ハイスペックな女たち(JS)
僕は絶望のあまり、絶叫してしまった。
救いは、あまりのショックに、アホみたいな、裏声になってた事。
周りが何事かと振り返る。
受付のスタッフが、真っ青になって、こっちを見てる!
そうだよね!
もうヤダよね、いらんトラブル。
ま た お ま え か
目を見開いた顔に、そう書いてあったから、慌ててペコペコして、会場入口まで駆けた。
ホントは、ジュースコーナーに逃げ戻りたかったけど、もうすぐ出番だ。
腰を低くして、声もおさえて喚く。
「いや、色々あって、今もウマ娘!……ハ? 気に入ったわけ無いだろ、地獄だわ!送信、取り消して!………readついた? おま、なんでそんな、仕事早いのさ!?ああああ……」
力尽きたぼくは、滑り込むように、治療を終えたらしい、ナディア達のそばにorzした。
「ど、どしたん、ベル!?」
顔を上げると、目を丸くした、ナディア。
……良かった、さっきの顔、見られてなかったみたいだ。
「……オリガ経由で、ナディアのお婆さんに、配信のURL、送っちゃった……」
数秒して、ナディアが目を見開いた。
「ベル、コスプレ見られてええんか!?」
「ベル、何、そのメガンテな姿勢!?」
「ヨカッタ!やっと自分の可愛さに気づいたんですね!……イデェってば、はなひれ!」
僕は、メグの頬をつねるのをやめ、四つん這いの姿勢から、地面に押し付けていた、スマホをノロノロ持ち上げる。
僕が口を開く前に、オリガが何か言ってた。
『……リン、リン!あ、やっと出た……リンの言う事はワカッタヨ。デモ……ナディアはドウナノ?リーファは?』
「リーファ、ナディア。オリガが、こんなに迷惑かけたのに、行って良いんだろうかって。マフディ家はどうすればいいのかって」
リーファは、怪訝な顔をしてたけど、一言。
「アホか。はよ来いって伝えて……ナー、言ってやんなよ」
不安げにリーファを見上げてたナディアは、俯いて……ポツリと言った。
「………林堂は、ええんか?実家だけちゃう、ウチもいらん失敗ばかりじゃ。また、さっきみたいに怒らせるかも知れんよ……」
メグは気まずそうに顔をそらし、リーファは額をおさえ、僕は顔が熱くなった。
見られてたのか。
僕を気遣って気づかないふり……
情けないけど、このハイスペックな女子達には全然、敵わない。
……でも。
ごまかしなんかいらない。
僕は心から言った。
「ホント、ゴメン。全部僕が引き起こした事なのにね……だから」
僕はナディアの手を取った。
至近距離から見つめ合う。
「こんな、足りない僕だけど、これからも助けてくれる?」
ナディアの眼から涙が溢れた。
リーファの舌打ちとボヤキ。
「……ったく泣きたいのは、こっちだっての。貧乏くじばっかり」
ぼくは思わず笑った。
「イチバン迷惑かけるな……でも、今更なんだろ、相棒?」
リーファに軽く蹴られる。
俯いて、ぽたぽた涙をこぼしていたナディアは、ぐじぐじと、顔を拭いて言った。
「オリガ、後で写真送るけん、『婆っちゃん』に転送たのむわ………あと、早よ来んちゃい」
『…………オマエラ、マジ、バカばっかりダネ……りょ……アリガト』
泣きやんだナディア、赤くなった顔で、僕らを手招きした。
「おまんら、ちょう、よりんさい……メグ、カメラ頼む………メグ?」
振り返ると、メグは呆然と口を開けて、スクリーンを観ていた。
そこでは、今、対戦している、2チームの闘いが映し出され、実況の興奮した声が小さく聞こえてきてる。
Gブロック代表対、ᕼブロック代表の一戦目。
小戦場って呼ばれる台有りのステージで、ジョーカーと、ポケモンが戦っていた。
「あの……私、スマブラわかんないけど、全然……」
メグが、スクリーンをガン見したまま呟く。
僕も気づいた。
Gブロックのジョーカー、かなりいい動きだ。
僕の心臓が跳ねるくらい。
大技は、ここぞと言う時しか振らず、ジャンプも、技の置きも、僕でもそうするって場面で、的確な択を選んでる。
「めちゃめちゃ上手くないですか………」
これ……このジョーカー、リーファとどっこいどっこいくらいはある!
僕の頭の中から、スマブラ以外の全てが追いやられた。
……普通一番強いヤツは、3戦目に出てくる。
一戦目でこれって……
ナディアとリーファも、呆然としている。
気づいてしまったんだ。
事のヤバさに。
ダメージレースは、残り1ストック対、2スト、ダメージは……
0%と、108%
『ペルソナ!』
ジョーカーが、最強スタイルに変身する。
おまけに、体が光って、切り札がいつでも使える状態だ。
行った。
『行くぞ!』
一瞬のムービーの後、ジョーカーが、瞬速でゼニガメを横切る。
その時。
ゼニガメが、フシギソウに、ポケモンチェンジ。
ポケモンチェンジのわずかな瞬間、キャラは画面上から、入れ替わるために消える。
何もない空間をジョーカーは、切り裂き、
切り札は不発に終わった。
リーファとナディアの声にならない悲鳴。
その神業に、僕は頭が真っ白になった。
………これ。
すべてのキャラの切り札とそのフレームを理解してないと無理なヤツだぞ!?
言葉を失くした僕らの目に映ったのは。
Hブロック代表のあいつが、あの、変なTシャツを着たあいつが、しかめっ面で、メテオを叩き込み、パーフェクト試合を決めたシーンだった。
メグの震え声が、僕の脳内でこだまする。
「めちゃめちゃ強くないですか……あの、ポケモン?」