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バーと国王とスキャンダル

 ――魔域、デルストル。

 各種魔物が生息、魔域では人間を害とみなすよう洗脳された魔物たちがいるため住める土地ではない。

 人間側と魔物側で紛争状態にあり、前線は今も危険地域にある。

 しかしその実、戦況は人間側の圧倒的な蹂躙に終わっている。理由は十数年前、魔帝、ダンガルスが倒れたためである。

 故に魔物サイドは防戦一方。魔物の戦線は下がるばかりである。

 その結果を引き起こした。つまりは魔帝ダンガルスを成敗したとある男がいる。

 勇者、ナイト・アズマ。

 出身不明、類まれなる身体能力、そして正体不明の力で力を増幅させた剣を軽々振りさばき、一騎当千の力で魔帝城まで一人でたどり着き、魔帝を殺したとされる男。

 彼は功績として国を渡され、この人間界の勇者として崇め奉られた。

 そしてその彼は、


 今、報道記者に追われている。


「――うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 マジックアイテムを持った記者振り切るため、この世界での人類最強「あずま奈射斗ないと」、つまり俺は全力で裏道から公用の馬車に飛び乗った。

 運転手をせかして早速出発させる。

 くっそ王城の設計書を記者に垂れ込んだの誰だよ! 全道筋ばれてやがる!

 俺はもともと地球にいたただの大学生だった。名前でいじめられたからあだ名ナシ。でも学校にはめげず通ってので成績は上の中、卒業試験前日に単語帳を開きながらホーム歩いて転落、美少女の一人も救わずに天界へ。女神から人間やり直しか魔王を倒す条件で身体を最強としてチューニングされたこの体を使って新生活かを選べといわれたのでエルフに会えるなら……程度の理由で異世界選択、生活開始三年で魔王を討伐! スピード昇進で国王になりました! エルフには会えなかったけど! それから苦節十年で国王を何とかやってます。体は若いままから老いることのない体になってたので未だ大学生! でも中身は三十歳のおじさん! 見た目は子供、頭脳は大人(?)の状況です。以上ハイスピードノンストップ自己紹介!

 ……どうしてこうなった。

 魔帝を倒したってことにした(・・・・・・・)のはよかったものの、そこから配属された部下が「深夜のイケナイ! 女性交遊でゲス不倫」だの「政治資金横領した上、会見で爆笑」だの「建てようと思った図書館の建設費がかさんでかさんでしかも柱が浮いてたらしい」だのスキャンダラスでデンジャラスなやつらばっかりだったので俺は不祥事に追われていた。

五年前に「魔帝城取り壊し予定資金が不正に使われていた」件で詳しく答えたのがいけなかった。メディアが犯人の正体を掴んでない状況で詳しい詳細を話した性で「王様犯人説」浮上からの、元凶である経済大臣が事実報道の前に「寿退社」で退職申請を出してきやがり、「平等」を謳った我が国ではそれを断ることもできず。真相報道ごろには奴は雲隠れ。世界から「シークレットスキャンダルを隠せない王」のように扱われ、外交大臣に「お前今度それやったらマジ社会的に殺すよ? マジこっちもいろいろ背負ってるから、ねえ国の問題だから。ホントやめてマジでホントやめて? ホントマジで――」とものすごいドデカイ釘を刺された。

そしてそのとおりに押し黙るも報道記者は「喋れないってゆーのはアンタが関わってるからってことでいいのぉ? いやー、事実確認とか関係なく証言でっち上げて書くんだけどぉ」とかいう謎の論証で飲み会よろしく喋れ! 喋れ! とコールしてくる。

 本当に、辛い。

 あれ? ライトノベルの人たちってこんなにスキャンダルまみれだった? おっかしいなぁあの人たちTUEEEって感じでみんなを黙らせてたんだけど、そうしようかな? やっぱり俺もそうしようかな?

 ……一回やろうとして部下に全力で止められ、いつもの外交大臣から「ねぇあのさぁ? うちの国を脳筋にしないでくれる? 今法整備めっちゃやってるやん? 外交でなめられたら隣国の剣聖国とか余裕で攻めてくるよ? 何? 国民殺したいの? なんなん? ねぇなんなん? いやだから――」と嬲られたことを思い出してやめた。数年前のあんまり思い出したくない記憶である。

 とりあえず向かうのはこの王城の城下町のかなり外側にある小さなバーだ。お酒はおいしい。アルコール消毒液の匂いをかいでなんでこんな不味そうなモン飲めるんだろうかと思ったガキなころの俺とは違う。ワインが私の性格を変えました。

