朗らかな王女
「すみません、もう一度おっしゃっていただけますか?」
自分の耳を疑ったフィリップは、目の前の父と母に問う。
「だから、今回招いた姫君の中から妃を決めろと言っているんだ。」
「・・・・」
予想通りの展開だ。そうでなければ、国賓の姫の多さの説明がつかない。
思わず沈黙してしまっていると、それまで黙っていた母が、若い頃から年を取ることを忘れたのではないかと思うほど美しい顔に笑みを浮かべた。
「貴方の子どもはきっと可愛いわよ。」
「はっ?!」
今とんでもない言葉を聞いた気がする。
「・・・貴方が心配なのよ、フィリップ。貴方は責任感は強いけど息抜きをしないから、重責に押しつぶされるのじゃないかって。」
急に真面目な顔をして母が言った。
「それで妃をと・・・」
「そう、少しでも貴方の支えになる人がいれば・・・」
「それなら。」
母の言葉を遮って、フィリップはふいっと横を向いた。
「父上にとっての母上のように、私を思ってくれる人がいればしますよ。結婚。」
黙ってしまった父と母に背を向けて立ち上がり、部屋を出ようとする。すると、後ろから父の声が聞こえた。
「気負うなよ。お前は俺の息子だ、きっと良い王になる。」
・・・・・・・・・・
最上級のドレスに輝く宝石、財力と権力を合わせ持つ王族の、それも王の娘として生まれたからには、自分勝手は許されない。自由はないし、上品でいなくてはいけない。
だからなんだ。
いろんなしがらみがある分、いろんなものを楽しめる。
責任に押しつぶされるなんてごめんだ。
王族は不自由だけど自由。王の娘として生まれたことと不満はないし、どうせなら楽しみたいではないか。
これがフレライン王国国王アルバートの第一王女、フローレンス・ヴァレット=ランドディアスの持論だった。
「まぁっ!イザリエ王国の王都に来るのは久しぶりね!相変わらず、なんてきれいな街かしら。」
馬車の窓から顔をだし、フローレンスは歓声をあげた。
「姫様、危ないので顔を引っ込めて下さい。」
侍女のヘレナと、その母でフローレンスの乳母のマリアがフローレンスをたしなめた。困ったように苦笑しているが、ふたりとも天真爛漫なこの王女を微笑ましそうに見ていた。
今年の春で17歳になり、本格的に社交界に出るようになってから、フローレンスは貴族の男性たちを振り回していた。
緩く波打つあまそうな淡い金髪、エメラルドグリーンの瞳は活き活きと輝く。顔立ちは、ちょっと目がつり気味だが、もともと可愛らしい容姿なので、子猫のような雰囲気がある。
しかし、本人は自分の魅力を自覚していないのだが。
いつ結婚してもおかしくない年齢だが、まだしてほしくないなぁと思うマリアとヘレナなのである。
「あぁ、姫様。お城が見えて参りましたよ。」
マリアがかけた言葉に、フローレンスはまたしても瞳を輝かせた。