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王とハユルと昔話

 これは俺とハユルが初めて出会うまでの、俺TUEEEやハーレム要素のない血なまぐさくて苦しかったあの頃の思い出だ。

 あの時の英雄譚を聞かせろと迫る報道陣には言えない魔帝退治の全貌。

 よく覚えてない振りを決め込むが、今も記憶の中にしっかりと焼きついてはなれない魔帝討伐のフリ(・・)の物語だ。


 俺とハユルが最初に出会ったのは、魔帝城第ⅩⅩⅩⅩⅤ階層『幽閉の間』においてのことである。

 その時すでに魔物を殺すことに大した嫌悪もしなかった俺はこれまで倒してきた魔物の数など数えもせず。最強のまま生きていた。

 嫌悪感、罪悪感、たどり着く頃にはすべてが俺の体からすっぽり抜け落ちていた。この世界に来てからデルストルですごすひと時の時間にすべてを味わい、吐き気を催し、もうなにも食べられないと苦しんだ。体は丈夫なのに心が擦れて朽ちていく。

 そんな時、俺は蜂の巣に溜まった雨水を飲んだ。

 おいしかった。すべての悩みから解消された気がして、少しの間そのポカポカとした心の安寧に浸っていた。

 それがこの世界に来てから一年後の記憶だ。

 ここから少し経って、ようやく俺は魔帝城に到着した。

 貧相な大地にそびえ立つ城、黒く覆われた不気味な建物の扉を開ける。

 鍵は掛かっていなかった。

 ひんやりとしていて、生物の影一つ見つからない絶対的な深淵と無音。満たす雰囲気の重々しさがこちらにも伝わってきた。

 でも恐怖はなかった。

 必要ないからだ。

 心臓を刺され首を貫かれ全身を炙られようと俺は死ななかった。ここまでは経験則で、首が撥ねられたらどうなるかはさすがに分からないけど。

 そのまま俺は上へ進んだ。

 すべての階層をくまなく探したのには骨が折れた。半年以上をそれですごしたような気がする。

 そして第ⅩⅩⅩⅩⅤ階層にたどり着いた。結局骸骨と財宝しか見つからなかった個々までの階層とは違い、この階層には元から希望があふれていた。

 声が聞こえたのだ。

 俺はその大きな扉を開けた。

 はじめの一言は決めてある。

 しかし……

「誰ッ!」

 美しい女性の声と同時、その部屋の内装すら見ることなく、


 俺はこめかみを鏃でぶち抜かれた。


 これは初めての経験だった。


 目が覚めたら俺はまた大きな扉の前にいた。誰のためのサイズなのか象二頭分ほどもあろう扉が俺の前に待ち構えていた。

 頭に違和感を感じて硬い金属のようなものを引っこ抜いた。貫通していたと思ったそれは深いところまで入ってたもののそれだけのようだ。

 というか、これでも死なないのか。

 この世界の俺はどうやったら死ぬんだろうか。

 抜いた瞬間辺りにどす黒い液体がばら撒かれる。

「おぉ、今回はかなり出てるなぁ。傷口が深いからか?」

 俺はわざと聞こえるような声で言った。ドアの向こうから短い悲鳴みたいなのが聞こえた。

『生きてるの?』

「そうみたいだな」

『あなた誰?』

「じゃあアンデッドということで」

『嘘。遺体を運び出したときに人間だって確認したから』

「死なない人間って気にならないか? そのドアを開けてその珍妙な生命体を拝むついでに俺の高尚な交渉に乗ってくれるとうれしいんだけど」

『いや!』

「デスヨネー」

 そこから俺は、篭城戦を始めた。

 俺はお腹がすくことはない。食べなくても死なない。一度一週間食べずに生きて口にものを含んで胃に入れたときに自分の胃が衰退していたことに気づいて以来自らが食べたいものがあった時や胃の運動をさせなければいけないときに物を含んだ。胃が衰退しようと別にいい。

