vs.勇者 後編
「何故笑っているのだ。この状況で。」
「さあな。なんとなく、とでも答えておこうか。」
「仲間もやられ満身創痍のこの状況だ、無理もないか。では魔王よ、俺が引導を渡してやろう!」
そう言い再び剣を掲げ、詠唱を始めた。
「させるかよ!ファイア!」
火球は一直線にアンク目がけて飛んでいった。だが、当たる寸前に衝撃波が生まれ火球を掻き消してしまった。
「ちっ…」
「その程度の魔法では、止められんぞ!俺の魔法、光滅剣はな!」
「だったら、これはどうだ!アイスバレット!」
放たれた氷弾はアンクの光滅剣の一振りで砕け散ってしまった。
「らぁっ!せやっ!」
続けざまに繰り出される斬撃を一撃目は横に、二撃目はしゃがんで避けた。
「ちょこまかと避けるだけか魔王!この臆病者め!」
「俺を、舐めるなよっ!」
俺は記憶の海馬を辿りつつ手に魔力を集中させる。
「どうした!またさっきの様な初級魔法で苦し紛れの反抗をする気か!」
「具現魔法、具現化・武装発動!」
発動した瞬間、右手に剣の重みが加わった。両刃の剣、バスタードソードだ。
「うわっ、意外に重っ…」
「具現魔法…?それがお前の奥の手か!だが、そんな剣一本で俺に太刀打ち出来るとーー」
「まだだ!」
そして、再び魔力を集中させる。
「もう一本剣を具現化したところで、俺の魔法は破れん!」
「確かに、一本ならな。だが数が多かったら、どうする?」
「何だと?」
そして地面に剣や槍、斧などの武器を十数個具現化した。
「残念だったな!幾ら出そうが、持てなければ意味が無い!」
「どうかな?操作魔法!自動攻撃発動!」
その声と同時に武器が浮かび上がり、俺の周りを円を描くようにして浮かんだ。
「なん…だと…」
「おー、意外に出来るもんだねこういうのって。」
あっけらかんとしている俺に対し、アンクは驚愕していた。
「さあどうする勇者よ。今降参すれば、命位は助けてやるが?」
「俺を…俺を、舐めるなぁぁぁぁ!!」
一瞬の静寂を切り裂くかの様に襲いかかってきた。持っている剣の刀身は更に倍の大きさになっていた。恐らく魔力を限界まで込めたのだろうか、十数メートルはあろう剣が俺に迫る。
「喰らえぇぇぇ!!」
「怒りで周りが見えないのか?隙だらけだぞ!」
ガラ空きになった懐に槍は独りでに刺しにかかる。が、その攻撃は読んでいたらしくそれを弾く。
「甘い!そんな攻撃で俺がーー」
一瞬行動が止まったのは、異なる軌道を描きながら自分に襲いかかってくる武器たちを見たからだろう。慌てて我を取り戻しそれを弾こうとするが、剣が大き過ぎて振り払うことが出来ない。解除したところで防げるのはせいぜい一つか二つ、残りの十個は間違いなく当たる。
「…おのれぇぇぇぇ!!!覚えておけ、魔王レン!次会うときは必ず貴様を仕留める!テレポートッ!」
テレポートを発動させ、アンクは姿を消した。その為、標的を見失った武器たちは動力を失った絡繰人形の様に地に落ちた。
「はぁ…はぁ…」
出せる限りの全力を出し、疲れた俺は地面に座り込んだ。
「つ、疲れーー」
「やりましたねレン様!」
先程まで倒れていたレゼリアが俺に抱きついてきた。
「お、おいレゼリア!何してるんだよ!ってか怪我はどうした!?」
「レン様が戦っている間に回復完了しました!もう動けます!ありがとうございました!」
捲し立てる様に言われ何か言い返す気力もなくただただ抱きつかれてしまっているが、結構恥ずかしい。
「なぁ、いい加減離れてくれよ…。疲れてるから…」
「おっとそうでしたね!」
レゼリアは俺から離れ、俺はよろめきつつも立ち上がった。
「とりあえず、一旦レカバに帰るか…」
「そうですね!んじゃレン様、テレポート使って下さい!」
「…考えたら、洞窟から出た時点でテレポート使えば良かったんじゃ…」
「…まあ、過ぎたことは仕方ないですよ!おかけで新しい魔法も使えるようになりましたし!」
確かに、この戦闘のおかけで操作魔法を新たに使えるようになった。魔法を組み合わせて使うこともできた。ある意味大きな収穫だろう。
「んじゃ行くぞ、テレポート!」
発動と共に、俺たちの意識は空へと駆けて行った。
「おお、退治してくれましたか!」
カゲンの屋敷に戻り退治したことを伝えると、あらん限りの感謝を伝えられた。流石に勇者のことは知られたくないので伏せておく。
「かなり疲れましたけどね。」
「そうですよ!何かお礼でも貰わないと割りに合いませんよ!」
「おいレゼリア!失礼だぞ!」
「ほっほっほ。若い者は元気があってよろしい。」
レゼリアの冗談を笑顔で受け流した。そんなやりとりに笑みを浮かべつつ話を続ける。
「さてお二方、退治してくれた礼にささやかながらこれを差し上げましょう。」
カゲンはソファの下から一振りの太刀を差し出してきた。
「私は若い頃、世界を旅しておりましてな。この時に使っていた太刀です。どうかお受け取りください。」
「いえ、そんな大事な物受け取れません!」
「なぁに、私のような老いぼれが持っていても錆びになるだけ。この剣は冒険者たるあなた方に使われた方が幸せでしょう。」
「…そうでしたらその太刀、頂戴します。」
少し震える手で太刀を受け取り、鞘を抜く。その銀色に輝く刀身は今でも現役で使えることを表していた。
「ありがとうございます!こんな上等なものを戴けるなんて!」
「なに、鈍かもしれませんがどうか使ってやって下さい。」
カゲンに一礼し、貰った刀を腰に付けソファから立ち上がり立ち去ろうとすると声をかけられた。
「これから、何処に行くのですかな?」
「あー、特には…」
「まぁ、王都に行こうかなーって考えてます」
「でしたら、ここを東に行った所にあるワドパスの街が良いかと。あそこは魔法業が盛んらしいですからその街の移動魔法を使えばすぐです。」
「確かに、そこなら一瞬ですね!」
「そうなのか…」
無論ワドパスなる街に覚えはないが、レゼリアが知っているようなので納得する。
「色々とありがとうございました、カゲンさん。」
「いえいえ、礼には及びませんよ。お二方もお元気で。」
「カゲンさん!体調悪くしないで下さいね!」
「えぇ、気をつけるとしましょう。」
そんなやりとりを交わし、カゲンの屋敷を出た。
「いざワドパスの街へ、行きますよレン様!」
「よしっ、行くか!」
レカバを出て、一行はワドパスへと向かう。
「さて…ワドパスはこっちかニャ?」
その頃、レン達と同じ街に向かう冒険者の影があった。
拙いですが、見て頂ければ幸いです。
2017/05/11 短過ぎたので話を繋げました。