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この世界に完璧という言葉は存在しない。  作者: 人生負け組
彩道 純也という男。
4/6

この世界に腰履きという言葉は存在する。

「本当に大丈夫なのか? 茶毛」

「大丈夫だと言っているでしょ? しつこいわね」


 女は髪を結び、箸を動かす。


「うっまー! 本当に奢りでいいの? 変人」


 女は緩んだ表情で箸を動かした。


「ああ、今回はこの私、彩道 純也に責任があるからな」


 彩道は顔に手を当て、決め顔でそう言った。


「あんたっていちいち鬱陶(うっとう)しいわね。別に、ちゃらでいいって言ったから奢んなくてもいいのに」


 茶毛こと御影は、麺を勢い良く(すす)った。


「茶毛よ。そう言うならばその箸を置け」

「……嘘よ。ゴチになるわ」


 二人がいるラーメン店は、あちこちに油が飛び散ってそのまま放置された跡が残っている。それに至るところが黒く汚れており、お世辞でも綺麗な店とは言えない。

 その為、店内には彩道と御影以外客はいない。


「茶毛。こんな店で良かったのか?」


 店主に聞こえないぐらいの声で辺りを見渡した彩道が御影に尋ねる。


「ええ、ここは私だけが知っている隠れスポットなの。あんたも食べてみる? 美味しいわよ」

「……ではいただこう。主人、同じのを一つくれ」


 少し考えた彩道は店主に注文した。

 しばらく経ち、御影と同じラーメンが彩道の手元に運ばれる。


「いただきます」


 手を合わせ、彩道は箸を持つ。

 そして御影と同じ様に勢い良く麺を啜る。

 店主に視線を向け「うん、旨い! 旨いぞ、主人」と麺を喉に流しながら店主に言うと同時に、視線を感じた彩道は、店主から再び御影に視線を移すと「なに見ているんだ?」御影が間抜けな顔で彩道を見ていた。


「い、いや。本当に食べるんだなぁって。ほら、この店汚いじゃない? だから食べないんじゃないかなーって思って」


 彩道の言葉で御影が我に返る。

 言ってはいけないワードが御影の口から出たが、店主は何一つ表情を変えることなく仕事をしている。どうやら店主もそこは気にしていない様だ。


「ふん、私は基本的に固定概念にとらわれない様にしている。この店に入った時は少々戸惑ったが、それで食事をする、しないはまた別問題だ。まああのご老体……奈々ちゃ……さんには驚いたが」

 

 彩道は再び箸で麺を啜る。


「ああ。確かに。私もあの後、あのおばあちゃんからいろんな話聞かされたけど、色々と驚かされたわ。でもいい人よね、あの人。医療関係ではかなりの有名人らしいわよ。良かったじゃない。あんたのその頭、治してもらえるんじゃない?」


 御影の言葉には冗談が感じられなかった。


「フフフ、ハハハハハ! 何を言っている茶毛。私は至って正常だ。どこがおかしいと言うのだ」

「はぁ、もういいわ」


 そう言う所よ! と言おうとしたが御影は諦めた。

 少しだが御影はこの彩道という男の事を理解し始めていた。それを喜んで良いのかは分からないが。


「で、茶毛よ。グラウンドで何があったんだ? 詳しく教えて欲しい」

「ああ、私とクラスに戻った時、気にくわなさそうにこっちを見てた奴いたでしょ?」


 彩道が御影を迎えに行き、再び二人でクラスに戻った時にこちらを睨んでいた人物が一人だけいた。


「……あの筋肉悪顔か」


 筋肉悪顔、コントロール訓練の時にクラスを沸かしていた男だ。あの感じを見るとクラスの人気者なのは明白だ。


「そうなの……まあ、多分そいつよ。そいつがあんたの事狙ってボールを投げたのよ」

「そうだったのか。でも何故?」

「さあ、ただ単にいじめたかったんじゃない? ホントあーゆの腹立つわね。自分が人気者だからって調子に乗って……」


 御影の周りからはメラメラと怒りの炎が湧き出ており、今にでも手に持っている箸をへし折りそうであった。


「そうだったのか、ハハ……ハハハハハ! わかったぞ。茶毛。何故、私たちが狙われているか」

「言ってみなさいよ」

「この私が妬ましいのだ!」

「はぁー。あんた……どうやったらそんな結論が出るのよ。相手はクラスナンバーワン、こっちは落ちこぼれ。妬む要素どこにあるの」


 ため息をつきながら呆れた顔で御影は言う。


「茶毛よ。私は一度たりとも周りの者に後れを取っていると思った事はないぞ!」

「もういいわ。勝手に言ってなさい。ご馳走様でした。また来ますね。ご主人」

「待て! 茶毛」


 彩道を流すように御影が席を立つと、それを見ていた彩道は急いで器のラーメンを口に運んだ。そして店を出て、


「おい、待て! もう一つお前にききたいことがある」

「なによ……あっご馳走様でした。……放課後まであんたと一緒にいるの嫌なんだけど?」


 思い出したかのよう御影は、一度手を合わせお辞儀した。


「お粗末様でした。……ふん、ならば答えろ茶毛。お前の魔導についてだ。私たちはコンビだ。知る権利はあると思うが?」


 彩道もまた、御影同様にお辞儀をする。


「……そうね。いいわ、それは教えときましょうか。私の魔導はグランドでも見せたけどワープよ。ワープゲートを出現させてそこに入ったものを別の所に移動させることができるの。一度に作れるゲートは二つ。取り込むゲートと吐き出すゲート。大きさ、距離には制限があるの。それはその日の調子によるけど、距離の目安は10から20メートルってとこかしら。大きさは最大であんたの足から胸ぐらいが限界。最大サイズを一発やったら昼間見たく私は気絶しちゃう、昼間はとっさだったから最大サイズになっちゃったんだけど……小さいワープゲートでも精々5回が限界かしら」

