アイドルになって、両親に楽させてあげたいってセリフ……正直、死ねばいいと思う
「……えっと、情報量、ヤマモリ過ぎてちょっと」
壁際にある、僕らの身長より高い、トーナメントの進行が表示されてる、電光掲示板の前。
大学のオフでお世話になってる、うさ山さんが、しかめっ面で、こめかみを押さえていた。
ラビさんは、呆然としてるし、僕ら4人はとても居心地悪い。
メグは、離れたとこで距離を取ってくれてる。
うさ山さんも、ラビさんも、小学生団体戦の後に配信される、『スマブラ中高一貫大会』に出場する為、この会場に来てる。
ちなみに中高一貫ってのは、あくまでシャレで、中学生以上なら誰でも出れるんだ。
うさ山さんも、ラビさんも、空いた時間、僕らの応援してくれるって言ってたから、合流する事になるのは分かっていた。
他のスマ勢も来てるけど、みんながみんな知り合いって訳でもない。
ナディアママは、挨拶だけして、僕らの後ろで連絡をとっている。いつまでたっても、オリガ達に連絡出来ないので、ナディアママに、僕のスマホを渡してLineしてもらってるんだ。
うさ山さんが、気を取り直して、真顔で言った。正直、珍しい。
「大体把握した」
ステージ上で進行している、ブロック代表決定戦(予選)を見ながら、うさ山さんは続ける。
「さっきLineで頼まれた通り、『今回の団体戦、ベル君不参加。代わりのコが出てる』ってtweetしたけど……正直、それで良かったか分かんないな」
団体戦では、三人メンバーの内の誰かが出場不可能になった場合、代役は認められてるんだ。
途中で交代する、替え玉はダメだけど。
僕はずっと気になってる事を聞いた。
「配信見て、『あれ、ベルくん、なんで?』って書き込みそうなスマ勢って、どれくらいいますかね?」
「さっきの配信見てたけど、『Go、クラベル』って、知り合いっぽいのの応援が一つだけ。後は『ウマ娘 草』ばっかり。スマ勢、夜型だから、それは救いだね。さっき頼まれてtweetした分も、いいね、3つくらいしかついてないし」
今まで黙っていたラビさんが、口を開いた。
「でも、勝ち進んで言ったら別だよ?ゲムヲ使いの小学生なんて、ベル君以外、いないでしょ」
「……ですよね」
「僕としては、コスプレやめてさ、ベル君だけ軽い変装にしたらどう? 警察はごまかせるくらいの。僕らが来た時はいなかったよ、お巡りさん……決勝ステージまでに、服、着替える時間あるでしょ?さっきの予選は、罰ゲームだったとか言ってさ、傷口広げないほうがいいと思うよ?うさ山さんに頼んだtweetは消してもらえばいい」
僕は唸る。
………それは正直考えてた。
要するに、こっちから自爆するんだ。
トナメの上に登れば登るほど、目立つ事になる。
後になるほど、バレたときのダメージはでかい。
うさ山さんが、済まなさそうに言った。
「ゴメン、私達も予選始まるし行くわ。基本、私達、ベル君達に近寄らないようにするよ。他のスマ勢も寄ってくることになるからね」
僕達は頭を下げて見送り、三人向き合う。
ちびっ子達の、ウマ娘やーと言う、無邪気な言葉が聞こえる度に、メッチャ際どい現実を思い知らされる。
「……どうする?この姿で大阪大会乗り切るか、学校のヤツらが誰も見てない方に賭けて、コスプレ辞めるか」
リーファが、口許を押さえて考え、考え、言った。
「……時間ないね。正直、どっちでもいい。同級生アホだから、誰かが見つけたら、あっという間に広めるよ。だから、いつバレてもダメージは同じかな。私達はカワイイからプラマイゼロより、プラス側でイケるけど……」
「なんじゃ、リー。その肯定感高めな感想。ラリっちょるんか?」
「さっきから、みんな、あの娘達カワイーって褒め言葉しか聞かないから。思ったより悪く無いのかなって……ナー、disられた?」
「………いや。一緒におったんじゃから、知っちょるじゃろ、もう!」
そういってモジモジしだした。
顔は赤いし、今の「もう!」も、何かカレシに甘えるみたいなカンジの「もう!」だ。
あれー?
あれれー!
お二人さん……
まさかの、乗り気ー?
ねえ、僕一人だけ?
本気で悩んでんの、僕一人だけ?
ミンナ、さっきの涙、なんだったのー?
ぼくがやり場のない怒りに駆られてたら、
ナディアママが、何気に言った。
「私も、そう思うわ。コスプレはわからないけど、あなた達カワイイわよ?選んだキャラの見た目だけじゃなく、wikiで見てみたら、個性もしっくり来てるし。
配信のコメント、ベタ褒めじゃない。り……ベル君も含めて。
この規模の配信で、そんなカッコ出来るのメジャーデビューしたアイドルくらいよ?
だってそうでしょ?全国大会まで行けば、Fischer'sと映るんだから。
最悪、凛くんは変装、二人はそれで行けば?」
「「えー」」
はっ!?
ボクは目を見開いた。
何、その『えー』!?
……分かる。その『えー』は僕の一番嫌いな奴だ!
あの、、、
あれだ、あれ!
そう、アイドルのオーディションなんかで、バリバリ気合い入れてきましたーな女子が、志望動機聞かれて、
「ともだちがー、かってにおうぼしちゃってー」
とか、3フレームで分かる嘘を吐くときのヤツだ!
がっかりだ!
まんざらでも無い顔で、うねうねしてるお前たち、見損なったぞ!
それでそれで、言うんだろ?
あれ、言うんだろ!
お願い、それだけは……!
「……ナーがそうしたいって言うなら」
「……リーがどうしてもっちゅうんなら」
僕は、声にならない絶叫を放った。
言ったな!?
とうとう言ったな!
僕は、ホメられる気持ちよさにヤラレ、ヲタサーの姫予備軍に堕ちていく二人に涙しそうになった。
二人とも、しょせん、女子だったんだな!?
今のオマエラ、ごちうさのデュエルマットで、クイーンズブレイドのスリーブキメた、WIXOSSカード並べるヲタより、恥ずいぞ!
古市のデュエルスペースでな!
あー、いいよ!
それならそれでいいよ!
僕は僕で好きにさせてもらうさ!
実際、ありがたいしな、女装で、全国デビューせずに済んだら!
その時、スタッフの人が来ていった。
「決勝ステージ配信用に、チームのスチール写真撮りまーす。Aブロック、Bブロックの代表、ステージに来て下さーい」