 俺は眠る必要がない。どんなに歩こうと疲れない。目の疲労足の疲労脳の疲労すべてがキャンセルされていつでもフレッシュなままなのだ。

 俺は人間ではなくなってきている。

 この世界の理を真っ向から否定する生命体になりかけている。

 これからどうなるのかも、分からない。

 まぁそれはともかく、俺はその利点を生かして、連日話しかけた。もちろん相手は取り合わなかった。

 俺は諦めなかった。

 何度でも話しかけ、話題がなければこの魔帝城を探索した状況を一番初めからシリーズ物で話し続けたり、どうせ聞いても分からないような地球時代の俺の記憶を一からした。好きなRPGの話をいかにも俺が作ったかのように話した。好きなライトノベルの鬱エンドをいかにも俺の友達の人生かのように話した。好きなSF映画の内容をまるでこの世界の未来かのように話した。

 それを一年、続けた。独白をただただ続けた。

 そして、何度目かの「俺が世界を滅ぼすときの順序」の話をしようとしたころだった。

『もういいです!』

 美しい声が聞こえた。

 ずっと望んでいた声だった。

『お酒は飲めます!?』

 扉が開いて俺は寄りかかるべきものを失って転げた。

 俺は答えた。

「飲める、けどその前に」

 俺は自分の、

 朽ち果ててボロボロになった、普通の人がみたら朽木かと思うような、腐って乾いた使い物にならない足を指差して。言った。

「できれば俺の足を切断してくれないか?」


 痛みはなかった。

 心は痛んだけどね。

 彼女は美しき白髪の持ち主だった。顔もきれいで、年は大学生位だろうか。ドレスみたいな装飾が施されたワンピースを身に着けた彼女が苦悶の表情で俺の足をナイフで切り取ろうとしているのだ。痛まないことの方がないだろう。

 ナイフと代えの男用の着替えを置いていってもらい、俺は胸と腹にナイフを突き刺してグチャグチャと混ぜ込んだ。一年間使ってない臓物なんて使えないに決まってる。痛みに耐えて声を漏らさないようにしながら俺は体を万全にした。

