表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/1091

負けるかも








「村井、セッティング係を私とチェンジ、タイムテーブルはそのまま……配信のキューは?今かかった?レイさんに引き伸ばすよう言って、中止はない!こっちで対処する」

 

 入り口で、青い顔をしてる若いスタッフへ、ハンドサインをまじえて、嵐の様に指示を出す、関ジャニ推しさん。エスカレーター先頭の警官は、もうそこまで来てる。


「キミタチ初戦でしょ?行って、お母さんも!」


 僕らは、頭を下げて、人混みに紛れこんだ。

 大人の人達が、気を利かせて、僕らを警官の視線から遮るように移動してくれた。


 ……マジかよ、大会、中止じゃないんだ?


 あまりにも色々あり過ぎて、現実味が全くわかない。みんなのヘイトを買わなくてホッとしたってだけが正直な感想……

 

 あ、りょうちんの親父さんたち!

 お礼言わないと!


 ……なんか、煽ったりしたのが、スゲぇ恥ずかしくなってきたぞ。

 そりゃ、あの時はあっちが……


「ベルさん、早く!」


 Switch一式をトートバッグに片付けたらしいメグが、ブンブン手を振ってる。


 考えるのは後だ!


 ステージでは、『命の灯火』が流れる中、進行のお姉さんがにこやかにマイクを握っていた。

 

 僕達が視界に入ったはずなのに、チラとも見ない。プロだ。


 ステージ向かって左には、各チーム二人が待機する為のイス計4つ、それと対戦台が据えられていた。


ちょうど、僕らの対戦相手が、紹介された所だった。

 

 僕らは、ステージ前で、三角座りしている観戦者を見つつ、さっき待機してた廊下に駆け込んだ。


「Bブロック代表、クラリスベル、こっちへ!」


 緊張した声で、スタッフが、ぼくらを手招きする。そりゃそうだ、僕達、リアル乱闘組が来た上、時間が押しているんだ。


 ナディアママは、ここからは入れないから、観戦席。


「ナ……クララ、勝ちなさい」


 ナディアが、立ち止まり、傷を隠すため、髪を下ろした、ママを振り返る。


 僕らは、目に涙をためたままのナディアを追い抜く。


「マフディ家の重荷を、言い訳にしないで。勝つことだけを考えなさい」

 

 ナディアは、乱暴に涙を拭って頷き、僕らに続いた。


 マフディ家の重荷。

 

 そうだ、ナディアの実家のお家騒動が、今回の発端だ。こんな事が……ナディアのこれからについて回るのか?

 

 リーファもそうだ。

 今更だけど、この二人はホントに似てる。


 突然、ひらめいた。

 

 いらない考えが。


 銃と、血と、刃物。


 ぼくら三人の周りには、これからもついて回るんだろうか、こんな誰かが死に続けるような、未来が。


 さっきの、押切蓮介の漫画のひとコマみたいな光景が蘇る。


 ………僕は……怖かった。

 体が熱くなり、嫌な匂いの汗が吹き出る。

 

 今日、たった半日で、百年生きた様に思える。

 訳がわからなさすぎて、考えがまとまらないのが、救いなのかな。

 

 

 僕ら三人は、対戦チームのコメントが終わるまで、待機するよう指示をされた。


 スタッフと、ママが去り、僕ら三人、部隊袖で立ち尽くす。


 台湾での試合を思い出す。

 

 あの時も、気分は最悪だったけど、みんな、軽口を叩く余裕があった。

 

 今は、スマブラ出来るかどうかすら、自信がない。


 ナディアの顔色が悪い。

 リーファも、何か尋ねたいのを、我慢するかのようにステージを見ている。


 誰も口に出さないけど分かる。


 さっきの大男が生きているかどうかが、気になって仕方ないんだ。


 ……僕らの、『殺せ』って言った言葉が、重くのしかかる。


『コロすぞ』って、みんなフツーに使うけど……


 小さい頃なんとなくテレビで観た、白黒映画、『12人の怒れる男』って映画で、主役が言ってた。


『でも、ホントには殺さないだろう?』


 ………ホントに殺してどうするんだよ。


 僕自身、その事実の重さに、吐きそうだった。

 

 たった一言で、僕らは、殺人犯になっちゃうのかな。


 言わなけりゃよかった。

 

 ……駄目だ、泣きそうだ。




『続いてはこのチームです』




 小さく聞こえた、アナウンス。


 スタッフさんが言った。

 

「クラリス・ベル、入場してください」


 リーファが言った。


「切り替えよう。まず勝つよ」


 僕はリーダーなのに、何も言えないまま、ナディア達に続いた。



 コンディションは最悪。

 

 相手チームが、何のキャラ使ってるかも分からない。



 ………同じ小学生相手に、負けるかも、って思ったのは、初めてだよ。


 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