お寿司だって、ホントは廻りたくないはず
「今日は、みんな疲れてるから、解散……って言えなくなったわねぇ」
ナディアママが、リーファにべったりのジャスミンや、上機嫌なサトシに笑わされているナディア、楽しそうな、メグやオリガを見て苦笑した。
保護者一同も苦笑している。
ぼくらも、サトシ達も、コスプレはやめて、普段着だ。
履きなれたデニムと、蒸れなくなったアタマに感動!
もう、裏声で喋らなくていいんだよね?
あぐらかいても、叱られないよな?
学校のヤツラに、正体バレしてるか、配信のコメント気になるけど、今は忘れようぜ、ぼく!
サンシャイン・ホール一階。
午後四時、陽が少しだけ傾いて来てるけど、エアコンの効いてる、ホール内から出るのは避けたい暑さだ。
自動ドアの開閉にあわせて、セミの声とアスファルトの匂いが消えたり、現れたりしてる。
優勝した、ボク達も、優勝しなかったサトシ達も、ハイだ。
サトシ、めっちゃリーファに感謝してて、ぼくらに、「友達になってほしい、スマブラはどうでもいいから」って言ってくれて……
サトシ達は、ジャスミンを笑わすのが目的で、リーファのお陰で、それ以上の目標が達成出来たんだ。
でも、少しだけモヤモヤする。
あんなに強いのに、どうでもいいって言われたら、ぼくら、立場がないもんなあ。
まだ、中高一貫大会の最中の、うさ山さん達スマ勢に、別れを言って、ぼくらは2階の会場から、降りてきた。
四方は、リーファの会社の人達が見張ってるから、心配ない。
目付きの鋭い、警備の連中に、サトシ達はビビってたけど。
「オリガさん、大人しいですね?メグ、意外です」
「今は、ビジネスのお時間ネ。お館サンにさっきの写真送るマエに、やる事あるヨ……ナディアママ、病院ハ?」
「香咲家では、治るものはケガと呼びません」
相変わらず、カッケーな?
予測してたのか、頷いたオリガは、ナディアママに、口許を寄せて、何か囁いた。
ナディアママは、悪戯っぽく笑った。
「いい考えね? みんな、ゴハンでも食べに行きましょうか? お祝いに、オバサンがご馳走するわ。10人だから、びっくりドンキーにでも……」
サトシが、怪訝そうに言った。
「オバサンって……だれです? まさか、自分の事言ってんですか、オネエサン?」
ナディアママが、咎める様にサトシに言った。
「その歳で、お世辞は関心しないわよ?……近くに、しゃぶしゃぶのお店があったわね」
「お世辞? 言ってませんが?」
「配信で、『このオネーサン、キャワワ』とか散々言われてたのに、何言ってんですか?」
リーファの腕をべったり抱きしめて離さないジャスミンが、無表情に続ける。
ナディアママが、表情と、声色を厳しくして、言った。
「ジャスミンちゃん、そんな口のきき方するものじゃありません」
「はーい。ゴメンナサイ」
ナディアママが、素早くスマホを操作しながら言った。
「……続きは、がんこ寿司で聞きます」
「うお、マジか、ママ!? やったぞ、リー!」
え、チョロくね、ママ?
オリガが、ナディアママの、袖を引張った。
「ママ、10人でイクラくらい?」
「……10万弱?」
オリガは、顔をしかめて首を振った。
「間違いなく怒るネ」
「……あ、出タ。サラーム……お館サン……オスマン叔父もイルネ。ハーイ……ウケル、メッチャ驚いて、クチアケテル」
オリガ、ナディア、ナディアママが、オリガのiPhoneを覗き込んでる。
僕が、手短に、みんなに事情を説明した。
沙菜が、真剣な顔で言った。
「つまり、うちらが、がんこ寿司に行けるかどうかが、これで決まるわけやね?……うち、廻らへんお寿司行ってみたいんよ」
「オレも。お寿司だって、廻りたくなんか無いはず」
「メグも」
「ジャスミンも、リーファねえねと食べる」
オリガが、眉を顰めて、iPhoneと会話している。
「エーとね、二度と連絡クレルって、思ってナカッタミタイ。コマッテル」
ナディアが、頷いて言った。
「オリガ、通訳たのむ……婆っちゃん、チームのみんなで、悪もん、シバいたったぞ。ママがエスカレーターの上から、ぶん投げて、ウチが、飛びヒザかましたったんじゃ」
「……小6女子の、会話じゃないですよう」
メグが、悲しく呟く。
「あんなん、なんぼ来ても、返り討ちじゃ……ところで、ウチら、優勝したんやで?」
ナディアが、マフディの運命を受け入れた瞬間だった。
それは、僕達を巻き込む覚悟、それに、甘えるカクゴも決めたって事だ。
そうだ、ぼく達がついてる。
それを信じてほしい。
ナディアママも顔を出して、二人声を揃えた。
「Don't you say anything?(何か言うことは?)」
お婆さんの叫び声が、ここまで聞こえた。
そして、バリバリという、連続した銃声。
「チョ……部屋の中で、ナニシテンノ!? マブルークジャネーヨ!……キケヨ!……オヤカタサン、踊るナ、腰、コシ!ヤバイって!……キイテナイネ」
「あれ、部屋の中で、鉄砲ぶっ放しちょるんか?」
「元気ねえ」
「メグ、言ってること、理解したくないんデスケド」
僕の横で、メグが青くなって呟いた。
オリガが、何か言った。
多分、寿司屋に行くから、お金出せって言ってるんだ。
お婆さん達の気持ちの負担を、少しでも減らすための、オリガのアイディアだろう。
オスマン叔父さんのものらしい喚き声に、オリガがのけぞる。
オリガが、ナディアママを見上げて言った。
「1000ドルぽっちの店なんか、ユルサナイって。言ったデショ、その値段ジャ、怒ルッテ?」