見てて
「スゴかった!クヤシイとか、そんなん通り越してもーたで!」
僕と3戦目に戦った相手が、興奮気味に言った。背の高い、フツーの男子だ。
わざわざ、僕達が退場するのを廊下で待っていて、挨拶をしに来てくれたんだ。
入場まで座っていたベンチは、少し離れたとこにあって、そこで次のチームが控えている。
僕はなんて言っていいか分からず、でも、嫌な奴にはなりたくないから、どうしようって思ってたんだ。女声自信ないし。
そしたら、
「ありがとう。あなたのチーム、今日対戦した中で一番強かったよ」
「そうじゃ、また、やろう」
リーファとナディアが、代わりに言いたいことを言ってくれたから、僕は笑顔で頷くだけで済んだ。
それはないやろー、とか言って、相手チームはみんな笑ってくれた。
ナディアママと、相手チームのお母さんも、和やかに会話している。
試合内容は、僕らの完勝で、僕は1ストも落とさず、勝った。
……コイツら、すごいなあ。
僕は、相手チームに感心しきりだった。
もし、自分が負けた時、同じ事ができるだろうか?
「ところでさ」
暫く、持ちキャラの話をしてると、僕と戦った男子がサラッといった。
「ベルは、ジェンダー的に女子なんやろ?」
僕らの時が止まる。
ナディアママもおもわず会話を止めた。
僕は血の気がひいていくのが、分かった。
そんな、簡単にわかるもんなの?
自分なりに、車の中でメイクさんに言われた事、守ったつもりなのに。
足を開かない、背筋を伸ばす、体を掻かない……
今日何度目かの、パニックに襲われかけたけど、レンタの眼に、悪意が全く無いのを見て、なんとか、踏みとどまれた。
一瞬場に走った緊張は、次の一言で解けた。
レンタが、小柄なメンバーを指差し、フツーに言ったんだ。
「アキラもそうやから、すぐ分かったわ」
アキラって呼ばれた子が、照れたように笑った。
一瞬出遅れたけど、リーファが言った。
「そうなんだ?うん、まあ、そう。ただ、内緒にしててもらえないかな」
これまた、当たり前の様にレンタは頷き、続けた。
「せやろな。まあ、俺ら茨木市住みで、そんなんフツーやから、何とも思わんけど……」
「えっ、フツーなの?」
ナディアママの思わず出た問に、向こうのお母さんは、何言ってんの、この人、みたいに答えた。
「フツーですよ?スカート履いて登校してくる男子、ズボンで登校してくる女子、いくらでもいますよ?その子らは多目的トイレつこうてます」
「……お住いの茨木市の学校は皆そうなんですか?」
ナディアママの問いに、レンタが答えた。
「僕らの地区の中学もそうやから、大阪はみんなそうやって思てました。でも、日本全部はない、そう思うたから、アキラが一言、言いたいそうです」
僕ら4人は、気圧される思いで、小柄な男子を見つめた。
内気そうな男子は、真剣な顔で言ったんだ。
「ベルくん、配信にそのカッコで出るのスゴイよ。ぼくは、無理だった」
僕は、言葉に詰まった。なんて言えばいいの?
急激に、自分の着ているセーラー服モドキが、重く感じてくる。
そんな僕をほっぽって、アキラは続ける。
「色々、コメントで叩かれそうでめんどくさいもん。さっき、そのコ……アリスさんが、内緒にしててって言ったよね?」
ポカンとしている僕らの前で、言いにくいけど、とまごつきながら続ける。
「僕が、昔やってた失敗、そのままやってる……今のところ大丈夫だと思う。けど、いずれバレるよ。細かい仕草が男のまま。女装してるだけみたいだよ」
女装シテルダケナンデスヨ-
なんて、言うわけにもいかず、僕は、おずおず言った。
「そう……なの?」
言葉を発したのは、さっき、勝ったときに、司会のお姉さんに、マイクを向けられ、ウラ声で、「ガンバリマス」って言って以来だ。
「ウン。色々書かれたくなかったら、完全に女子になるべき……だと思う。……いいなあ、ベル。凄く似合ってる」
……ウレシクナイ。
アキラは、リーファ達に、心配そうに言った。
「女子二人、助けてあげて」
「はい」
ナディアと、リーファは何故か、敬語で答えた。
小柄な少年は、ホッとしたように笑って言った。
「それだけ……頑張って。応援してる。じゃ」
上から目線じゃない。ホントに心配してくれたんだ。
だから、アキラ達は説教くさい事も言わず、アッサリ身を翻した。
去っていく相手チームに、リーファが声をかけた。
「待って……あの……」
リーファにしては珍しく歯切れが悪い。
不思議そうにしてるアキラ達に向かって……
もっと珍しく。
「ありがとう。なんか、負けた気分」
「それな」
そう言って、ナディアと一緒に頭を下げた。
ぼくも慌ててならう。
三人同時にアタマを上げると、笑いだした相手チームに、これも珍しく、幼なじみは、笑って言った。
「でも、次の試合も勝って、その次も、また次も勝って、優勝するよ……見てて」