 それ以上に、俺が向かわなければならない理由が、そこにある。

 バーのマスターであるハユル、いや魔帝ダンガルス(・・・・・・・・)。その彼……彼女(・・)が営む店だからだ。

「……三ヶ月、だっけか」

 着いたら一週間後また来ると前に言ったまま三ヶ月もこれなかったことを謝って、それからおいしい酒を注文しよう。ご機嫌をとらないと閉店時間をわざと早めそうだから。


 ダンガルス、と呼ばれた男は俺が魔帝城についたときには既にいなかった。正確にはそこに亡き帝王である兄を変声魔法や変身魔法を駆使して演じていた隠された妹がいたのだ。ハルユと呼ばれた美少女である。

 出会った時は二十歳程度に見えたが彼女は悠久の云々かんぬんでいま二百十歳位だそうだ。云々かんぬんは酒の席での会話なので忘れてしまった。

 その少女を何とかして救い出そうと一年魔帝城にこもって熱烈なアプローチをした結果承諾を得たのはやはり数十年前のことである。人間とのハーフである彼女は特に人間に対する反感はない。というかもともと魔物たちにそんな反感はなく、幹部である魔女の独断で洗脳されたそうだ。……匂う経済大臣臭……。

 そんな彼女だからこそ、今の俺のスキャンダル生活のよき理解者であり、相談相手であり、生活の清涼剤である。感謝しかあるまい。

 お忍びでバーにやってきて静かに戸を開ける。誰もいないバーの奥で一人の女性がピアノを弾いていた。心地よい音色である。

 たまに店を訪れるとこうしてハユルがピアノを弾いている。明るい曲だったり暗い曲だったりさまざまだ。

今日は原曲が明るい曲をあえてなのかしっとりと弾き、Aメロを終わらせたあたりで聞き惚れていた俺に気づいた。

「……いらっしゃいませ。お久しぶりですね、勇者様」

「その呼ばれ方はスキャンダル記事を思い出しちゃうからやめてほしいな。なかなか行けなくてごめん」

「その程度じゃ怒りませんよ。来られないとは聞いていましたし、優雅にお酒を愉しむのがこのバーの一番の魅力ですから」

「ありがとう」

 以前はむすっとしてたが人間の触れ合いで角が取れて丸くなったようだ。

 お店に来ないとむすっ、あんまり飲まないとむすっ、女の人と会話を楽しんでるとむすっ、髪飾りとかの微妙な変化に気づけないとむすっ。

 変わったところで怒るなぁ、と思っていたが穏やかな人柄になったものである。

「それで、今日は何の愚痴を言いに来たんです?」

「まさか、お酒は愉しむためにあるんだろ? 俺はワインを飲みに来たんだ」

「お酒を飲むと人が変わったようにここ最近の愚痴を言い続けるのはあなたですよナイト。もう慣れっこですもの」

「うへぇー、ばれてるのかぁ。酒癖悪いのかな俺」

「話して楽になりましょう。そのためのお酒と私ですよ?」

 お勧めのワインをあけて俺のグラスに注いだ後にもうひとつグラスを取り出して横に置いてバーカウンターからハユルは出てくる。そうして俺の横に座って話を聞いてもらうのがいつもの状況だ。

「今日ちょっと近くない?」

 今日はピタ、と肩と肩がくっついている。タキシードの上から、仕事着を着こなしたハユルの肩の感触を感じる。

「いいじゃないですか、久しぶりなんですから。いつもみたいにまずは一口、香りを楽しんで、もう一口、それから話を始めましょう」

 言われたとおりにワインを煽る。少しビターな味だった。

「私の寂しさ、ちょっとわかってくれました?」

「策士め……」

 ワインで籠絡してくるとは……。

「バーのマスターですから。さぁ、話を聞かせてください」

 ニコリとハユルが微笑む。その微笑をツマミにもう一口味わって、俺は話を始めた。

「それがさ、お金が足りないからって市場の腐敗防止剤を敷かないってのはだめだと思うんだよなぁ。盛土をしようっていうのもその性なんだからさぁ。今頃になって衛生上の管理は国の責任とか――」

 こんな風に愚痴を垂れ流す国王、俺。元勇者そして現国王として物凄く恥ずかしい姿だ。

 でも、これでいい。今はハユルが話し相手になってくれているのだから。そのささやかな幸福を味わおう。そう、ワインをゆっくり味わうように。

ブラックジョークとかはさんでますが実際の出来事は関係ありません。ないって信じてるから!

ワインねぇ……おいしいのを突き詰めた先は超高級か、それとも? というのが楽しめる飲み物ですね。

勇者とかの設定は深く考えてません。正直内政メインなので。

楽しんでいただけたなら幸いです。

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