水槽
水面の近くを鯵の大群が泳いでいた。動くたびにきらきらと光るそれは硝子一枚を挟まないだけでとても自由に見えた。同じ空間、たった数メートル先で光る彼らを見つめているにもかかわらず、私と彼らは全くの他人だった。大海原を泳ぐ自由も、美しい鱗も、生きることへの必死ささえも私は持っていなかった。
それらは陸上で生きていた時の私にとって喉から手が出るほど欲しかったものだったが、今の私にはどうでもよかった。今はただ、呼吸が弾ける音に耳を澄まし、無駄な思考を体温と一緒に海に溶かしていたかった。
鯵の群れはいつの間にかどこかへ行ってしまって、誰もいなくなった水面は独りでに煌めいていた。私は水面の裏側を見つめながら静かに海底に腰を下ろした。