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この世界に完璧という言葉は存在しない。  作者: 人生負け組
彩道 純也という男。
2/6

この世界に茶毛という言葉は存在する。

 授業の日から数日が経過した。あの日から何か変わったかと聞かれたら一つぐらいだろう。

 それは彩道 純也という男の扱いだ。

 今までは間接的に生徒たちは彩道をバカにしていた。決して自らの手を汚さない様に。しかし今は違う。

 生徒たちは多少のリスクを負ってでも直接的に彩道に牙を剥くようになったのだ。……牙を剥いたといってもそこまでの大事にはならない程度に。例えて言うなら、足を引っかけたり、肩をぶつけたりと子供が考えそうな陰湿な攻撃だ。


「おい、来たぞ」


 二人の生徒が廊下を歩く彩道を確認し、教室に入っていく。やがていつもの様に登校して来た彩道が教室の扉をくぐろうとした時だ。

 ボフン。頭上に柔らかくもないが固くもないクッションにも似た物が降って来た。そしてそのクッションにも似た物が彩道の頭に到着したと同時に、粒上の白き粉が空中に舞ったのだ。

 その光景を見てクラスの者は大きく口を開き、笑っている。何しろ目の前の光景は連中達の頭の中で描いた最高の結果だったからだ。

 彩道は頭をポンポンと払うと、


「フフフ、ハハハハハ! そうか、なるほど。これは反射神経を鍛える訓練だったのか! 私とした事が……油断した」


 最高の結果と何か一つ違うとしたら彩道の反応だろう。

 彩道が粉まみれになる事を今か、今かと楽しみにしていた者たちにとって、最大の楽しみはその後の彩道の悔しそうな表情だ。しかしそんな者達の期待を裏切り、彩道は白い歯を見せ、大きく笑ったのだ。


「この白銀の粉は私を良く見せる為の装飾品のようだな」


 彩道は、はじける笑顔で言うと自分の席にまっすぐ進み、着席した。

 やがて授業が始まり、


「おい、彩道。どうしたその粉は?」


 黒板の前に立った志都美(しずみ)が彩道に尋ねる。


「そうですね……装飾品ですかね?」


 彩道は小さく笑い、そう答える。

 志都美はクラス全体を見渡し、


「もう一度聞く。お前の答えはそれでいいんだな?」

「もちろん」


 志都美の目を真っ直ぐ見て彩道は答えた。

 彩道の答えに一瞬、くもった表情を浮かべる志都美だが、


「そうか、ならこれ以上は追求しない。しかしだ! その装飾品とやらはこのクラスに舞う。直ちに落として来い」


 志都美は右手を大振りに動かし、扉をさした。

 彩道もラジャー、と敬礼して外に出て行く。


「全く、とんだ問題児だ」


 開いたままの扉を見て志都美は小さく呟いた。



 別の授業で生徒たちは外に出ていた。


「では! 二人一組を作れぇ!」


 大きなグランドに一つの声が行き渡る。

 その主は言うまでもないだろう。志都美だ。

 彼女は魔導授業を基本担当しているため生徒たちの前に顔を出すことが多い。

 そして今この場に志都美がいるという事は何の授業を差しているかもうわかるだろう。

 ――魔導連携授業――

 今から始まる授業の名だ。

 まず魔導士という職業は一環にこれだ! という決まった物はない。

 ただ強いていうなれば強力な魔導を扱う者が集まり、一般市民では成し遂げれないことを協力して成し遂げる組織の様な物である。

 その為必然的に見知らぬ誰かとの連携が携わってくる。それを補うための授業だ。

 そしてこの授業にはもう一つの目的がある。この授業で組んだコンビは学年が変わるまで解消されないのだが、そうする事でコンビでの目標達成や連携の向上によって学年に一人は〝信用出来るパートナー〟が出来る事である。

