勝てない」
声を上げて泣くリーファに、僕は自分がすごくイヤな奴だと、思い知らされた。
僕は……
いつでも無表情なコイツは、勝手にダイヤモンドみたいに傷つかないって思い込んでた。
死んじまえ、クソボケ。
僕は自分に吐き捨てた。
父さんが、廊下でウロウロ困ってる気配に気づいた。
僕は湿気でびっしょりになったTシャツを洗濯機に放り込んで言った。
「すぐ、lineする。悪かった、ゴメン」
部屋に戻る。
母さんが襖の向こうにいるから、文章を打つ。
「リーファおる?」
「ここ」
ゴメンのスタンプを送る。
仔犬が怒ってフンスと鼻息を荒くしてるスタンプが帰ってきた。
小さく笑ってしまう。
いや、怪我してるの僕なんだけど。
「ちょっと考え足りんかった」
「ちょっと?」
マジで言ってる?のスタンプ3つがリーファから。
「土曜日は大丈夫。イオン集合な?」
じーっと仔犬が疑わしげな眼で、見ているスタンプが。
「けど、他のことはやっぱりわからん。レスリングやめたとして、何?ずっと相棒が変わるの?」
返事なし。
「その考え方、もっと冷たくね?だから、リーファが何で怒ってるのかわかんないんだ」
返事なし。
「ずっと一緒だったし、これからもそれが当たり前に思ってたけど。違うの?」
返事なし。
何か、マズったかな?
でも、ホントのことだから、他に言い様がない。
幼稚園の頃から一緒、意味がわかる前から俺達アイボーって言ってた。
そりゃ最近、ウザいけど、会いたくないって思ったのは今回だけだ。
アイツがナディアと何でぶつかってたのか、全くの謎。
どうしようかと考えてると、シュポッと音がした。
バカみたいな顔した奴が。
バーカって言ってるスタンプ。
そうこうしてるうちに、そのスタンプが連打される。
バーカ
バーカ
バーカ
で、画面の左が埋まる。
何だコイツ。
鏡見た?とマリオが言ってるスタンプを連打し返す。
リーファからやっと文面が来た。
「土曜、朝9時。お昼はマック、ポテトはおごれ」
「あわてるな、イオンは10時から」
「食料品階は、9時から開いてる」
甘いな!のジョーカースタンプが。
やるな、コイツ。
「いや、そこでなにを?」
「いいんだよ、細かい事は。首大丈夫?」
「痛い」
「あの子の話するな。一応ゴメン」
一応ってなんだ。
なんでナディアと初対面であんなに仲悪い?
聞こうと思ったけど、文面みて、今度にしようと思った。
いつものお休みの挨拶が来たからだ。
「バカヲタ凛。お前なんか好きの反対」
その文と。
派手なキスマークにオヤスミの文字のスタンプが。
僕はホッとして、スマホを放り出した。