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この世界に完璧という言葉は存在しない。  作者: 人生負け組
彩道 純也という男。
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この世界にバーチャルという言葉は存在する。

 彩道たちは現在大きな施設内にいた、正確には施設みたいな場所だ。その場所は広々としており、まさしく広大という言葉がぴったりな建物だ。

 この場所は学園が保持する建物の一つで校舎や体育館とは別の所に建てられている。


「よし、集まったか! 昨日も伝えたが、今日はこの場所でコンビでの連携を磨いてもらう」


 真剣な表情で志都美は生徒達を見渡した。


「先生! 一体どのような授業をするのですか?」

「そうだったな、彩道と御影は昨日いなかったか。なら説明しよう。いいか、他の者ももう一度しっかりと話を聞くのだぞ」


彩道の言葉に一度うなずいた志都美は、いつも以上に声を張り上げた。


「さきも言ったが今日はコンビとのセット授業となる。しかし、そんな難しくは考えなくても良い。やることは簡単……鬼ごっこだ」


 志都美は十分に息を吸った後、口を開いた。志都美の子供の様な笑顔とは裏腹に生徒たちはその言葉に動揺し、ざわめいている。

 だが、こんな立派な建物にまで呼ばれて言われた言葉が〝鬼ごっこ〟なら動揺するのは仕方あるまい。昨日の段階でどこまで聞かされていたかは分からぬが、この様子だと詳しくは生徒たちも知らなかった様だ。


「ど、どういう――」

「急かすな。説明するといっただろう」


 彩道の言葉を遮り、志都美が声を出す。


「えー、お前たちはまだコンビになって日が浅い。しかし、もうすでにお互いの魔導、反動についてはある程度の理解はしているはずだ。今日はその応用の授業である。もちろん鬼ごっこと言っても普通の鬼ごっこではない」志都美は一度咳払いをし、「お前ら全員が鬼で、こいつを捕まえてもらう」志都美はポケットから手のひらより少し大きい何かを出した。


「え……うわっ!?」「きっも!」

 それにクラスの奴らが反応する。


「これは魔導マウス。まあ名前の通り、魔導が使えるネズミだ。これを君たちには時間内に捕まえてもらいたい。もちろん、魔導といっても戦闘魔導は使えないがな」


 魔導マウス――人類が魔導石を埋め込む前に埋め込み実験をネズミにしたという。その成功したネズミを魔導マウスと呼ぶ。

 瞳は不気味に光る紫色で毛並みは茶色といった所だろうか。尻尾は胴体よりも長く、胸には魔導石が埋め込まれた後の手術痕が残っている。

 魔導マウスのおかげで魔導石について様々な事が解明された。それにこの魔導マウスはある程度の魔導も扱えるため、こういった授業で登場することは珍しくない。


「君たちも中学時代、魔導石の仕組みを知るために解剖とかやったろう? まあそれはいい。今回の授業はこの魔導マウスをコンビで捕まえてもらう」

「捕まえるってこの場所でですか?」


 一人の生徒が質問する。この生徒が疑問に思っていた事はここにいるほとんどの者が思っていたことだ。この施設みたいな場所は直方体の様な形をしており、壁や天井があるだけで他に何もない殺風景な景色となっている。

 そんな場所でクラス全員が一匹のネズミを捕まえるとなると、果たして授業として成り立つのだろうか? ……その答えは否。こんな場所でそんな事をしたら授業というよりただの地獄絵図だ。ではどうするのか。


「フン。よくぞ聞いてくれた。君たちが思っている様に確かにこんな場所では授業にならん。ではどうするのか……こうするのさ!」


 よくぞ聞いてくれた、と自信ありげな顔で志都美は指をパチンとならした。

 果たしてこんな先生だっただろうかと、生徒たちはおなじ疑問を頭に浮かべたが、そんな疑問を一瞬で吹き飛ばす光景が現れた。

 志都美が指を鳴らすと、大きな柱が現れた。その柱は見る者全てを取り込むようなきれいな水色の柱で、建物の端、四か所に出現した。


「君たちが驚くのも無理はない。これは近年開発された物だからな」


 柱に見惚れている生徒たちを眺め、それに満足したのか志都美は鼻息を「フン」と強く吹いた。


「まだ驚くのは早いぞ! はっ!」


 両手を挙げて再び指を二度鳴らす。

 ここで何故、志都美がこんなにもテンションが高いのかを生徒たちは察した。――この人も興奮しているのだと。

 志都美が指を鳴らすと、四つの柱の先端からこれまた綺麗な水色のレーザー光線が放たれ、四つのレーザー光線は施設内のど真ん中で交じり合った。そして交じり合ったレーザーは次第に施設内いっぱいに広がって行き、建物内全体を覆うと同時に消えた。


