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第1話 始業式

 憂鬱だ。


「はぁ……」


 朝から盛大な溜息をつきつつも、駅へと電車が入ってくるのを待つ。今日から学校が始まるんだが超絶に行きたくない。いやまぁ、何があるというわけでもないんだが、単純に面倒なだけだ。

 俺の名前は白石(しらいし)(じん)。今日から高校二年になる、どこにでもいる超面倒くさがりな男子高校生だ。外に出るのも面倒に感じるだけあって、普段は家に引きこもりがちだ。


 気が付けば駅のホームへと電車が入ってきていた。電車へと乗り込むが、そこそこ乗客がいるため座れることはない。車内へ入ると奥の扉へと張り付くようにして立つ。扉が閉まり、ゆっくりと電車が動き出すと神社の中を通過する。


 そう。もう一度言うが、神社の中を通過するのだ。


 地元なのでてっきりこれも普通の光景だと最近まで思っていた。けどそんなことはなく、境内を電車が突っ切っる神社というのは珍しいらしい。

 始業式という時期だからか、境内には桜が奇麗に咲いている。

 何もない神社だが、この時期はきれいなんだよな。


「――うん?」


 ゆっくりと通過する神社をぼんやりと眺めていると、ふと人影が見えたような気がした。いつも見ている景色だが、今まで人がいるところを見たことはない。ましてや平日のこんな朝から、珍しいとはいえこんな小さい神社に誰か用事があるなんて。


「……まぁどうでもいいか」


 そんなことを思いつつも、途中で各駅停車に乗り換えて学校を目指した。




 学年がひとつ上がるとクラス替えがある。二年四組になったが、残念ながら去年よくしゃべっていた友達とはクラスが離れてしまった。

 もともと知り合いは多い方ではないので、この結果もまぁ順当だろう。


「おっす」


 新しい二年生の教室に入り、周囲の人間を観察しながら自分の席へと座ると声を掛けられた。声の主は隣の席に座って片手を挙げている。


「たまたま隣の席になった空閑(くが)優也(ゆうや)だ。まぁよしなにしてくれ」


 二カッと人好きのする笑みを浮かべている。うん、まぁ悪いやつではなさそうな第一印象だ。窓際一番後ろに座っていると、必然的にその隣にいる俺にしか声を掛けられなかったんだろう。前はまだ空席だし。


「えーっと、白石陣です。よろしく」


 無難に挨拶を返しておく。さすがにクラスに友達がいないというのはきつい。初日で話し相手ができたのは、自分から話しかけることをほとんどしない俺にとってラッキーだったかもしれない。


「いやーまいったね。自分でも友達は多い方と思ってたけど、まさか同じクラスに誰もいないとは」


 軽い口調で肩をすくめている。俺自身は友達が少ないからと思ってたが、数は関係なかったのか。


「十クラスもあればそんなこともあるかも?」


「あはは、違いない」


 同じクラスになったばかりの隣人と、前のクラスではどうだったなど他愛のない話をしていると時間がきたようだ。担任の先生が入ってくると、自己紹介もそこそこに始業式が行われる体育館へと移動する。


 ありがたい校長の話を聞いてその場は解散だ。クラスごとに体育館を出ていくが、ぞろぞろと生徒が大量に固まって移動することには変わりがない。教室でしゃべっていた空閑も、今は他のクラスの男子生徒としゃべっている。友達が多いというのは本当らしい。


「……裏から戻るか」


 人混みがあまり好きではない俺は、体育館の裏手を通って教室を目指す。集団から離れるが、誰も俺を引き留めようとはしない。知らないやつが離れていったところで誰も注目はしないようだ。ましてや委員長という存在もまだ決まっていないし。


「ふう……」


 ちょっとした茂みと段差を乗り越えて、体育館裏手の通路へと出てくると一息つく。誰もいないところは落ち着ける。

 初めて空閑としゃべっていた時とは真逆だが、人というものは一人になりたい時と誰か一緒にいたほうがいいと思う時があるのだ。


「ひゃっ!」


 立ち止まって大きく伸びをしていると、なぜか後ろから可愛い悲鳴が聞こえてきた。思わず振り返ってみて後悔する。


「いたたた……」


 茂みに隠れていた段差に気付かなかったのか、転んで尻もちをついている女の子が一人。


「……白か」


 それでも目に飛び込んできたものの確認は、一人の男子としてしっかりしておかねばなるまい。すでに手遅れであるならば、しっかりこの状況を有効活用せねばならないだろう。


 いや待て、だからといってじっと見つめているのはまずいだろうか。パンツを見せて転んだとはいえ、近づいて『大丈夫?』と声をかけるべきか。それともここは見なかった振りをしたほうが後々のためにならないか。


 顔に見覚えはないが、もし同じクラスだったりしたら気まずい雰囲気間違いなしだ。幸いにして相手はこっちを見ていない。今なら気づかなかったことにすることも可能ではないか。


「……よし」


 転んだ女の子を助け起こそうともう一人女の子がやってきたところでついに決断を下す。目の前の白い御神体(ぱんつ)から名残惜しく視線から外すと、逃げるようにして教室へと向かった。

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