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ノンフィクション・クリスマス

作者: 独りっ子

電話で彼女に別れを告げた。

お互いに泣くことはなかった。

あとに残ったのは、虚しさだけだった。




俺の家にサンタはこない。少し前まではきていたが、最近は訪れていない。

これが、年を重ねるということだろう。

俺は一人、布団に顔を沈めた。

今日は、クリスマスだ。キリストの誕生を祝う、そんな夜である。

寝返りをうつ。

そして、明日を想う。

ため息をつく。憂鬱な気分になった。明かりがついたままの天井を仰ぎ見る。

少し、自分のことを考えてみる。俺が彼女と別れてから、そう時間は経っていない。

互いの都合のいいときに会い、話をする。

すれ違えば、軽い世間話を交わす。

共通の友人から、互いの状態を聞く。

俺たちはそんな、心地の良い関係だった。

今思い返しても、そう思う。

疲れないし、強要しないし、争うこともない。

けれども、言いかえてみる。これは、惰性ではないか。ずるずると蛇のように、伸びきった関係。二人の温度は変わらず、近いようで遠いまま。恋人と表現しても、いいのだろうか。

俺は、嫌気がさしてしまった。

いや、本音を語ろう。俺は飽きてしまったのだ、この関係に。

布団の上に立って、窓から外を覗き見る。

そこは闇だった。窓を開けて、手を伸ばしてみる。

隣の家との柵に、手が触れた。

今度は窓から身を乗り出して、外を眺める。

すぐ近くの道路には、こんな時間でも車が走っていた。

車がつくる、細い光の筋は今の俺の目に、妙にこびりついた。

布団の中にもぐる。

外気にさらされて冷えた手が、暖まる。

眠れない。布団には入ったものの、あくびを繰り返すだけでとても無為な時間を過ごしているように思える。

恋人とは何か。

彼女と別れたばかりのせいなのだろうか。変に哲学的なことばかり頭に浮かぶ。

交際する前は、よく考えていた。

好きな人、とやらがいなかった自分に恋というものは未知なもので、興味だけが先をいっていた。

恋人とは。その異性と一番仲良くしていいための証明書のようなものではないか。

俺はそういう風に考えていた。

再び考え直してみる。

俺たちが恋人同士でなければ、できなかったことは何だろうか。

分からない。

人の目があるところでも話すのは、仲がよければ誰だってできるだろう。

二人で出かけることも、親密な異性の友人とならきっとあるだろう。

多分その場合は、少なくとも片方が相手に好意を抱いていると思うけれど。


「まーだ起きてるの、お兄ちゃん?」


寝ていたのだろうか。妹が眠たそうにしながら声をかけてくる。

妹の部屋から俺の部屋が見えることはないから、大方トイレのついでに見に来たのだろう。


「なあ、恋人ってなんだと思う?」


ふと、尋ねてみる。妹はどんな考えを持っているだろうか。妹の恋愛事情は知らないが、そんな考えをしたことくらいはあるだろう。


「知らん、お休み」


一瞬固まった後、妹は自分の部屋に戻ってしまった。

相変わらずのすがすがしさに思わず笑ってしまう。

確かに、そう難しく考えることじゃないのかもしれない。

ただ、貴重な時間を恋人して過ごしたい。

そんな単純な思いだけで、いいのだろう。


ちょうど、眠気に襲われる。

瞼が落ちていく。




今日は、クリスマスだ。

明日は何でもない、ただの冬の一日だ。

でも、何でもないただの一日が、今の俺には一番明るく見えた。

明日になったら、この心の闇も明るくなるのかもしれないから。


誰にだって、出会いと別れがある。

最低な自分にだって、あった。

だから今は、彼女に別れを告げた自分のことを思っていよう。

明日からは、また新しい自分を見つけていこう。


俺と彼女の最後の言葉を思い出す。


「バイバイ」

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