21世紀から来た狙撃手
アイツ……サトシは言ったんだ。
『今度は全力だ』
そう。
確かに全力だった。
✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱
『あーっと! ずらし復帰を読んでの、フシギソウ、下スマ!CFを撃墜!』
「ぬはははははは!痛、いだッ、ひっ、膝!ぶはははははは、や、やめ、こっち向くな、シバくぞ!!」
スピードスケートの選手が着る、真っ青なレオタード。ソイツを頭まで着込んだサトシに、薄目で見つめられ、ナディアは、気が狂ったように笑う。
ヒゲはマジック、鼻はピンポン玉、首には鈴で………
ボール紙で作ったゴルゴ13の眉の下で、まぶたに描かれた、猫目が、ナディアを見つめる。
サトシから、立ち昇る不可視のオーラ。
………見なきゃいいじゃんって思うだろ?
そう思えば思うほど、見ちゃうんだよ、気になって!
『私は笑わない、絶対に!……でもちょっぴり不安……そうだ、今見ちゃおう、そうして自分に証明するんだ!」
とか自分に言ってさ! 突き指したとこひねくり回しちゃうのと、同じアレだよ!
…………ふざけんなよ。
『集中を削いでしまって、済まない』とか、しょんぼり言った10分後にこれって、頭オカシイだろ!?
意表突かれて、余計に笑ったわ!
「薄目……ヤメロ……」
リーファが、隣のイスに手を掛け、口許を押さえ、息も絶え絶えに呟く。
わかる。
への字口を軽く開けて、薄目になったサトシは、
「……壺に吸い込まれる寸前の悪霊みたい……」
「あはははははははは!」
腹筋崩壊寸前の、僕の感想がツボったのか、リーファが、けたたましく笑う。
長い付き合いでも、ほとんどなかったぞ、こんなの?
これ、汚いだろ?
まともな勝負になるかよ!
無効試合だ、無効試合!
この試合が終わったら、抗議してやる!
………チームの入場は、僕等が先だったんだ。
『続いては、このチームの入場です!』
サトシを先頭に堂々と入って来たチームを見て、観客だけじゃなく、司会のレイお姉さんまで、爆笑した。
ゴルゴ眉を備えた、ストイック顔のドラえもん。
ナディアさえ、腰を折って笑った。
なんだよ、まさかの反省ゼロじゃんか!
スタッフ、仕事しろよ!
ちくしょう、アッサリ裏切りやがって………
『台風来るから、ワンチャン、明日休校……?』
から、必ず裏切る、暴風警報思い出したよ!
カレンは相変わらず遠くを見てるし、アケミ(37)は、うつむいて、ちょっと泣いていた。
司会のレイお姉さんは、笑顔を崩さなかった。
「いやー、凝ってますネェ。えっと………」
任天堂、公式の配信だから、スタッフは『ドラえもん』って言えないんだろうな。
マイクを向けられたサトシは、胸を張って、宣言した。
「ドラえもんです!でも、背後には回らないでね!」
「あー、なるほど、相手チームのコスプレに対抗した訳ですね?」
「あっ………」
マズイ!
それを言われると、何も言えなくなる!
「そうです!彼女達のクオリティの高さを見て、負けてられないってオモタんです。全員かわいいの、ズルいですよね」
「………なんじゃ、アイツ。そんなん……関係ないじゃろ……」
「ふざけんなよ……そりゃ……そうかもだけど」
二人とも、険しい顔のまま、ちょっとうりんうりんし始めた。
え、チョロ過ぎね?
マズイことに、観客席から、同意の拍手が巻き起こり、メグから指示が。
「三人とも、手、振って!塩対応、ダメ、絶対!」
僕ら三人、愛想よく手を振る事になってしまった。
ナディア達の、満更でもない顔よ。
なんで女子って、アイドルごっこ、大好きなんだろ?
………ヤベェ、これ抗議出来る、空気かな?
その後、決勝戦だけ、自分の当たる選手と各々握手するんだけど………
白布を手首のとこで縛った、ドラえもんハンドを差し出されたナディアは、腹を抱えたまま、なんか、彼氏に甘えるみたいにサトシをぺしっとかハタいてて、もうダメだなって思いました。
僕と当たるアケミ(37)は、握手の時、
「堪忍な、堪忍え……」
とか言って小声であやまるから、
「大変だな……」
って言ったら、余計泣いてた。
そして現在。
ゼニガメにチェンジした、サトシは、CFに容赦ない猛攻を仕掛ける。
強い。
さっきの準決勝のポケトレとは、格がちがう。
同じゼニガメなのに、動きの速さがちがうのは、急降下の入れ方が上手いからだ。
立ち直ったナディアは、さっき身につけた対ゼニガメの、ステップからファルコンナックル、『yes』と見せかけて、空中でのバックナックル、体当たりを織り交ぜ、やり返す。
ナディアのダメージが50%を越えたところで、サトシはフシギソウに、ポケモンチェンジ。
言い忘れたけど、ステージはハイラル城。
中央に平らな床、左右は一段下がった床。
中央の塔には小さい床。
割に暴れやすいステージだ。
サトシは、飛び道具の葉っぱカッターを投げつつ、長い触手をムチの様に使い、ここぞという所で、スマッシュをパナしてくる。
だけど。
ナディアは、果敢に足の速さを活かし、スレスレで、フシギソウのスマッシュを避けると、掴んで床に叩きつけた。
サマーソルト、サマーソルト………
殺し技の膝!
紫色のエフェクトと共に、フシギソウが、画面外にぶっとんでバースト。
「よし!……クララ、画面だけ見てて!」
サトシの方は見るなって訳だ。
トホホ……
サトシの小さな呟きに、リーファは、天井を素早く向き、ほっぺを内側から舌でレロレロする。
いや誤魔化せてないし。
ナディアは、一瞬ぶふっ、て吹いたけど、アシストフィギュアを拾って掲げる。
バイト君!
つまり、クレーンゲームのクレーンだ。
挟んで連れ去られると、1ストック溶ける。
当たりの部類に入る、アシストフィギュアだ!
ダメージは、ナディア65%、サトシ0%で同じ2ストック。
まだ、まだ、わからない。