らき☆すた な歩き方
その呼び出しを聞いて、僕は頭がシビレてしまった。
何? 何なの、さっきから?
時間くらい守れよ、フリーターにもなれないぞ?
ふつふつと怒りが沸いてくる。
なんだよ、ブラック企業かよ?
『業務は9時からだけど、掃除は8時半』
みたいな時間の押し方!
配信12時20分からっていっただろ、あと30分もあるじゃん……って、ブロック代表、Aからᕼチームのトーナメントだから、8チーム分写真撮るわけか、そりゃ時間かかるわゴメン!
「これで行くしかないわけか……」
「勝てば勝つほど晒されるんじゃな……」
選択肢がなくなった途端、ビビリ出すナディアとリーファ。
そーだよ、だから、三人で泣いてたんじゃないの。チヤホヤされていい気になってっから、肝心な事忘れるんだよ。
ウマ娘リーファの生写真に、ニヤニヤするヲタクと、佐竹たちに、教室でおウマさんごっこをさせられる、ナディアを想像して、ちょっと気分が晴れた。
二人が、キッ、と僕を振り返る。
「ベル、肚をくくろう」
「そうじゃ、もう、演じ切るっきゃないけん」
他人事じゃなかった、僕が一番ダメージデカいやん、肝心な事忘れてたのは自分だったわ、僕のバカバカ!
手でハートつくったヲタクと、親指立てた僕が一緒に写真を撮ってるとこを想像してガタガタ震えてたら、向こうから、マネジャーとメイクさんを連れたメグがやって来た。
「んふふ・・どうやら覚悟はきまったようですね?」
背中で手を組んだメグが、猫っぽく、しゃなりしゃなり、と近づいて来る。
「時間がありません……鈴木!今こそ本気を……イダっ」
ペシっとメグの頭をハタくと、メイクの鈴木さんは、手ぶらのまま、速歩で近づいてくる。
本人は、ひっつめ髪で地味な鈴木さんが、両手首を返すと、魔法のように、五指の間に筆と小瓶が出現した。
マジシャンかよ!?
「光で飛ぶし、変装も兼ねるから、濃く描くわよ……同時にやるから、寄りなさい」
僕はハチマキマスクを外し、慌てて二人に顔を寄せる。
周りにガン見されて恥ずかしかったけど、動いたらぶっ殺されそうだったので、全力でマネキンを演じる。
筆を次々とくわえ直し、機械のようなスピードで、仕事を進めていく。
どんどんキレイになっていくナディアたちに見とれてたら、「1ミリも動かないで」と叱られた。
刀鍛冶が、刀身を見つめるようなしかめっ面で僕らの顔を、色々傾けて見てたけど、
「よし、ok」
また、手首を返すと、あっという間にメイク道具が消えた。
鈴木さんは、Aブロック代表がバカっぽいポーズで写真を撮ってるのを見ながら、僕等に言った。
「演るって決めたんなら、絶対に迷わないで。たとえバレても、クオリティ高かったらバカにはされない……ゲームもコスプレも、最高を目指しなさい、いい?」
三人揃ってハイ、と答える。僕は口パクだけだけど。
メグが、手をパタパタ振って言った。
「注目!ポーズはこれで行きましょう!」
片手を腰に当て、斜めに立つ。
ミス・ユニバースなんかの立ち方だ。
驚いた事に、メグ、サマになってる。
リーファ達も感心していた。
「メグのクセに……」
「生意気じゃ……」
感心しようよ?
聞こえてなかったのか、メグがキビキビと続ける。
「ちょっと首を傾げて、手を出したら、ティーン感出るけど……はーい、行きます!……細かいポーズは私がチョクで直します」
「あっ……!ウマ娘?」
もう聞き慣れてしまったセリフが聞こえた。
……ただ、気になったのは、その声の調子。
純粋に驚いてるだけの、男子の声。
その後に続くセリフが、カワイーとかではなさそうだった。
僕は、写真の撮影をしているステージに急ぎながらそちらを見た。