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内政大臣とウィスキーと王の答え

 ハユルの解説を聞き終えてからしばらく俺はウィスキーに口をつけていた。

 この時間、ハユルは喋らない。彼女は知っているからだ。この酒と向き合う時間が如何に重要かを。

 ……しかし、今日はそんなことも気にしないシラフ野郎を連れて来ていたのだった。

「王、一つ不躾な質問失礼します」

「おう、なんだ」

「王は数多ある酒の種類で、何を一番好みますか?」

 くだらない、と思った。千差万別な酒の種類を自分の好みという曖昧な尺度で無理矢理切り分けることが、なんとも言えず苦しかった。

「どれの甲乙つけ難いが、一番好きなお酒はワインだな。飲むときに懐かしく思うことがある。あの感覚が、いい」

「なるほど」

 内政大臣は一度息を吐き、そして本質的な質問を投げた。

「ならば王は、それをワインの造酒主に向かってはっきりと告げられますか?」

 思わず耳を疑った。

 なんだそれは。本当に聞く必要のない無駄な質問だ。

 ……いや違う。奴はそんな無能な質問をする奴じゃない。外交の経験は俺よりも数段上、人付き合いを仕事にしているプロなのだ。そんな奴が無駄な質問で終わるだろうか。

 つまりはこの質問にはもっと別の意味がある。

 ……俺は考えた末結論を言った。

「……そのワインについてよく知ってからだと思う。俺は結論を出すのが苦手だからな。いろいろ調べて、ゆっくりと結論を出す」

 内政大臣はしばらくボケーッとしていたが、やがてニヒルな笑みを浮かべた。

「なるほど、王らしい結論です」

「なんじゃそりゃ」

 やっぱり変な奴だ。


 バーを出た後、内政大臣は大きく伸びをした。

 マルチタスクのオンオフを切り替えるための彼なりのルーティーンだ。

 今日酌を共にしたかの男は面白い。

 彼のした質問は、そのまんまの意図だ。

 酒がどれくらい好きかの指標になる。あって話したいほどならよっぽど、そこから呼べば来るなら、文面でいい、楽しむだけで感想はめんどくさい、とランクダウンしていく。

 しかし今回の答えはどれにも当てはまらなかった。

 質問の意図を間違えていたからだ。

 多分色恋の話だろう。あれの中身はおっさんだと知ってる故何をはしゃいでいるのか、と少々苦笑いする部分もあるが微笑ましい。相手も相手なら許されたものだ。

 そう、相手の魔王(・・)だが、あれももう大丈夫だろう。

 内政大臣は結論をくだした。

 たまたま落ち合った振りをして標的の逃亡中の魔王を監視していた。

 しかし蓋を開ければ奥手な国王に律儀に付き合う純朴な娘だった。

 あのウィスキーには酒言葉がある。

「大切な人」だ。製法が特別かつ手塩をかけて育てられていることに由来する。それを出して細かいアピール、勿論少々ディープな知識なので目的の彼が気づいているとは思えないが。

 話を戻すと、あのバーテンダー。あの魔王のことだ。勿論リサーチ済みなのでわざわざ確認もしない、王はひた隠しのつもりかもしれないが。

 元々内政大臣は魔物が嫌いだった。

 子供の頃、彼から両親を奪ったのは、魔群の襲来だった。それ以来彼には深い傷がある。本当の黒であるなら、の話だが。

 しかしこれで敵は別にいることが分かった。つまり、まだ戦いは終わっていない。

 魔道具を使い、彼は関係省庁への根回しを始めた。


 内政大臣が帰った後のバーで俺はぐでっとしていた。

「やっぱ仕事仲間との飲みは疲れるよなー」

「珍しいですよね、普段はめったに仕事のひとなんて連れて来ないのに……可愛い女の子は別みたいですけど」

「待って流石に皇族の娘との二次会よりは仕事仲間と来る方が多いけど!?」

 ハユルの認識が思ったより歪んでいた。

「まぁなんであれ、今回の大臣さんは優秀な方ですね」

「何? 好みなの?」

「いえいえ。単純な仕事の出来不出来や人間性の評価です」

「あっ、そう」

 残り少なくなったウィスキーを煽った。

 いけない、今俺は突然不機嫌になっただろう。

 感情を表にだすのは良いことでも悪いことでもない。

 ……時と場合によるのだ。

 いつ、どこで、何人に、誰に、どんな感情で見られているのか。

 出し過ぎても出さなさすぎてもいけない。

 必要なときに必要な分だけ、当たり前なことだ。

 そう、必要なときに。

 いつかは、言わなきゃな……。


 ……と呟いたことに気づいてない国王の言葉でバーテンダーは酷くどぎまぎしたのだった。

なんだか、王様にはここから頑張っていただきたく。

さて、ワイン、ビール、蒸留酒と異世界のお酒を大分掘り下げましたね。

次回はこの世界を掘り下げ。つまり過去編です。

よろしくお願いします。

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