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最後の晩餐@想像SF研究所

作者: 想像SF研究所

18時。東京。

「一体俺がなにしたってんだよぉ」。サラリーマンの義男は夜の街をふてくされて歩いている。すると一通のLINE。差出人はハチ。「飲みに来ないか?」せっかくの金曜日。スマホをしまい、踵を返して義男は夜の街に繰り出す。街は仕事終わりの人々が駅に向かって帰路を急ぐ。逆行する義男にぶつかりそうになり、舌打ちするサラリーマン。「そんなキレなくても…」義男のボヤキは止まらない。


居酒屋・八ちゃん

「いらっしゃーい!!」60代の気の良い親父が義男を出迎える。

「八木さーん、相変わらずガラガラじゃないかよ~」

「うるせぇ!!何にする?」

とりあえず生で〜という義男に噛み付く女性

「よーしーおーー。ほんと神経バグってるよね!?よくそんなこと言えるなぁ。」

義男と同い年でフリーターの梨花はすでに出来上がっていた。

「なんだよ梨花もいんのかよ。冗談だよじょーだん!!」

「いたら悪いのかよ!!」

義男は梨花のいるテーブル席に座り、2人はあぁだこうだ文句を言い合ってる。

二人のやり取りを八木は微笑ましく見ている。店内の客は梨花と義男、そして30代中盤のサラリーマンがカウンターに1人。義男と梨花にLINEを送ったのは八木だった。

「お前たちうちの店に来るようになって何年だ?」

八木が義男と自分の分の生ビールを持ってきて隣に座る。


5年前。

ガンッ!!ジョッキがカウンターに叩きつけられ、混雑している店内は一気に静まり返る。

「おいおい。暴れるならもう帰ってくれ!!」と八木。

「そうだよ姉ちゃん!イライラ店にぶつけんなよ!!」と義男が突っかかる。ギロッと2人を睨みつけて完全に出来上がっている梨花が捲し立てる。

「うるせぇ!こっちは今日全く知らない女が家から出てきてストレス溜まってんだよ!」

え?と店中の注目が集まる

「こっちは仕事頑張って、いろんなところ出張して、金稼いで、副業までやって、将来の金貯めてたんだよ!!お前が会社クビになったのを繋いでやってたんだよ!!そんな時にどういう神経してんだよ!!!!!!!」

恐らく彼氏に浮気をされ、恐らくボコボコにし、恐らくこの居酒屋でストレスを発散している20代女性に店内誰しも言葉を発することができなくなってしまう。

そんな中、1人空気の読めない義男だけが「まぁでも向こうにも何か理由があったn…」

ガシャン!!

持ち手だけになったジョッキを片手に完全に梨花のスイッチが入る。

「は?いや、おかしくない?不倫ドラマとか不倫漫画とか不倫映画とか純愛描いて、どうしようもなく恋に落ちてしまう姿描いて、涙誘って、どこがキュンですだよ。どう考えても絶対ダメだから!関係断ち切ってから次行けよ!なんで両天かけてることが美学になんだよ。お前みたいな奴がいるからそんなクソドラマが視聴率取るんだよ!てか視聴率ってなんだよ!測定器生まれてこの方見たことあんのかよ!!!!!」

マシンガンのように文句が止まらない梨花は気づけば涙が止まらなくなり、義男はどうすることもできず、八木は黙々とちりとりで割れたジョッキを処理するだけだったーーー。


バカ笑いしている八木と文句を言いながら顔を赤らめている梨花。得意げに思い出話を披露する義男。3人は5年前とは比べものにならないくらい落ち着いている。


するとカウンターにいたサラリーマンが思わず笑ってしまい「いや、失礼しました。つい面白くて」と頭を下げる。梨花が一緒に飲もうよーと無理矢理サラリーマンの杉田を連れてきて4人で飲むことに。


「おじさんなんで1人なの?」

「いやもうストレス発散ですよ」

「たまに店来てくれてるよなぁ?」

「仕事やらかしちゃった?」

「いやむしろ何もやらなかったからこんな感じですよ」

話聞きますよという3人に語り出す杉田。自分がなんとか勝ち取りたいプロジェクトのプレゼンを目前に身体を壊して2週間休んでしまった。その間に別の同僚が代わりにその座を奪い取ってしまったという。会社に戻った頃には社内の空気は変わり、出世コースだった杉田は一気に差をつけられてしまった。


「ついてないねー。杉ちゃん全然悪くないのにねー」

「運も実力のうちって言うけどなぁ」

「あんたって本当に人を傷づけるの得意だよね」

「心に刺さりまくりですよ…でも本当についてない。」

「杉田さんはいいじゃん。まだ働けるんでしょ?俺は今日クビになったよ!!」


え?!

一同の目線は義男に向けられる。

「あんた何やらかしたの!?」

「なんもやらかしてないよ。単純に今日部長に呼ばれてクビだって。まあ非正規雇用者は会社傾けば真っ先に切られるんだよ」

「それだけじゃなさそうだけどね。いつも文句言ってたんでしょ?」

「まあそれはそれは否定できないけど」

義男はなんでもないふりをするがそこにいる全員が空元気だとわかっていた。


「すいませんーまだやってます?」

3人連れの男子大学生が入ってくる。

「すまないねー今日はこのお客さんで貸切なんだ」

は?3人で?!と文句を言う大学生たち。その1人が「え!?俺その子見たことある!」と梨花の方に近づき顔をジロジロと見る。

嫌がる梨花に「やっぱり!俺この子昨日、ライブチャットで見たよ!俺の投げ銭で飲んでんの?」

大学生はベラベラと梨花がカメラの前で何をしていたかを語り出して、その聞くに耐えない内容に、梨花はどんどん俯いていく。


帰れよ!!

義男が声を張り上げて大学生を威嚇。八木は奥から包丁を持って帰らなかったら痛い目に遭うぞと脅しをかける。逃げ帰るような出て行く大学生。


「仕方ないんだよ…だって生活できないから…生きてかなきゃダメだし…普通の生活もしたい…」

涙を流す梨花を見て、八木は3人に日本酒を注ぐ。

「今日は楽しく飲む日だ」

義男の言葉に皆頷く。4人は楽しい話をしてどんどんお酒を飲んでいく。笑って文句を言って怒って白熱して、、楽しい時間を過ごしていく。時計は20時を指していた。

「八木さんそろそろ帰るよ」と義男。

「言ってなかったが、今日で店閉めようと思ってるんだ。40年やったけどもう限界なんだよ」

「そうか」

「もう少し飲んで行かない?みんなが良ければ」

「まあもう明日から仕事ないしな」

「僕もこのまま働いても先がない気がしてますし、付き合いますよ」

「ありがとう…」八木は涙を流しながら頭を下げる。暖簾を下げた八木。泣くなよ八っちゃん!!40年間お疲れ様!!と忘年会のようなどんちゃん騒ぎを始める4人だった。


時計の針は21時を回った頃。

「はい。失礼しますよー」入ってきたのは警察官。その後ろにはあの3人の大学生がいた。

「何やってるかわかってますかー?通報を受けてきました。」

すっと4人から笑顔が消える。

「今何時かわかってますか?21時です。なんで営業してんの?なんで酒類提供してるの?自分たちのやってることわかってるよね?今世の中どう言う状況かわかってんの?」

隣にいる警察官は無線でやりとりしながら、確保しますと応答している。

「2026年1月15日。21時07分。感染症対策妨害法違反で逮捕します。」


どうしようもねぇなと独り言をこぼす義男の手に手錠がかけらる。


(完)


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