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第3話 GIN

 帰宅した俺は自室にて思わず頭を抱えていた。

 高校生活二年目も無難に過ごしたいと思っていた初日に、いきなり『変態』とはこれいかに!? 変な声が聞こえてきても振り返らずにそのままスルーすればよかった!

 ……いやそうしたところで変態呼ばわりは変わらない可能性がないこともないか。体育館の裏なんて通らなけりゃよかったんだ。まったく、こっちからはまだ話しかけてもいないというのに災難だ。


「はぁ……」


 盛大にため息をついくが、これはもうどうしようもない。明日変な噂が広まってないことを祈るだけだ。

 お昼ご飯を食べているときに母親から「顔色が悪い」と心配されたが、こればっかりは放っておいてほしい。親に事情がばれたりしたらそれこそ終わってしまう。とりあえず落ち着こう。うん、そうしよう。


 明日の学校の用意だけ済ませると、靴を履いて家を出る。徒歩一分ほどの最寄り駅の前にある小高い丘へと登る。数メートル登ればすぐ頂上だ。

 ここは小さい古墳だ。昔は雑木林が生えていたが、今では整備されていて丸坊主になっている。どうにも俺はこの上に登ると落ち着くのだ。車通りもそこそこあって静かというわけではないが、なんとなくである。

 大して眺めがいいわけでもないが、ここからだと北東と南西にある大きい古墳が見える。俺自身歴史が好きというわけでもないのに、なんとなく趣があるなぁと勝手に思っているだけだ。


「ふぅ」


 古墳のすぐふもと、道路の高架下を電車が通っている。このまま電車で西へ行くと、神社の境内を通って俺の通う高校へと続くのだ。

 踏切の鳴る音が聞こえて、電車が通過していく音が辺りに響く。


 というところでポケットに入れていたスマホが着信を知らせてきた。空閑くがから返事でもきたのかと取り出して画面を見てみるが。


『……どちら様?』


 という文字列が画面に表示されているのみだ。

 その上には確かに空閑に送ったはずの、ラインの登録要請文が表示されている。


「……はぁ?」


 もう一度確認するが、俺は確かに空閑から聞いた番号に対してメッセージを送ったはずだ。自分からメッセージしてくれと言っておいてこれはいったいどういうことだろうか。さすがに今日会ったばっかりの俺に、こんな冗談を言ってくるとも思えないが……。

 あー、もしかして番号間違えたのかな。空閑の伝え間違いか、それとも俺が打ち間違えたか……。


「しかし……、『変態』の次は『あんた誰』か」


 空閑本人に確認しようにも、聞いた番号の相手がこれではどうしようもない。とりあえず間違いSMSを送った相手には謝っておくか……? どうせ知らない相手だし、ごめんなさいしとけば問題ないだろ。

 初対面の女の子に『変態』と言われたことに比べたらどうってことはない。……うん、ないはずだ。

 自分を慰めるようにして、スマホに謝罪文を打ち込んでいく。


『番号間違えたみたいでごめんなさい』


「……これでいいだろ」


 気分を落ち着けるためにここまで来たが、まったく晴れた気がしない。数十歩ほどで一周できる古墳の頂上をぐるりと周ると、そのまま帰宅することにした。




 その日の夜、何気なくスマホを開くと二件の通知が届いていた。


「……えっ?」


 ラインのお友達承認の通知だ。もう一度言う。追加要求許可じゃなくて、承認の通知だ。ついでに相手からメッセージも一件来ている。心当たりといえば空閑と間違えて送った相手しか思いつかない。恐る恐るメッセージをタップしてみる。

 相手の名前は……、『こま』か。……うん、わからん。海外に送れるかどうかまでは知らないが、少なくとも日本語が通じる相手でよかったと思うべきか。

 というかラインの名前も自由に変えられるし、これが本名という保証もないのだ。俺だってラインの名前は『GIN』だしな。


『これも何かの縁だろうし、ちょっと暇つぶしの相手になってくれない?』


 相手からのメッセージを確認するとそう書いてあった。読んで即思った感想は、「めんどくせぇ」だったが、俺自身が間違って送ったメッセージが原因なのでそうも言ってられない。……例え空閑のせいであったとしても、相手にはそんなことはわからないのだ。


『えぇと、まぁ、かまいませんけども……』


 とはいえちょっとくらい抵抗してもいいだろう。微妙に乗り気でない風を装って返事を返しておく。そのまま画面を切り替えてゲームでもやろうとしたところで、送ったメッセージに既読が付いた。


「うぬぅ」


 思わずうなり声が出てしまったが、そうこうしているうちに返事が届く。


『それはよかった。ところで、名前は『ギン』って読むので合ってる?』


 どうやら一足遅かったようだ。向こうにもこのメッセージの既読が付いただろう。このままスルーも考えたが、俺も相手をすることに決めた。なんだかんだ言って面倒とは思いつつも、俺も暇なことには違いない。


『別になんて読んでもらってもかまわないですが、『ギン』でいいですよ』


 本当は自分の名前から取ってるから『ジン』だが、そのままというのも面白くないのでお酒のジンから取っただけだったりする。何もかも面倒になっていた俺は、そのままギンで通すことにする。

 こうして見ず知らずの人物との会話が始まった。

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