1話
「次は~山中町~お降りの方いらっしゃいませんか?」
今日も、バスを走らせる…明日も明後日も……定年までこの仕事を続ける……そう思うと憂鬱になる。
ピンポーン
「はい。次止まりま~す。お忘れ物のない様にご注意下さい。」
高田颯太。年齢30歳
職業 バスの運転士
身長 165㎝ 体重 65㎏
黒髪短髪のごくごく普通のおっさん……
趣味は、格闘技観賞とラノベ観賞……
「ドアが開きま~す。ご注意下さい。」
ドアが開くとバス停で待っていた60代後半のおじいちゃんが怒鳴って運転席まできた。
「こらっ!!お前何分遅れとんか!!」
颯太は心の中で『はぁ~』とため息を吐きうんざりした顔を隠し作り笑顔でこの老害に対応する。
「すいません。交通状況とか多客乗降取り扱いで遅くなってます。大変ご迷惑かけてます。」
「何分前からバス停で待ってるとおもってんだ!!」
「いや……ですから車両混雑でおくれ……」
「お前は、いい訳ばかりだな!!会社にクレームいれてやる!!!上からお叱りを受けるがいい!!!!!」
その時、颯太の何かがブチンと切れた。
ブオンという風切り音とともに老害の顎に拳をめり込ませる。
「へぶぉっ!!」
老害の顎からメキッと嫌な音がしてそのまま倒れる。
「こっちだって遅れたくて遅れてるんじゃねーよ!バスが遅れるのは当たり前なんだよ!!!てめぇーが運転してみろ!!!」
倒れた老害の胸ぐらを掴み立ち上がらせ、老害の右腕を取り一本背負いを繰り出す。老害は頭からバスの床に叩きつけられ辺り一面血溜まりになる……
「このカスが!運転士舐めんなよ!!ゴラァーー!!!」
「……い!……おい!聞いてるのか!!!」
空想世界から意識を戻して目の前の顔をみると鬼の形相で怒ってずっーと怒鳴っている老害……
颯太にはよく妄想癖があり現実世界から空想世界に意識が囚われる事が多々あった。ラノベを観て俺だったらこうするああすると日々妄想するのが大好きなのだ、、、特に好きなものは主人公無双もので、敵を簡単にぶちのめしたり殺るのにはスカッとする………
この仕事をしていたら、わんさか嫌な客ばかり乗ってくる…いいお客さんもいるにはいるが、一日バスを走らせると腹立つ事が絶対起こる。
運賃ごまかす奴、奇声を発する奴、携帯で通話して注意しても切らない奴………嫌な客の例えを上げたら無限に出てくる。
そういう奴らを脳内でぶちのめしたり殺る事が颯太の日々のストレス発散になっていた。
目の前の老害を改めて見るとこいつは、どんなに謝っても会社にクレームを言うこと間違いないと断言できる。経験でだいたいクレームが来るか来ないか分かるというスキルを身に付けた自分が悲しくなってくる、、、
参ったな~と思いながらバスが遅れた事の謝罪と説明を続けていると他のお客さん(いいお客さん達が)老害に「いい加減にしろ」とか「あなたのせいでもっと遅れるのよ」とか言ってくれだした。そろそろ老害も席に座るかなと思い始めたとき足元が発光している事に気が付きその発光している床に目を向ける。
「ラノベで出てくる……魔方陣じゃね?」
思わず颯太は声に出していた。床には複雑だけど魔方陣と明らかに判る模様が浮かび上がっていた。そして、その魔方陣が辺り一面に広がり目を開けていられない程の真っ白な発光が辺りを包み込んだ、、、颯太もたまらず目を瞑るのだった。
颯太が目を開けるとだだっ広い草原の上に寝転がっている状態だった。風が心地よく芝生の感触が気持ちいい……このままずっと寝転がっていたい………そして、ふと気がついた。
「あれっ?俺以外の人達は………まぁ~いいか!」
確かに颯太以外の乗客も魔方陣の上にいたので異世界に召喚されているはずなのに颯太以外いない……しかし、颯太にとってはそんな些細な事なんてどうでもいい事だった。颯太は興奮をお抑えきれなかった。よくラノベで見かける異世界召喚が現実に起こったからだ。
「まじか~まさか本当に異世界召喚……サヨナラ日本………ヨロシク異世界………………………くくくくくっあーっははははっ!!!!やったぜーーーー!!!異世界にきたぞーーーっ!!!」