勝つのは
危なげ無く、勝ったカレン選手は、無表情のままTシャツを指差しアピール、所定位置に戻った。
腕を組んだまま、スピー、と吹き戻しを一度伸ばしたサトシの頭をハタきつつ。
観客の笑い声が起こる中、僕は冷静に分析する。
………このネス使い、リーファといい勝負ってところか。
キャラ相性的には、ネスに対して、リーファのパルテナはガン有利だから、勝算は十分にある。
そして、次の3人目。
さっき、サトシ選手に、「座りよし」って声かけてた、何ていうか……苦労が似合いそうなメガネ女子だ。
前髪ぱっつんのサイドテール、黒い袖の膨らんだ長袖シャツ、女の子らしい丈の長いスカートにサンダル……
地味だけど、垢抜けた服装。
前の二人と違って、フツーだ。
おずおずと腰掛け、真っ赤になってうつむく………えーと。
「第三戦目、後のない、スマブラ突撃隊からは、リス選手!バーニング学園・お嬢様部からは、唄声パブ/バーニング・アケミ(37)選手!」
「ぬはははは、ぶはははははは」
ナディアが、とうとう膝を折ってけたたましい笑い声を上げた。メグも、手を叩いてバカみたいにゲラゲラ笑っている。
ああ、リーファまで、丸くなって全身、震わせてる!
会場は、勿論、大爆笑。
解説の大物スマブラーさえ、『いやー、狙ってきますね』とか言ってる。
スルーは無理だもんな!
サトシは、(もう、選手ってつけなくていいや)ゆっくりと鼻眼鏡を外し、いい笑顔でアケミ(37)に親指を立てた。
「やったな、アケミ(37)!ケッコー刺さったやんけ」
「(37)言うな!」
アケミ(37)は、半泣きで喚き、余計笑いを取ってしまう。
「キモオタ共がッ、そこに直れ!」
うさ山さんの声に振り向くと、半泣きのアケミを見て、ハァハァしているスマ勢が、一人づつ、ビンタされていた。ラビさんが入ってないのが救いだ。
そっか、攻撃力のない女子は、ヲタクの大好物だもんな!
「「「キモ……」」」
メグ、リーファ、ナディアの3人が、笑いを引っ込め、冷たい流し目をくれていた。
やめなさい、わかるけど。
アケミは、困り顔のまま、相手選手と握手し、闘いが始まった。
リス選手、ガノン、アケミは、クラウドだ。
クラウドはファイナル・ファンタジーの主人公で、切り札も強く、復帰以外は完璧な剣士キャラ。
ステージは、ハイラル城。
………結論を言うと、アケミの勝ち。
どちらも、下手じゃないけど、取り立てて上手いとも思えなかった。
特にアケミは、強い技を擦り続けるだけの「パナし」って呼ばれる人種にしか見えない。
圧勝だったので、そのやり方は間違って無かった訳だけど……。
「………何か、選手の順番的に、1番目から、特上、上、並ってカンジかな、両チームとも」
「ウチらと逆じゃのう……っちゅう事は、アリスの2戦目、それと、延長戦の順番がカギじゃな」
「何さ、クララ、自分は負ける計算?」
「全力でやるけんど、4戦目、5戦目まで、考えちょった方が現実的じゃ」
「………うん」
珍しく、リーファが素直に折れた。
そうだ。
つまり、僕とサトシが当たるのは避けられないだろう。
心臓がはねた。
大きく深呼吸する。
正直、サトシは、僕の知ってる小学生スマブラーの中では1番強いと思う。
ただし。
『僕を除いて』だ。
「……凛?何で笑ってんのさ」
いつの間にか、顔がニヤけてたみたいだ。
これから、インタビューを受ける為に、ステージ前に並んだ、アイツラを見ながら言った。
「いや………今からアイツラも、俺達を見て真っ青になんのかな、って思ったら、笑えてきてさ」
振り向いてた二人と、メグが笑った。
そうだ、弱気は何の足しにもならない。
ヤツらと当たるのは決勝でだ。
まずは、目の前の、準決勝。
「さっきもアイツラ、見てただろうけど、次の試合、もっと派手に決めてやろうぜ?」
頷く三人に、僕は言った。自分に言い聞かせるように。
「行こう、勝つのは俺達だ」