王太子は姫君と再会する
客が全員揃い、祭りの初日となった。最初に行われるのは、海辺での鎮魂の言葉。それぞれの国の使者たちは、一人一人祈りを口にする。
「勇ましき者たちの魂が、安らかに眠りますように。」
最後にイザリエ王国のレオンハルト王がそう言い、白いカミツレを海に流した。
集まった民衆も、皆静かな面持ちで見つめていた。
鎮魂の儀が終わった。今度は夜会の準備をしなくてはならない。
「面倒だな・・・」
「なにかおっしゃいましたか?殿下。」
フィリップのつぶやきを拾った侍従が問う声に何でもないと返す。
馬の支度を急がせて、飛び乗った。
「急ぎ城へ戻る。」
そう声をかけて、馬の腹を蹴ろうとしたときだった。
「きゃあああっ!」
少女の悲鳴が聞こえた。
「何があった!」
慌てて馬を駆けて声の方に向かうと、一頭の馬が暴れている。その上に小柄な少女が乗っていた。
「姫さまぁっ!」
「誰か、誰か早く姫を助けて下さい!」
少女の侍女だろうか、数人の女性たちが半狂乱で叫んでいた。
・・・しかし姫とは、面倒なことになった
「おい、そなたたち、いったい何があったのだ?」
「フィリップ王太子殿下!」
「実は、町の子供が姫様の馬の前に飛び出してきてっ、姫様はそれを避けようとして!」
慌てているが、さすがは侍女か。言っていることはよく分かった。
「分かった、私にまかせろ。」
面倒だが、客人にけがをさせる訳にはいかない。馬からするりと降りる。近くに丁度よく、品物を入れた木箱が積み重なっていた。
「・・・馬を頼んだ。みな、道を開けろ!姫君、こちらの方へ馬を走らせて下さい!」
声の限りに叫ぶと、フィリップは木箱の上に駆け上がった。馬の背より高くなる。
何とか制御したのか、少女の馬がこちらへ走ってきた。
馬が目の前まできたとき。
タイミングを見計らいって、フィリップは少女の後ろに飛び乗った。
急いで手綱に握り、馬の腹を両足で抑える。
もともとは大人しい馬だったようだ、程なく馬の足どりはゆっくりになった。
伊達に王子さまをやっているわけではないのだ。と、心の中で自画自賛する。
馬を止めて、ひたすら身を縮めていた少女に手を貸して馬から降ろす。
豊かな淡い金髪が風にそよぎ、ようやく顔が見えた。
はぁ、とため息をつく。
「・・・大丈夫ですか、フローレンス王女?」
一応、優しく声をかけてみた。
するりと、彼女はゆっくりとフィリップの方を見て、
「まぁ、童話の中の王子さまのようだわ。ありがとうございます、フィリップ様。」
とふわふわっと笑った。