一「週末」
新学期が始まったばかりの金曜日。
新入生でもなく、受験生でもないわたしたちは、夏休み気分が抜けず、残暑も厳しいこともあり、完全にだらけきっていた。
この日の六時間目は、国語だった。
教壇の上では、枕草子について熱弁しながら、色白で下膨れな顔をした平安美人風のおばちゃん先生が、黒板にチョークを走らせている。
だが、この一時間さえ乗り切れば授業から解放されるという気持ちと、五時間目が体育だったことの相乗作用で、生徒側は誰も真面目に聞いていない。
一応、みんなノート提出に備えて鉛筆を走らせているけれど、気持ちの上では、どこか上の空になっているに違いない。
「清少納言は、父親が歌人として秀でていたが故に、凡百の和歌を詠まないよう気を遣っていたそうです。ですが、そのことで、同じコンプレックスを抱えていた藤原行成と交流を持てたのですから、人生というものは分かりませんね」
立派な親は、時として子供にコンプレックスを与えるのである、ということか。
そんなこと、わざわざ古代の日記を引き合いに出されなくとも、わたしは実体験として経験済みだ。
そんな雑感を内心でもらしたところで、ちょうどウエストミンスターの鐘が鳴り、一週間の授業が終わった。