vs.勇者 前編
「見つけたぞ、魔王!」
声の先に居たのは、剣と盾を装備した男だった。
「一体誰ですか貴方は!?」
俺が問う前にレゼリアが男に問いかけた。
「我が名は勇者アンク!国王、シュトルム陛下の名により貴様らを討ちにきた!」
「シュトルムですって…!?」
「誰だか知ってるのか?」
未だ状況を把握しきれてない俺に呆れたのかレゼリアが耳元で囁く。
「私達をこんな目に遭わせた張本人ですよ!」
「…マジ?」
「マジもマジ、大マジですよ!」
無論実感は沸かないが、魔族をなかば壊滅状態に追いやった王の尖兵たる勇者が目の前にいるということは分かった。そして一つの疑問が生まれた。
「何故俺が魔王だと分かった!」
別にこいつの目の前で魔王と名乗ったわけでもないので知られる筈がないのだ。なのに何故知っているのだろうか。
「なに、少し前に手負いのゴブリンを倒してな。そやつが最期に"てめぇなんか、魔王様にかかりゃイチコロなんだ…!魔王様は今、北の洞窟に向かって俺が前に盗んだ物を取り返している頃だろうよ…!せいぜい気をつけるこったな…!"などと戯言を言っていてな。半信半疑で来たら、お前達に出くわしたわけだ。まったく、あのゴブリンに礼を言わねばな!」
あのゴブリンは俺を魔王と認めてくれていたのだな、と思い心の中で冥福を祈った。
「さて、話はここまでだ。魔王レン!その命、貰い受ける!」
「やるしか…ないか!」
「待ってくださいレン様!」
臨戦態勢に入ろうとする俺を止めたのはレゼリアだった。
「どうしたんだ、レゼリア?」
「ここは、私がやります。」
予想だにしなかった応えだ。ここまで俺のサポートをしてくれてた彼女が戦闘をする、想像がつかない。
「何でだよ!?これは俺の戦いなんじゃ…」
「…あの勇者さん、結構強いかもしれないです。多分今のレン様では太刀打ち出来ないかと…」
「じゃ、じゃあお前だって危ないだろ!?」
「大丈夫です!」
「何でそんなことが言えるんだよ!?」
「私は貴方の側近、ですよ?じゃあ、行ってきますね!」
「お、おう…」
この場に不似合いなポジティブさに圧倒され、彼女を止める暇がなかった。そして勇者との戦いに臨んでいった。
「なんだ小娘?よもやお前が俺と戦う気か?」
「小娘じゃありません!私はレン様の側近、レゼリアです!貴方の相手なんかこの私で充分です!」
「ははは!言ってくれるなレゼリアとやら!まぁ、側近と言うからには女子とはいえそれ相応の覚悟で臨もう。死んでも恨むなよ?」
「そっちこそ、負けて吠え面掻かないようにして下さいね?」
レゼリアは先程買った小刀を手にとって構えた。勇者と名乗るアンクという青年も剣と盾を構え直し態勢を整える。そして、数秒の静寂の後ーー
「ハァッ!」
「せいやっ!」
掛け声と共に二人の剣がぶつかった。アンクの剣の一振りをレゼリアは小刀で受け流し、彼女の小刀での一刺しを彼の盾が防ぐ。
「中々にやりますね…!」
「ふんっ…なら、これならどうだ!」
そう言うと剣を上に掲げ何やら唱え始めた。無論その隙を逃す訳もなくレゼリアは距離を詰める。
「せいっ!」
その切っ先が届く寸前、アンクの周りに衝撃波が生まれ、レゼリアを吹っ飛ばした。
「きゃあっ!」
「レゼリア!」
「どうした!その程度か!」
アンクの掲げている剣を見ると、刀身が元の数倍になっていた。と言うより、剣をオーラ状の刀身が纏って数倍の大きさになっていると言った方が正しいのだろう。
「今度はこっちからいくぞ!」
そう言い、レゼリアに剣を振りかざす。身長の三倍はあろう刀身が彼女に迫る。
「くっ…この!」
レゼリアは素早く詠唱を済ませ自身を覆う盾を貼った。だが、剣はそれを看破し彼女を襲う。
「きゃああああ!!」
「レゼリアぁぁぁ!!」
悲鳴と血しぶきを上げ、倒れた。駆け寄って見ると、急所は外れていた。恐らく当たる直前に斬撃をずらしたのだろう。
「レゼリア…!血が!」
「大、丈夫ですよレン様…。こんな傷、回復魔法かけたらすぐに治りますよ…」
気丈に振る舞うがどう見たって大丈夫じゃない。かといって、回復が終わるまで奴が待ってくれる訳もない。
「ははは!まさかこの程度とはな!ま、所詮はガキ。これで終いだぁっ!」
顔に笑みを浮かべ、剣を構えて突進して来た。レゼリアを抱えて避けるには時間が足りない。こうなったら、手段は一つしかない。
「アイスバレット!」
手から氷弾を放つ。アンクは突進を止めてそれを回避し、距離を取った。
「ほう…。」
「レゼリア、よくやった。後は俺がやる。」
「ですが、レン様…」
「俺を、誰だと思ってんだよ?」
レゼリアは困惑しつつも顔に笑顔を見せた。
「分かりました…!ですが、その前に…」
そう言うと俺の頭に手をかざし何やら唱えた。すると脳内に新たな情報が加わった。
「これは…!」
「頑張って、下さいね…!」
「別れの挨拶は済んだか?」
振り返ると、余裕の態度でこちらを見ていた。
「ああ、整ったぜ。お前を倒すための準備がなぁ!」
その時の俺は、口元に笑いを浮かべていた。
拙い文ですが、見て頂ければ幸いです。