第九話 『同情』
そして、コンに案内された寝室で就寝した次の日…
今日はお待ちかねの観光!!
ただ、町並みは日本の古い家々とあまり違いがなく、何処か京都を彷彿とさせる里…と言うより都に近い。
ただ、今僕達は重大な問題に直面していた…
「この世界のお金が無い…」
一応、計画では関所などは転移で抜けるとして、金は現地の冒険者ギルドとかで稼ぐ予定だったのだが…そんなものはないらしい。
そうして困っていると、店員の獣耳お姉さんが「お代はいりません」と言ってきたのだ。
「え?何で…」
「コン様のお客人なのですよね?それでしたら結構です」
そう言って丁寧に腰を折ってお辞儀をする店員にコンは何処か慌てていた。
「そ、そんな事しなくてもコンが払うのですぞ!」
「しかし、コン様は明日…」
「ッ!?…そんな事、今は関係ないのですぞッ!!」
コンはそう言うと、怒り心頭といった様子でお金を置いて店から出て行った。
僕達も慌てて後を追いかけると、コンは何かブツブツと言葉を漏らしていた。
「何でみ■な、コ■に■■なんてする■■すぞ…コンは■■の時まで普通の■■■として■きたいのですぞ…」
コンは顔に影を落として何か言っていたが、所々聴き取れず、僕が近くに居る事に気付くとさっきまでが嘘のように、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「さぁ、他の所も見て周るのですぞ!」
コンの異変に、隣りにいる鈴奈さんにこっそり聞いてみた。
「…鈴奈さん、コンが何であんなに怒っていたのか、心当たりないですか?」
そう聞くと、鈴奈さんは困ったような笑みを浮べて「申し訳ないが…」と言って話し始めた。
「心当たり…というより理由を知っているが、本人が話したがらない以上は私の口からはなんとも言えない…」
「そうですか…」
その後、「ただ…」と言い鈴奈さんはコンに聞こえないよう僕に耳打ちする。
「…ただ、例え真実を…コンの運命を知ったとしても、どうか、白夜だけはコンへ普通に接してやってくれ…頼む」
鈴奈さんの言葉に、僕は「…分かりました」と言ったものの、何か嫌な予感がしていた。
そして、その日は茜様の屋敷で夕食(和食)を頂いてその後就寝することにしたのだが…
「ねぇ、クロノスはコンの事で何か気付いた?」
「気付いてる…いや、原因を『見つけた』と言った方が正しい」
「え?それは一体…?」
「…それは言えない」
クロノスの言葉に「なんで?」と聞き返すと…
「もし言ったら、白夜はすぐ助けようとするし、それにきっと…」
きっと?一体どう言う事か聞こうとしたのだが、その前に誰かが襖を開けて入って来た。
「あ、あの、白夜殿…?」
それは金髪に赤い瞳、狐耳と尻尾を持った少女…コンだった。
「どうしたの、コン?」
「えっと、その…今夜、コンと一緒に…添い寝をして欲しいのですぞ」
「え!?…いや、でもクロノスが…」
「駄目」と言うだろうと考えた白夜だったが…
「ん、別に問題ない」
クロノスの予想外の言葉に、思わず目を丸くする僕とコン。
すると、クロノスは「また露天風呂に入ってくる」とだけ言って、コンが入ってきた襖から外へ出て行った。
そうして、一緒に寝ることになった白夜とコン、しばらくすると、胸に抱きついて、可愛らしい吐息をして先に眠ってしまったコン。
コンの頭を撫でていると、誰かが襖から手招きをしていることに気付く。
行ってみると、そこには紅茜がいた。
「…少し話さんか?例えば…コンについてとかの」
そう言ってついて歩くと、屋敷の縁側に来ていた。
「…今日、里で変な事はなかったか?」
「えっと、確か…色々な店で買い物をしたんですけど、みんな何故かお代はいらないって…」
そう言うと、「やはりか…」と言って苦い顔をする茜様。
「何故そんな事をするか、お主は分かるか?」
「…いえ、分かりません」
そう答えると、茜様は「それはの…」紅茜は哀しげな顔をしてこう言った…
「…それは、みんながコンに『同情』しておるからじゃ」
そして、コンが呟いた言葉を思い出した…否、理解した。
「…何でみんな、コンに《同情》なんてするのですぞ…コンは《最後》の時まで《普通の女の子》として生きたいのですぞ…」
…白夜はコンの言葉を聴き取れなかったのではなく、聴くことを心の何処かで拒んでいたから…だから、所々聞こえなかったのです…