「な、なにが起きたんだ」と、動揺の声と共に生徒たちが辺りを見渡す。すると一人の生徒が「あぁぁぁああ!」と悲鳴にも似た声を出し、生徒たちは前方を……志都美の背後を見た。

 志都美の背後には何もなかったはずだったのだが、今は違う。堂々たる己の存在を生徒たちに知らしめる様に建物が建っていた。


「なんだよ、これ!」生徒たちは開いた口がふさがらないでいた。ただ目の前の現実に唖然としている。


「ねぇ、変人。あれって……私たちの学校じゃない?」


 御影の小さな声が施設内に響き渡った。正確には誰も言葉を交わしていなかった為、御影の小さな声ですらクラスの者たちに聞こえたのだ。

 御影の言葉を聞き、もう一度突如現れた建物を見る。すると先程とは違い、生徒たちの顔に多少の余裕が見えた。


「驚いたようだな。ここが舞台だ」


 生徒たちの驚いた顔を見て、志都美は満足そうにうなずいた。


「だが、安心しろ。別に学校を転送してきたわけではない。この柱が学校のデータを元に再現したバーチャルだ。ここはそう言ったデータを元に授業の場所を提供する施設である。普通の学校でやったら先輩達にも迷惑がかかるしな。それに何故、学校かというよ、君たちが共通で理解ある場所が良いと思ってな」


 志都美の言葉に、次第と生徒たちの首が建物から志都美の方に向いて行った。未だ驚きは隠せてない様子で、コンビ同士で目を合わせて、夢じゃない事を確認している。それは彩道と御影も例外ではなかった。


「すごいわね……さすが有名な学園なだけあるわ」

「ああ……ここまでの事が出来るとはな」

「そういうことだ。君たちにはここで魔導マウスを捕まえてもらう。もちろん捕まえられるコンビは一組だけだ。どんな戦略を立てても良いし、校舎を派手に破壊しても構わん。バーチャルといっても本物となんら変わらんと思っていいぞ。重さ、耐久性。それを踏まえて君たちは頭と魔導を使い、今回の授業を乗り越えてもらいたい」


 先生はバーチャルで出来た学校を一度見てからもう一度生徒たちを見渡す。そして、


「だがな、こういった授業で重傷者や死者が出られては困る。その為、これを付けてもらう」


 志都美は足元に置いてあったアタッシュケースから大きなリングを取り出した。そのリングを生徒たちに配ると、左手に付けろ、と命じる。リングが生徒全員に装着されたのを確認すると、


「これはお前たちを守ってくれるお守りだ。大きな傷を受ける直前にリングが判断してテレポートで強制脱出する機能がついている。それに小さな攻撃でもこのリングがバリアを作り出して守ってくれる。が、強制テレポートまたはバリアが破壊された場合は戦闘不能と判断し、授業から失格とする。だから遠慮なく実力を発揮していいぞ。私は君たちの立ち回りなどを見て評価をつける。制限時間はそうだなぁ……今が昼前だから、夕方のチャイムが鳴るまでとする……。おっと、一つ言っておく。 正直捕まえられるとは思っていない。まだまだひよっこの君たちの魔導では無理だろう。だから精々楽しめ!」


 軽く笑いながら放たれた言葉に生徒たちの目つきが変わった。

 しかしそんな事を志都美は気にも留めず、バーチャルで出来た学校の写真撮影を始めている。


「ねぇ。空気変わったわよね? 今」

「面白いではないか」


 辺りの空気の変化を察した御影が、先程よりも小さな声で彩道に耳打ちする。その言葉でかは分からないが、彩道は余裕ありげな表情を浮かべる。

 そこからは作戦会議の時間、と志都美が言ったため、十分ぐらいの空き時間を挟んだ。志都美の言葉で火が付いた生徒、平常心を保っている生徒、心配な表情を隠せていない生徒と人それぞれであったが、誰一人として弱音は吐いていなかった。

 時間が経ち、志都美が二つの物を配った。一つはギアだ。非戦闘魔導を持つ者もいるため任意で配られた。もちろん彩道も御影もそれを受け取った。終始不安な表情であった御影もギアを手にして多少、安心している。

 二つ目は捕獲ケース。首元から透明色の捕獲ケースをかけた。その容姿はまるで夏に虫取りに出かける子供のそれであった。

 この捕獲ケースは三百六十度どこからでもターゲットを入れることができるらしく、ターゲットが触れれば、外側をすり抜け、中に入るといった優れ物だ。

 志都美の大きな合図と共に、左手に付いたリングが薄黄色に光だし、生徒たちは学校内(バーチャル)にテレポートした。


 







 


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