負けても
「やる気あるんか、ベル!?」
ナディアが喚くのも、当然。
弱キャラだし、特にミュウツーに対して、有利を取れるわけじゃない。どころか、むらびとは、パチンコなんかの飛び道具キャラだから、反射持ちのミュウツーに対しては、不利さえある。
だから、僕は画面に大写しの、むらびとと、ミュウツーを睨みながら言った。
「勝ちたいから、こうした……見てろ」
『3,2,1……Go!』
『ミュウツーに、むらびと! 共に公式ルールで見かけないキャラです! さあ、どんな闘いを見せてくれるのでしょう?』
ステージは、ヨッシーストーリー。
台が3つある、基本的なステージ。
実力が試される……1on1にはうってつけの場所だ。
僕らは、ソッコー、台から降りた。
降りると同時に、ぼくのむらびとは、パチンコを撃ちまくる。
紫の力場を発生させ、念力でパチンコを弾く、ミュウツー。
むらびとは、『どうぶつの森』シリーズに出てくる、三頭身キャラ。パチンコや、はにわミサイルを撃ち、ボーリング玉や、植えた木を切り倒して相手に当てる、かなり変わったキャラだ。
そして、アケミ(37)が使うミュウツーは、ポケモンの人気キャラ。耳の短いカンガルーみたいな見た目で、長い尻尾を振り回して戦う。
正直、強キャラじゃないし、むらびともミュウツーも、小学生が使うキャラじゃない。
最初の動きを見て、すぐに分かった。
コイツ、かなり強い。
溜めるほど、威力の出るシャドウボールを溜める、ミュウツー。
僕はパチンコを撃ち続け、はにわロケットを、ミュウツーに向けて発射。
その後を追いかける。
ミュウツーの念力で、反射されたそれを台にのってかわす。
反対側、すぐそばに降り立つと、近距離から、パチンコを発射、のけぞるミュウツーに駆け寄り、弱パンチを連打する。
ボクシンググローブをはめたパンチを、ボコボコ喰らって、ミュウツーは吹っ飛ぶ……
けど、弱攻撃だから、ダメージは大したことない。
そして……
『あーっと、ミュウツー、拾ったモンスターボールを、崖外に捨てた?』
スマ勢のみが、どよめく。
本気なんだな?
『むらびとも! ベル選手も箱を捨てまし……笑った! 両選手とも、笑っているッ!』
追撃をかけるこちらを、念力で宙に浮かすと、長い尻尾で反撃。
ぼくも、コンボを、パチンコで相殺してから、相手を大きな網で捕まえ、崖外に投げ捨てる。
ステージに戻って来ようとするミュウツーを、むらびとの代名詞、横スマ・ボーリング玉を構えて待ち受ける。
当たれば低%でバースト。
けど、崖上がりの反撃をくらい、不発。
のけぞったところに、シャドウ・ボールをくらった。
長い尻尾で、ガンガンお手玉され、ダメージが蓄積するのを、空N側転で弾き、網で捕まえ、投げ飛ばす。
舞い降りながら、シャドウ・ボールを溜めるミュウツー。
させない。
ミュウツーの念力反射を誘う。
今だ!
『ミュウツーが、バーストォ!念力をその場回避でかわしたむらびとの、ボーリングをもろに喰らった!』
おおおお!
どよめく観客席。
むらびとの横スマ、崖そばなら、軽いキャラを、60台%で飛ばせるんだ。
そして、ミュウツーは軽い。
相手が復帰するまでの時間、拾って捨てられるアイテムは、全部捨てる。相手の気が変わって、使われたらたまらない。
現れた、スマッシュボールは無視。捨てられないから。
降りて来た、ミュウツーが………
それを割った。
これで、ミュウツーは強力な切り札を使える。
「汚ったねえ!」
リーファが叫び、僕はがっかりした。
次の瞬間。
『暴発か!?アケミ選手、逆方向に切り札を撃ってしまった!』
アケミ(37)が呟く。
「……使われたらかなわんしなぁ」
アガるねぇ!
負けても後悔すんなよ!?
僕は口許が吊り上がるのを感じながら、はにわロケットと共に突っ込む。
そこからは、一進一退の攻防が続く。
ミュウツーのコンボをくらってトバされ、こちらが『しまう』で盗んだシャドウ・ボールを、叩きこんで獲り返す。
パチンコを弾く、念力で反射されたボーリングでカウンターを食らわされた時は、『1-1』の画面を愕然と見つめながら思った。
もう一つのメイン、ゲムヲなら、負けてた。
コイツ………
サトシより上かも知れない。
『アイテムを、そして、アシストフィギュアをことごとく無視! もう、漢字の漢と書いてオトコ……いや、オンナと呼ぶしかない、殴り合いが続きます!
沸く! 沸く! 観客席も、熱狂しています……さあ、互いにチャージ切り札のゲージが溜まって、体が光っている……
あーっと! 崖外に向かい、アケミ選手が、切り札を使ったあ! アケミ選手、50%のビハインドで、あえて!もう、シビレるとしか……
続いて、ベル選手も!……これ、ホントに、小学生の闘いなんですかネェ?互いの意地が、火花を散らします!』
リーファと、ナディアが、後ろで何か叫んでる。
ミュウツーの、上スマをかわし、パチンコを反射されながら、ぼくは思った。
むらびとは、使い手が極端に少ない。
上位勢の使い手も少なければ、対策が出来ている人も少ない。
いわば、『初見殺しキャラ』。
実際ぼくは、オンラインで、プロや、それに近い人達を、むらびとで倒してきた。
ただし。
連戦したら、もうダメだ。
上位勢の対応力は、ハンパないから、その場で対策され、撃墜されてしまう。
でも、一先、一回限りの勝ち逃げなら、話は別。
………なのに。
『アケミ選手、ジリジリと追い上げる!その差、30%!』
スゴイよ、オマエ。
俺よりスマブラ上手いかもな。
『残り1分、サドンデスも見えて来たか?……ミュウツーの尻尾がヒット、崖外にトバされるむらびと、追う、ミュウツー!』
追撃をかわすため、反対の崖まで、フーセンで飛ぶむらびと。
むらびとの飛行能力はハンパない。
『反対の崖まで、ミュウツーがダッシュ。足が速いぞ、ミュウツー! さあ、この崖で勝敗が決まるか!?』
そうじゃない。
決めるんだ。
崖に捕まるむらびと。
この読み合いで……極める!
ジャンプ上がりを読んだミュウツーが、小さく飛んで放電。
わざとタイミングをズラしてのっそりと崖に上がったむらびとの前で思わずガードを張るミュウツー。
そして。
何もしないむらびと
背後から、仲間達の囁く声がはっきりと聞こえた。
「「……上スマ」」
再び、タイミングをずらした僕の攻撃、上スマ花火がミュウツーを灼いた瞬間、ぼくらの全国行きが決まった。
『Game Set!!』