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王太子と王女のめでたしめでたし

 アルナト大祭の最終日。

 海辺に集まった人々は、それぞれに願いを込めて作ったランプを空へ飛ばす。

 温かな光が人々の腕の中で輝いていた。


「なんて・・・なんて綺麗なの・・・」


 フローレンスは夢見ごこちで呟いた。

 夕日の落ちゆく薄暗い空の下、一つ、また一つとともっていくランプの光がとても幻想的だった。まるで・・・まるで、そう。命の灯火が、次々と灯っていくようで。


「・・・英雄たちの御霊が鎮まり、我らが同朋たちに栄華を与え賜らんことを。」


 神に祈る。と、レオンハルト王が祈りの言葉を捧げた。フローレンスも、フレライン王国の代表者として、皆の幸を祈る。

 今日でアルナト大祭は終わり、フローレンスも明日には帰国の途につかなければならない。


「・・・さて、マリア、ヘレナ。帰り支度をしましょう。明日の朝には出発したいわ。」


 マリアとヘレナの方を振り返ると、彼女たちは怪訝そうな表情でフローレンスを見返してきた。


「・・・マリア?ヘレナ?」


「ここまで来ても、まだ帰ると言うのかい?まったく貴女は・・・鈍いにもほどがある。」


「フ、フィリップ殿下!」


 レオンハルト王の隣で祈りを捧げているはずのフィリップが、後ろからひょいと現れた。


「鈍いって、何のお話ですか?」


「・・・やっぱり鈍い。」


「ですから、何の___」


 ぐいっと腕を引っ張られた。


「え?」


 引っ張られるままに、フィリップについていくとイザリエ王族が揃う場所まで連れて行かれた。


「え、なんで?あの・・・フィリップ殿下!?」


「今ここに、王太子フィリップの名において宣言する!」


 ちょうど祈りが終わり、静まっていた海辺に、フィリップの声は良く響くな、とどこか他人ごとのようにフローレンスは考える。


「イザリエ王太子フィリップは、ここにいるフレライン王国王女フローレンスと婚約し、ゆくゆくは彼女を妃にしようと思う。賛同いただけるのならば、拍手を願う!」


 フィリップの言葉が終わった刹那、海辺には割れんばかりの拍手が上がった。


「・・・これで外堀は埋まったかな。ほら、皆が祝福をしてくれているよ。手を振り替えして?」


「えぇ。・・・わたしは、貴方の妃になるの。」


・・・・・・・・・ん?妃?


「結婚は来年でいいかな?盛大なものにしたいよね?」


「・・・・・・・ちょぉっとまってくださいなぁぁぁ!!!」





 このあと、フィリップにきっちり外堀を埋められていたフローレンスは、父王公認のもとイザリエ王国にとどまり、翌年の春フィリップと結婚した。そしてその年の冬には一人目の子供を産み・・・・・少し、結婚してからの日数と出産時期が合わないのは公然の秘密である。






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