 この授業は賛否両論であったが、例え高ランカー同士、低ランカー同士が組んだとしても、その者達が活躍出来る授業を取り込むことでそう言ったマイナス意見を解消した。


「では今から私が言う出席番号は赤色の箱。残りは青色の箱を引け。同じ番号の奴がこれからの相方だからな。仲良くしろよ」


 生徒たちが次々と箱の中から紙を引いて行く。ガッツポーズをする者。肩を落とす者。反応は人それぞれであった。


「さあ、さあ、さあ! この私とコンビを組める栄光ある者はどいつだ!」


 彩道は自信満々に辺りを見渡す。


「……げっ」


 彩道の後方にいる茶髪の女は自分が出せる声域の一番低い声を出す。


「んー?」


 彩道はゆっくりと振り返り、


「おー。もしかして君か? ……って誰だ」

「ズコーッ! って変な事させないでくれるかしら。まあいいわ。覚えていないなら」


 茶髪の女はこれでもかっていうほどに体を反り、ズッコケた。


「ほう、そうか。…………あっ思い出した。コントロール訓練の時の者だな」

「……ええ、そうよ。はぁ……よりにもよって何でこいつとコンビなのよ……」


 茶髪の女は顔に手を当て、落胆している。自分の運命を呪うかの様に。


「先生。志都美先生!」

「なんだね」

「あのー、コンビ変えてください。私とこいつじゃあ、どの授業も乗り越えられません」


 茶髪の女は手を挙げ、志都美を呼び出す。


「ダメだ。一度決まってしまっては。それにバランスは考えてある」

「バランスって……Dランクの私と、Fランクのこいつでバランス何ですか?」


 茶髪の女は振り向かずに彩道を指さし、志都美に訴えかける。


「御影。まだ組み始めたばかりだろう……んー、ならばこうしよう。この先もお前の不満が解消されないのなら考える。どうだ?」

「……わかりました」


 茶髪の女……御影は納得していない様子ではあったが、自分が言っているわがままも理解している引き下がった。

 志都美が去った後、周りからボソボソと声が漏れていた。


「おい、あのコンビ」「まじかよ、良かった」「これでどの授業もビリはないな」

 そんな声を聞いて、御影は、


「最悪。最悪。最悪よぉおおお! なんで私ばっかり……」


 御影は髪をもみくちゃにして喚いた。


「おい、どうした茶毛」

「チャゲじゃない。御影よ」

「おぉーそうか。で、どうした茶毛」

「殺すわよ……はぁ、あんたは気にならないの? 悔しくないの? こんなバカにされて」


 御影は手を全力で使い、周りには聞こえない声ではあったが、言葉を強く放った。


「気にならんな!」

「なんで? どうして?」

「私には信念があるからだ。だから何も気にならん」

「信念?」

「その信念がある限り私は負けない。お前はどうなんだ茶毛。お前にも信念が……成し遂げたい夢があるからここに来たのではないか?」


 彩道は腕を組み、自らを誇る顔をしながら声を張り上げた。


「……によ。……何を偉そうに! 私の事何も知らないくせに」


 御影は下唇を噛みしめながら、下を向いていた。


「……ふん、まあいい。人それぞれだ」


 御影の様子を見て、彩道は静かに口にした。


「では始めるぞ」


 志都美は笛を吹き、生徒達の注目を浴びる。


「今からお前たちにはキャッチボールをしてもらう。もちろん先程組まれたコンビでだ」


 志都美の言った言葉で周りからは動揺が含まれた声がいくつか漂っていた。


「もちろん、ただのキャッチボールではない。今から行うキャッチボールはコンビ同士の魔導を認識し合う為の行為だ。このボールに触れた者は魔導石から流れる魔導を微力だがボールに吸われる。そして投げ返したパートナーにその魔導が入り、次はそのパートナーの魔導が吸われる。そしてコンビ同士で互いの魔導を体内に入れる事でお互いの魔導を無意識に理解することができる。慣れてくれば、例え暗闇でもどこにパートナーがいるか分かるため、そう言った暗室でも連携が取れるのだ」


 志都美はそう言って箱からボールを幾つか取り出した。そのボールにそんな機能があるのか、と疑問に思うぐらいどこにでも売っている普通のボールだ。


「なるほど、つまり私と茶毛が一つになるという事だな」

「その表現やめて! 気持ち悪い」

「しかし、簡単に言えばそうだろう。こういった事でコンビとの連携力を高めるとは……流石魔導の学校だ」


 彩道は真面目に、そして真剣に話している。そして続けて、


「先生! 他人の魔導を取り入れた場合、何か異常は起きないのでしょうか?」

「心配するな。体に異常が出ないぐらい微量だからな。それとお前たち一つ勘違いするなよ。他人の魔導を取り込んだとしてもその人の魔導は使えないからな。自分の体の魔導石から発生する魔導しか扱えない。よく覚えておけ」


 志都美は一通りの説明をすると、ボールと手袋をワンセットで配り始めた。


「では、やるぞ、茶毛」

「だから茶毛じゃないって」


 御影は溜息をつきながら手袋を装着し、ボールを投げ合う。


「本当にこんなんで魔導を取り込めているのかしら」


 ただのキャッチボールにしか思えなく、そんな不満が御影から漏れてしまう。


「ハハハハハ! 行くぞ茶毛。私の必殺技を……デストロイ!」


 彩道は子供の様な笑顔で技名を叫んだ。

 とてつもなくしょうもない技名から放たれたのはとてつもなく普通の球であった。


「あいつ……本当調子狂うわね。にしてもこれ意外と硬いのね。この手袋がクッションになっているみたいだけど」


 御影は自分の手とボールを見つめて小さく呟く。そして、彩道の方に視線をやり、


「行くわよ……って……え!?」


 御影がボールを構え投げようとした時、御影の背後を矢のような速さで何かが通過して行く。


「……まさか!」


 一瞬だけ背後を確認するとクラスの一部の連中たちが不気味な薄笑いを彩道に向けていた。


「変人! 危ない!」


 砂煙を纏ったボールは彩道に向かって接近していた。ぶつかればただでは済まないだろう。

 彩道はというと呑気にストレッチをしており全く気が付いていない。

 何で今頃ストレッチしてんだよ、とツッコミを入れたいところだが、そんな余裕はもちろんない。


「あの、ばか! 仕方ない……」


 御影はボールを投げ捨て両手を前に突き出し、狙いをつけ、


「ワープゲート。ミディアム!」


 御影が唱え終えると、御影が狙っていた先、彩道の正面に渦が巻いているようなゲートが出来た。

 止まる事を知らないボールはその勢いのまま御影が作り出したゲートへと消えて行った。

 そしてゲートが閉じたと同時に、御影の背後から何かが地面に落ちる音と共に砂煙に紛れた生徒の悲鳴が聞こえた。


「ん? ……おい、どうした茶毛。おい!」


 御影の意識がもうろうとする中、目の前から彩道 純也が走って来る。

 御影は気を失う前に、このバカと彩道を罵り、そして自分のワープゲートによって返還された勢いあるボールに悲鳴をあげる生徒の声を聞きながら意識を失った。

 

二話目です。とうとう魔道が出ましたね。茶毛こと、御影さん。

次回は魔道の仕組みがわかります。


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