離れた街のあなたに手紙を送ります 1
アビーは、朝からずっと外を眺めていた。
この領主館は、街から続くライラックの坂道の先の、小高い丘の上に建っている。
整備された道は一本しかないので、いつもの郵便配達の少年がやって来たら、すぐにわかるのだ。
あの人からの手紙は、たいてい二週間に一度、水曜日に届く。
郵便配達の少年は、アビーが花の都ローメリナからの手紙を心待ちにしていることを知っている。
もしも「J」のイニシャルの封蝋の手紙を目にしたら、配達の順番を早めて、必ず一番先に届けてくれるはずだ。
今日もほら、白いななめ掛けの配達員の鞄を持ち、帽子をかぶった少年が、坂を上ってきている。
アビーは少年の姿を見つけると、すぐに部屋から飛び出した。
「お嬢さん、アビーお嬢さん! お届けにあがりましたよ!」
「いつもありがとう。……そうだこれ、妹さんたちにどうぞ」
用意していたのは、一枚のコインといくつかのキャンディーが入った巾着だ。
これは、急いで届けてくれた少年へのお礼であって、賄賂ではない。少年は、嬉しそうにそれを受け取り、手を振りながら帰っていった。
二ヶ月前、アビーはある騎士と偶然出会った。王宮の近衛騎士だ。
長い金の髪を持つその騎士は、背がとても高く、アイスブルーの双眸で見下ろされると怖かった。
第一印象は、ちょっと偉ぶっていてそっけない態度が、いかにも都にいる「お高くとまった貴族の子弟」というものだったが、心根は優しい人物なのだと、少し話してわかった。
手紙はその騎士からのものだ。
* * * * *
親愛なる アビー殿
私の野薔薇
運命に導かれ、あなたと巡り会ってから
ふた月がたちます
私は今、寝ても覚めても
あなたのことばかり考えている
悔やまれるのは、あなたの顔を見ながら
この気持ちを告げられなかったこと
手紙なら自由に想いを表現できるのに
可憐なあなたを前にすると
わたしは言葉を失ってしまうのです
あなたに会いたい
あなたの声がききたい
それも無理なら
せめてあなたの心の内側をみせてほしい
あなたは私と同じ気持ちですか?
好きです、アビー
愛しています
ジュードより
* * * * *
アビーはその手紙の文字を、何時間も食い入るように見つめていた。
「好き……愛してます……だって。そう書いてあるわよね? 間違いないわよね?」
そこに綴られていた言葉が信じられなくて、二歳年上のメイド、ホリーが部屋に入ってきたときに確認すると、彼女はさらっと文面に目を通して苦笑いする。
「ええ、書いてありますね。それにしてもこのかた、だんだん手紙が長くなってませんか?」
「そうね、とても熱心だわ」
「そのうち、束になってきそうですね。あの無愛想な騎士様が、こんなことを書いて送ってくるなんて……ちょっと信じられません」
「私も戸惑ってるけれど、……でも嬉しい。うん、私は嬉しいの! とっても」
「そうですか、それはよろしかったですね」
「頑張って、お返事を書かなければ!」
アビーは気合いを入れて、ペンをとった。