序
近頃は街中が騒がしい。
あちらこちらで祝いものが売られていて、観光できた外国人の姿も多いようだ。
「そろそろ、アルナト大祭の時期だもんなぁ。お前、誰かと祭行くのか?」
窓際に立って街を見下ろしながら、レオは行儀悪くクレープをぱくついた。
「そうね、いつもは家でちょっとしたパーティーがあるけど、今年はカントリーハウスまで帰れそうにないから、タウンハウスでひとり、かしら?・・・ていうか、行儀悪いわよ。」
「うるせぇなぁ・・・しっかし」
ぐしゃぐしゃっと頭を掻くと、机で書き物をするミリィのもとまで戻ってくる。・・・窓側を塞がれて暗い。
「ひとりぃ?さみしいな、お前。」
「よ、余計なお世話よ!貴方こそどうするの?」
「そうだなぁ、面倒くさい儀式の方に呼ばれそうだったが、どうにか親父に押し付けられたし・・・」
儀式、というのはアルナト大祭の鎮魂の儀のことだ。アルナト海での海戦の犠牲者を弔ったのがアルナト大祭の始まりである。
「・・・そう、殿下は残念がったんじゃない?レオのこと気に入っているみたいだし。」
「リチャードは絶対参加だからな。」
アルナト海戦から数百年、関わった王国の王家は儀式に絶対参加である。
「レオンハルト王も面倒くさい祭つくったよな。」
「面倒くさい言わないの。」
「・・・なぁ、ミリィさえよかったら。」
じっ、とレオがミリィを見つめていた。
「俺と祭に行かないか?」
ごくりと唾を嚥下する。
貴族制度が緩まり、もはや王家とは関係なく政治がまわる現代において、未だ家に囚われる者。
それが、ミリィとレオだ。
「わたしは・・・」