 どんどん倫理観が壊れていく。

 結局彼女の前に顔をだしたのは二時間ほどたってからだった。

 彼女も彼女で頬には涙の後があった。

「お酒好きなの?」

「ええ、私の生きる理由です」

 その部屋は扉に似合う広さだった。ドッジボールならできるな。高さ的にはバレーボールでレシーブを打ち上げても大丈夫。

「じゃあ、酒盛りを始めましょう」

 彼女はワインをつめたワイングラスを俺に持たせ、自らもワイングラスを持った。

 乾杯。というやつだ。

 飲み方が分からないのでとりあえずごくっといった。

 俺はぶっ倒れた。突然の感覚過ぎて操縦が効かなかった。

「なんだ飲めないんじゃないですか。まずは一口、香りを楽しんで、もう一口、それから話を始めましょう」


 改めてお酒を飲んだときに、涙が出た。全くもって意図せず、自然なものだった。

「長い間、お疲れ様でした」

 彼女はそう言ってハンカチを渡してくれる。

 案外、心が擦れていたんだなぁと思った。

「このお酒は体が温まって心もポカポカと、落ち着いた気分になれるんです」

 そう言ってお酒の説明をする彼女ははじめの怖がりようは何だったのかと思うように明るい。

「君の名前を聞いてなかったな」

「ハユル、と言います。兄がつけてくれた大切な名前です」

 そう言ってハユルは自らのことについて語り始めた。

 昔は魔物を統率し、絶対的な支持を得た兄がいたこと。

 三千年前に兄が倒され、かつては右腕として有名だった黒幕の老獪な魔女が魔物たちを悪者に洗脳したこと。

 ハユルも魔女に脅されていたこと。

 自身が得意としている変身魔法を使って兄に成りすまし魔物を先導していたこと。

 しかしそれすらも必要なくなるほど洗脳の力を強め始めた魔女がハユルを殺そうとしたこと。

 命からがら逃げてこの部屋に逃げ込み、そこに俺がやってきたこと。

 はじめは魔女の使いだと思って恐怖心から殺してしまったこと。

 だがあろうことか生き返って、しかもなかなか帰らず身の上話やいろんなことを聞かされたこと。

 その内、ハユルが俺に心を開いてくれたこと。

「私は平穏に暮らしたいんです。もう怖い思いはしたくない」

「ならよかった。俺がここに来た理由は……」

「私が質問するまでもなく聞いてますよ。ずっと前から」

 あの扉の向こうで何度も言った、交渉の内容をハユルはスラスラと声に出した。


「私を殺したことにして(・・・・・・・・)すべてを丸く収めよう、そういうことですよね?」


「ご名答」

「正直、これが本当に実現するならこんなにいいことはありません。でもそんなにうまくいくのでしょうか」

「もちろんそれ相応の証拠は残さなくちゃならない。だからひとつだけ質問させてくれ」

「なんでしょう」

「君は自殺するときどんな方法を選ぶ?」

 その時ハユルの顔が一気に青ざめた。

「まさか、再現しようって言うんですか? 死ぬかもしれないんですよ!?」

「脳の中をぐちゃぐちゃにされようと自分の内臓をぐちゃぐちゃに混ぜようと死なないやつがいまさら何で死ぬのか自分でも分からないね。それに俺話したと思うけどカミサマと約束してるんだよ。この世を平和にする、って」

「でも」

 俺はハユルの台詞をさえぎった。

「俺は正義感の強い人間じゃないから、君の事を会ってすぐ撥ねる覚悟はないし度胸もない。正義って主張だろ。一方の主張しか聞かないなんておかしい。結果的に俺は今回悪いのは魔女だってそう思った。君に会う前から疑問だったんだ。俺の聞いていた魔城はここなのに魔物のあがめる場所はここからずれた別の場所だ。だから俺は君は悪くないと判断する。その判断によるものはどんな痛みでも耐えよう」

「でもそれなら私を逃げさせることはなかったはずです。リスクが違い過ぎます。魔女さえ倒せればそれでいいはずなのに……」


「今俺が守りたいって思ったから」


 ハユルの言葉に俺は宣言した。

「『世界を平和にする』これは君のためでなく自分の使命のためだ。でも今『君を守りたい』って思ったのは自分の意思だ。魔女であれなんであれ君が困ることがあれば君の事は俺が守る。絶対に」

 ハユルの頬が少し赤く染まったような気がした。

「わかりました。私は死ぬときは焼け死ぬって決めてたんです。殺させませんよ」

「大丈夫、焼死なら一度試してるんだ。さぁ、旅の準備を始めよう」

「ひとつだけ。いいですか?」

「何?」

「私、魔王をやめたらバーを始めるのが夢だったんです。いろんなお酒を買いに行って皆で飲む、そんなお店を開きた……」

「……すまない、ちょっとだけ待ってその話題」

「?」

「死亡フラグにしか聞こえないからそれ……」

 いまだに地球の常識に引っ張られてる俺だった。馬鹿みたい。


 結局つかまってしまうこともなく平穏無事に生き残ったハユルと俺はそこから先の七年を過ごした。

 ハユルはバーのマスターに、俺は国王になった。

 でも、俺たちの関係は変わらない。

 正直この世界は平穏すぎた。

 だからあれのことを忘れていた。

ギャグとかシリアスとか全部混ぜてストーリーを考えています。うーん辛いなぁと思った時に突然笑わせる、みたいなストーリーにしたい。

……それにしても主人公最強ですね。どうやったら死ぬのマジで。

そういえば某龍玉漫画にそんな敵がいた気がする。

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