「ほう、なるほど。便利な魔導だ。なのに何故ランクがDなんだ? 優秀な魔導だと思うが」

「やっぱ意識を失っちゃうっていうのが大きいかしら、それに戦闘向きでもないし、距離も大きさも限られているから……」


 御影は少しだけ肩を落としながら話した。


「そういった基準があるのだな」

「まあでも、その人の成長によって魔導の力は伸びるらしいけどね。……で、あんたの魔導はどうなのよ? 考えてみたらまだ一度も使ってないわよね? コントロール訓練の時にもギアを使ったって事は非戦闘魔導なの?」

「フッフッフッフ。よくぞ聞いてくれた、私の魔導について。私の魔導は……」


 御影の言葉に、待ってました! と言わんばかりの笑顔になり、口を開けようとしたが、


「げぇ……」


 彩道が喋ろうとすると同時に、御影がそんな声を漏らす。

 彩道はそんな御影が気になり、視線を御影が見ていた先に移す。するとそこには、前を歩く四人組が、


「……あっ?」


 四人組の先頭にいる男がこちらに気付き、歩み寄って来る。

 その者は四人組のリーダーであることは間違いないだろう。だらしなく制服を着ているのはファッションなのか、何なのかは分からない。


「知り合いか、茶毛」

「さっき話したでしょ。私たちのクラスで一番人気の……」


 御影は眉をひそめながら彩道の耳元で(ささや)く。


「あー、筋肉悪顔か!」


 彩道はピンと来たように指を鳴らした。


「そう、名前は真喜羅(まきら) 武正(たけまさ)よ。お願いだから何もしないでね」

「おいおい、ここで何をしているんだ。世界最弱コンビのお二人さん」


 近寄って来た真喜羅は彩道と御影の顔をジッと見て言った。

 真喜羅の後ろの奴らも彩道たちに薄笑いを向けている。


「……」

「なんか言えよ。落ちこぼれの御影さん? もう、体調は大丈夫か」


 御影は下を向き、黙って拳を握っている。


「んで、こちらは世界に嫌われたゴミ。彩道だっけか?」


 真喜羅は舐めまわす様に彩道を見て、口にした。


「ハハハハハ! 面白いな。君がマキバ君か。よろしくな」


 彩道は真喜羅に手を差し伸べるが、


「てめぇ、舐めてんのか? 俺の名前は真喜羅だ。次間違えたら殺すぞ」


 彩道の手を払い、言い放つ。


「それはすまなかった。ところで、君は制服もまともに着れないのか? それともただ単に腰の位置が低いのか? 後者だったら謝るが?」


 彩道は真喜羅のズボンの穿き方に疑問を覚え、尋ねる。


「てめぇ、どうやらおめぇは立場を理解してねぇーみてぇだな! 明日の授業は……おっと、お前らはその時いなかったか。その授業でお前らをぎゃふんと言わせてやるよ……圧倒的実力差でな」


 真喜羅は自分の手をゴキゴキと鳴らしている。


「ぎゃふん。これで満足か? マキバ君。それに立場といったが、私たちは同級生ではないか。そこに立場の差はないと私には思えるのだが」

「ちょ、ちょっと。なにしてんのよ」


 袖を引っ張り、御影が心配そうな表情を浮かべている。


「てめぇ。マジでぶち殺す!」


 真喜羅の周囲の空気が一変した。周りの空気がピリピリとし始め、真喜羅の足元の土が宙に浮き始めている。


「おい、真喜羅。今はやめとけ。ここで問題起こしたらやべーって」「そうだよ、真喜羅。ほっとこうぜこんな奴ら」


 二人の生徒が真喜羅の肩を掴み、止めに入る。


「……覚えとけよ。彩道、明日ぶち殺してやるからよ」


 落ち着いたのか、先ほどのピリピリとした空気はどこかに消えている。

 一度深呼吸をした真喜羅は彩道と御影を睨みつけ、後ろをダラダラと歩いて去って行った。


「ちょ、ちょっと! なにしてんのよ。あんた」


 御影は落ち着きを失っている様子だ。


「なにもしとらん! ただクラスメイトに挨拶をしただけさ」


 彩道はいつもの様に笑う。

「ほんと、あんたって……」大きなため息と共に御影は手を顔に当てる。そして少しの間が空き「でも、あんたの事いつもは嫌いだけど、今のはナイスよ、彩道」

 顔に当てていた手がグッドサインに変わり、彩道に出されていた。

 彩道は「フン」と鼻で笑い、二人は真喜羅と反対方向に歩いて行った。


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