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シュシュ





ぼくらのチームが、ニ勝。


 サトシのチームが一勝。


 つぎの四戦目、あっちが勝てば、五戦目で決勝。


 こっちが勝てば、そこで終わり、ぼくらの優勝。


次の四戦目、誰が出るかで、結果はほぼ決まる。


 僕は席を立って、ナディア達と話し合おうとした。


 椅子の背中に手を掛け、立ち上がろうとした時だ。


「どうすんの?」


 アケミ(37)が、俯いたまま言った。

一瞬、僕に話しかけて来たのか、そう思って、彼女を見た。


「……ウチ、()()()()()()()()()()()()


 僕は驚いた。

 順番、隠す気ないのか?

 それとも、負けてキレたのか?


 彼女の考えてる事が分からず、ぼくは隣で、固まってしまった。


「ベル」


 リーファに手まねきされ、慌てて立ちあがる。


「ベルさんが、一番強いん?」


 背中を丸めたままのアケミ(37)に唐突に話を振られ、僕は観客席に背中を向けたまま、彼女を見下ろした。


 リーファが鋭く言った。

 

「ベル、ほっときな!」


「………まあ、そうかな」


 僕は答えた。


 サトシとカレンは、何も言わない。


「ウチと1on1やらん?」


「……いつ?」


「つぎの試合で」


 僕は混乱した。


 つまり………


「アイテム、アシスト、チャー切り(チャージ切り札)無しで?」


「そう」


 ベル、相手にすんな!


 リーファとうさ山さん達から同時に声がかかる。


 多分、配信では声が拾われてないはず。


 冗談じゃない。裏切った方が先手を取れるじゃんか。


「サト、カレン、次も私が出るよ。ええね?」


「………もう、クラウドやめよっか。にいにが、アイテム戦ならコレ、って押し付けたけど」

 

「俺が間違えとった。もうクラウドええから、勝ってくれ。その間に、五戦目出れる様にしとくわ」


 カレンとサトシが、なんの気負いもなく言った。


 僕の背中に電流が走った。


 リーファとナディアも言葉を失くしてる。


 コレ………


 コイツラ本気で言ってる。


 突然、ぼくの中で、何かが噛み合った。


 クラウドの動きの違和感。

 あの、キーコン。


「三人の誰でもええです。1on1なら……負けへんし」


 セッティングのお姉さんが、待ちきれずに、言った。


「席に戻って、次の出場選手の話し合いを……」


「はい。私が出ます」


 アケミ(37)が手を挙げ言った。


 ボクの心臓が跳ね、嫌な予感が確信に変わる。

 やっぱり、コイツラ本気だ。


 眼鏡っ子はサイドテールのシュシュを外し、艶やかな髪を後ろに払った。

 どよめくスマ勢。


そして、うさ山さんに足を踏まれて悲鳴を上げるスマ勢。


「お許し出たし、メインで行くよ。ベルさん、やらん?」


 地味なゴムで、ポニーテールに結わえ直しながら、口調はそのまま、雰囲気の変わったアケミ(37)が続ける。


「うち、こんな大会どうでもいいけど……」


 こっちを振り向く。

 

 オドオドしてた、さっきまでの態度はなんだったんだ?

 

今のコイツの顔………

 

 完全に、スマ勢の顔じゃんか。

 

 眼鏡越しの、静かな視線を僕に据えた。


「自分が負けるのは、大嫌いやねん」


 ああ。


 僕は思った。


 この自分の事しか、頭にない身勝手さ。


 正しくスマブラーだ!


 僕はリーファ達が、頷くのを確認してから手を上げた。


リーファ達も、ヤバイ匂いを嗅ぎとったんだ。


 セッティングのお姉さんが、スタッフに、OKサイン。


アケミ(37)は、画面を見つめたまま言った。


「ありがと。うちは、1on1で行くけど、付き合わんでも……」


「ミュウツーで?」


 アケミ(37)が、驚いた様に振り向いた。


 やっぱり。


 ポニーテールのせいで、軽く吊り目になってて、別人みたいに鋭い顔だ。


「……なんで、分かったん?」


「キーコン。配信で、ミュウツー使いの人が紹介してて……特殊過ぎるから、覚えてた」


 アケミ(37)は、ふっと笑うと、モニターを向いた。


『ミュウツゥー!』


「流石やねえ。ちょっとワクワクするわ」


「1on1だね?いいよ、付き合うよ………」


 僕が選んだキャラを見て、アケミ(37)が、目を見開いた。


「コイツで」


『ムラビトォォ!』


 超弱キャラを選択した僕に、リーファとナディアが絶叫した。


「「アホー!!」」



 

 

 

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