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君は、ジョーカーの二つ名を知ってるか




「凛……ナーが嘘つくわけ……つかれたわ、さっき。説明して」


 殺人鬼ってこんな目をしてるんだよ、きっと、って顔でぼくを凝視する、相棒。


 昨日、キスした時の、はにかんだ顔とのギャップがエグ過ぎて、ぼくはチビリそうになった。


  ナディアと握手している右手が、ギリギリと、音を立てて震えている。


 女子って、なんなの?


 微笑んだり、いいニオイがしてみたり、キラキラ涙をながしたり……


 なのに、目の前のリーファは、レイジ状態の、豪鬼にしかみえない。


 ぼくは、今まで観戦モードだったのに、突然、乱闘の当事者にされ、頭が真っ白になった。


「……えっと、その」


「したの?」


 一切、遊びのない、ド直球な尋問に、ぼくは必死で言い訳……いや、説明する。


「いや、事故! 事故だったんだって!」


「ペロッたの?」


 眼だけ吊り上がって、能面なのがメッチャ怖い!


「チガウ!唇を舐めようとしたら……」


 リーファのこめかみに四つ辻が浮かんだ。


「つまり、乳に顔を挟んでたんだね?」


 ……なに、この華麗な誘導尋問?


「そ、それは……」


 なんて言う?

 挟んだ?

 挟まれた?


 ナンダヨ、昨日のリーファにキスしたか、されたか、のナディア版になってるじゃん?


 嫌な汗が、ダラダラ流れる。


 リーファと、ナディアの顔にも、水滴が浮いてるけど、涼しいとこ行かない? って言える雰囲気じゃないもんね、知ってる。


 助け舟を出してくれたのは、ナディアだった。


「サイダーこぼして、着替えてるとこに、リーにぶたれた凛が、帰って来たんじゃ。慌てて転んだところを抱えて……」


 ナディアが、リーファと握手の我慢くらべをしながら、うつむいた。


「抱き寄せた」


 リーファの顔が、ナディアに向く。


「……それで?」


 リーファの掠れた声。怖い。


「……聞かんほうがええ」


「そ・れ・で?」


「押しのけようとした、凛の手が、うちのチチに当たって……」


 ナディアが、恥ずかしそうに身悶えしながら、囁いた。


「ぶち、揉まれた……痛い言うたら、離れて土下座しちょったけんど」


 リーファが、白目を剥いてよろけた。


「嘘だ、信じない……信じない」


 足に来てる、リーファ。

 もう、握手してる右手だけが、相棒を支えてる状態だ。


 大丈夫け? などと心配する、ナディアの気遣いが、更に追い打ちをかけてる。


「うち……自分に自信ないけ、嫌われた思て泣いちょったら……」


 え、ヤメテ?


 ナディアが、両手で顔を覆い、手を離されたリーファが、棒のように倒れた。


「『オマエは、パルテナみたいにキレイだ』って言ってくれて……うち、もう」


「ギャー!」


 ぼくは恥ずかしさのあまり、のたうち回る。


 家の前でなにしてんのって話だけど、無理!

 恥ずかしくて、死ねる!


「……ハッ、パルテナ?」


 リーファが、鼻で笑いながら、ヨロヨロと立ち上がる。


 ダウンしながらも、そこに活路を見出したのか、リーファは、アゴを、ナディアの頭に乗せて辛うじて、立っている。


「ナーが、パルテナ? 冗談。色白、スラリ、パルは私に決まってんじゃん」


 一瞬、固まる、ナディア。


しゃあないのう


 ナディアが、呟いた。

 余裕どころか、哀れみさえ感じられる。


「リー」


 ナディアが、頭にリーファの顎を乗せたまま、両手で、ボブをかきあげ、自分の首をさらした。


「凛、情熱的じゃけ、色んなとこにキスされた……キスマークついちょらんかの?」


 ズルズルと、崩れ落ち……


 膝をついたリーファ。


 そのまま、正座して、ベッタリ仰向けに倒れた。


 ……女子って、

 体柔らかいよな。

 

「じゃなくって! リーファ、ばっちいって!」


 うっうっ


 リーファが、顔を覆って泣き出した。


「わだぢ……ばっぢぐなんが、ないもん」


「いや、そういう意味じゃなくて!?」


 声を上げて泣き出すリーファ。


 低学年以来の、その姿を呆然と眺めるぼく。

 

「リー。……スマン、許せ」


 主君の命で、親友を斬ったサムライっぽく、呟くナディア。


「嫌だ、許ざないっ! 凜はわだじの相棒なのっ! 凛って呼んで良いのは、わだじだけなのっ!」


 うつ伏せになって、手足をばたばたさせて喚く相棒。


「凛、ひどいじゃん! 昨日あんなに見つめ合っで、チューしたのに! 次の日は、親友の乳揉むとか……」


「わーっ、わーっ! 声でかい!近所迷惑! ちょっと、冷静になろうよ!?」


  「乳ペロするとか、ゴミじゃん!もう、屋根ゴミ(ペルソナのジョーカー)じゃん!」


「ごふっ!」


 一番クズな、二つ名頂きました!

 

 スマブラのジョーカー、プレステ版ゲームでは、9股とか出来るんだよな!


 屋根裏に住んでるゴミだから、屋根ゴミ。


 ネットで、見た時は、リーファと腹抱えて笑ってたのに、自分がそう呼ばれるなんて、夢にも思わなかったよ、人生・油断大敵ダヨネ!


 でも、客観的にヒキで見て思う。


 ……その通りだよな! ぼくのやった事、かなりゴミ!


「でも……凛も、男子だから……」


 呟いた、リーファの動きが止まった。

 

 むくりと、上体を上げて、ぼくを瞬きもせずガン見する。


 怖いって。


「気の迷いだったんでしよ? 今なら許してあげる!」


得体の知れない恐怖に、お腹が、ゴロゴロ鳴る。


 ぼくが、心の底から女子に恐怖した瞬間だった。


 


 

 

 

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