phrase.3
たんたんと自己紹介も終わり。その日は解散となった。
「何だよあの自己紹介は」
帰宅途中、声を震わせながら言う諒にイラつきながら自己紹介を思い出す。
「いやちょっと噛んじゃっただけだ。そんな笑うことねぇだろ」
「自分の名前を噛むなんてそうそうないよ」
「春休み人と話すことが無かったから大勢の前でよけいと緊張しちゃったんだよ」
思い出しただけでも頬が熱くなるのを感じる。しかたない春休みは家で本を読むか筋トレしかしてなかったんだからしかたないと自分に言い聞かす。
一通り笑い終えた諒がまじめな顔になる。
「それにしてもクラスの反応を見たかい?」
「仕方ねーよランクEなんて小学校レベルだからな。それにあの反応にはなれてる」
俺がランクを言った時にクラス全員、こいつがランクEかみたいな顔してたかならな。
「やっぱり一度言ったほうがいいんじゃないの、僕から言おうか」
「いやいわなくていいよ。何されるかわかったもんじゃないし、それに俺は痛いのとか嫌だからな」
ランクがものを言う学校だ。下手に文句なんていった日にはスキルでぼこぼこにされるんじゃないか俺。南陽の時もぼこぼことはいわんがプライドが高いやつ多かったし。
じゃ俺は夕飯の食材を買って帰るからと諒に別れを告げて、家から最寄のスーパーへやってきた。
Sマーケット。俺の行きつけである。何でもお昼と夕方でタイムセールを実施しており、他のスーパーよりも安く買えるのが最大の売りである。この付近は対策機関の社宅があったりで主婦が多く昼間からでもなかなかにぎわっている。
タイムセール品は昨日の広告で把握済み。後5分ほどで定刻となる。どうやら敵(主婦)も狙いは同じなようだな。
商品棚を見る振りをしつつ広告の品に近い場所を陣取ろうと主婦たち。我先にと他の人たちをけん制しつつも視線だけは広告の品から離れることはない。
くっ出遅れたか、ポジショニングは最悪だ。ふだんはとられてばかりだが、いつもの俺とは思うなよと心の中でつぶやき商品を見据える。狙いはお一人様一つの卵パック一択。これがあれば俺は三日は生きていける。
そう考えていると店の奥から店長の姿が現れる。
「これよりタイムセールを行います!」
定刻どおりだ。
店長の言葉を皮切りに主婦たちが商品めがけて駆け出す。
さぁ始まりだ!!
俺も急いで戦場へと駆け出す。まるで猛獣の折に放り込まれたような錯覚を覚える中、獲物を発見するが他の主婦たちの手によって着実に数が減っている。
とどけぇぇぇぇぇぇぇえええ!
その間を縫いもみくちゃにされながらも必死に手を伸ばし目当ての卵に手が届く。
「いよっしゃぁぁぁぁあ!!!いてっ誰だ今足踏んだやつ!!」
それでもあれよあれよという間にタイムセールの品は完売し主婦たちも散っていっていた。
よし任務完了…。
「ああっ!!私のたまごがぁ!!」
声のしたほうを向くと1人の背の低い女の子が立っていた。
かわいそうに、どうやら今回の戦争の犠牲者のようだ。甘いぞ貴様の判断が戦況の命運を分けるのだ。
「これで5連敗…。今日ももやしかぁ」
5連敗!?いやいやさすがに負けすぎだろ。なんだか可愛そうになってきた。
手に持つ卵と少女を見比べるはぁ、とため息を一つ落とす。
「なぁ、ちょっと君」
ビクッと小動物みたいに体が跳ね上がり、おそるおそるこちらに体を向けてきた。
その反応はやめろ。俺がまるで絵に描いたような不審者になっちまう。
「なっなんでしょうか…」
「これ良かったらもらってくれないか?親が買って帰ってるみたいだからダブっちまったんだよ」
「えっでも…」
「いいからいいから」
有無を言わさず彼女に卵を押し付ける。
じゃっと片手を上げながら少女に背を向ける。
小さい声であっありがとうございます。なんて聞こえた気がするが俺は早歩きでスーパーを出る。
「かっこつけるんじゃなかった」
急いで携帯を取り出す。
諒に充電器借りて充電しといてよかったぁ
最寄のスーパーはここから20分タイムセールは16時から。
いざ、次の戦場へ。
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「はぁ疲れた」
やや日が暮れてきた頃にようやく家に到着した。
「今日はもやしのいた炒め物だ」
今日の戦果に頭をたれる。
明日はいい日でありますように、柄にも無くそう心の中でつぶやいた。